だからって根こそぎ食べられても困るけど
メニューを大体決め終えたあたしが、今度向かったのはシド君の所、バイキングには必要不可欠な料理を陳列する机を発注するためだ。
因みに、オーレンは海猫亭に置いてきた。ってか、奇跡的に置いてこれた。なぜかというと、オッティーさんがお菓子を作り始めたから。我が息子は、食い意地が張っているのはもちろん、その作業工程を見るのがものすごく好き。容姿はオービルそっくりなんだけど(ただし、大人のオービルしか知らないあたしにはいまいち納得はいってなかったりするけど)、中身はまんまあたしなんだよね。
同時に、なんか一気に気抜けした感じ。あっちでも最初からこの子を厨房に連れて入れば良かったのかってね。けど、王室御用達のレストランでフツー子供連れて仕事するって発想は浮かばないよね。で、お菓子作って食べさせてもらっている間に行ってくることになった訳。
だけど、シド君はまだ帰っていなかった。あの頃、(特に私生活で)危なっかしかったシド君も、今ではすっかりいっぱしの親方で、あちこちの現場を飛び回っているらしい。でも、もうすぐ帰って来るというので、待たせてもらうことに。配膳台を発注したいと言うと、
「ノーマ様、ヘイメでお店を始めるんですか?」
と、モナちゃんの顔が輝く。
「王都で人気の料理がここでも食べられるんですね」
と言うモナちゃんに、
「ううん、それとはちょっと違うかな。確かに、ケイレスで作っていた料理もあるけどね、それだけじゃないんだ。
あのね、最初にお金を払えば、ランチタイムの間、並んでいる食べ物や飲み物はどんだけお代わりしても良い、そんなお店を作りたいのよ」
とバイキングの説明。
「ええーっ! そんなことホントにできるんですか?」
すると、モナちゃんも目をまん丸にして叫び声を上げる。けど、そんなにびっくりすること? バイキングが当たり前に存在していた日本にいたあたしにはいまいちその驚きが信じらんない。
実際日本にはホントいろんな種類のバイキングがあったもんね。でも、あたしが異世界人だということは本当に一部の人間しか知らないので、曖昧に、
「できると思うよ」
とだけ言う。
「でさぁ、モナちゃんも400ギルだったら食べにくる? 日替わりで15種類ぐらい用意するつもりなんだけど」
「ええーっ、たった400ギルで15品も食べられるんですか!!」
行きます、行きますと、手を握ってブンブンと振り回すモナちゃん。
「今帰ったぞー……モナ、何してんだ?」
そこに帰ってきたシド君。自分の奥さんが客の手を握ってうるうるしているのを見咎めて、一気に不機嫌になる。ああ、あたし女で良かった。男だったら一発殴られそうな勢いだ。
「あ、シド、お帰り。何よ、ノーマ様がいらしてるのに、その不景気な顔は」
そのシド君を上目遣いで睨み上げてそう返すモナちゃん。
「お、あ、お久しぶりっす」
シド君も来ているのがあたしだと分かって慌ててそう言って頭を下げる。
「お久しぶり、シド君もすっかり親方だね」
あたしがそう返すと、
「いや、えへへ、まっだまだっすよ。
モナ、おめぇ何そんなに興奮してんだ」
シド君は頭を掻きながら、そう尋ねる。
「あ、そうそう、すごいんだよ。ノーマ様が今度レストランをオープンするんだけどさ、15皿が400ギルなんだって!」
それに対して、興奮気味で説明してくれるモナちゃん。でも、それってちょっと違う。
「15皿で400ギルなんてマジあり得ない。お前、俺を担ごうとしてんだろ」
ほら、やっぱりそう思っちゃうでしょ。
「別に騙そうなんて思っちゃないわよ」
「えっ、本当なんすか?」
「ウソじゃないよ。ただし、マジで15人前食べられちゃったら困るけどね」
あたしは改めてシド君にバイキングの説明をした。
「好きなものを好きなだけかぁ、それホントに良いっすね。
俺、小僧たち連れて毎日行くっすよ」
で、早くも常連宣言するシド君に、
「ダメだよ、あんなの毎日連れてったら、お店すぐに潰れちゃうよ。
400ギルはやっぱ安すぎだわ。ノーマ様、こんなのには2割増し、ううん、倍取ってもいいですよ」
慌ててそう言い出すモナちゃん。確かに、若い現場仕事の男の子たちは、相当食べそうだよね。にしたって、倍にしたら女の子が元を取れなくて諦めちゃいそう。そうだ……!
「男と女で料金変えて良いかな。女の人はそのまま400ギルで、男の人はうーんと、500ギルで」
確か、焼肉バイキングかなんかで、男女で値段が違う店があったはず。
それに、男の人って、大きなお金をそのままポケットに入れてるだけとかって人多いもんね。その意味でも500ギルなら、銀貨一枚だからお釣りがでにくい。全くでないとは言えないけど、予めお釣りがでないようにしてもらうように、口コミしていけば良いんだ。その点、女の人は小銭を持ってることが多いし、小銭でちゃんと払いたい人が多いから、400ギルでも大丈夫だろう。男の人だけでもワンコインにできれば、レジもずいぶん楽になるし、一石二鳥、ううん、三鳥の案かも。
やれる! あたしは改めてこのバイキング計画に手応えを感じていた。




