あたし、坊主なんかじゃないってぇの!
みんなが残念な子目線で遠巻きに見ている中、あたしの盛大なお腹の音を聞いて、吹き出した男がいた。
「お、オービル!」
みんながぎょっとして注目する中、どうやらオービルと言う名前らしい30後半ぐらいのその男は、
「おい坊主、腹減ってんのか? じゃぁ、飯食わせてやるよ、付いて来な」
そう言ってあたしの頭を撫でた。ちょっとおっさん! あたし男じゃないわよ。しかも、一体いくつだと思ってんの? あたしは、撫でられた手を叩いてオービルを睨みあげた。
「おお、威勢がいいな。しかし、とんがってばかりじゃ世の中渡って行けねぇぜ。人の好意はありがたく受けた方が得だぞ」
だけど、オービルはお構いなしでそう言いながら、あたしの脇に手を突っ込んで、菊宗正ごと担ぎ上げたのだ。
「きゃぁ」
思わず上げてしまった声にも、
「なんだ坊主、女みたいな情けない声出しやがって」
と笑う。まだ言う? 抱え込んでる腕にばっちり胸あたってんのに、いい加減気づけよ。にしても、菊宗正もこいつは何で吹っ飛ばさないのよ! あたしが心の中でそう叫ぶと、
『さすれば此奴は飛ぶが、同時に主も確実に飛ぶぞ』間髪入れず、返ってくる菊宗正の声。解ってるわよそんなことくらい。だけど、乙女の危機なのよ。察しなさい。そしたら、
『此奴は主を乙女だとは思っておらんようだから、大事ないと思うが?』
なんて、のんきそうな答えが返ってくる。やかましいわ! 決めた、呪われてもいい、今すぐこいつを売っ払ってやる!!
『それは此奴のことを言ってる訳であって、我がそう思ってるのではないわ』
そしたら何故か、菊宗正は慌て気味でそう返した。そうよね、こいつってば野間の家に寄生してるんだもんね。あたしが意地悪くそう心の中で言ってやると、
『寄生とな、戯けが! 我は主の一族を代々守ってきた、守り刀ぞ、それを寄生とは!!』
菊宗正はそう言って怒った。もし色が変わるならきっと真っ赤っかになってたろう。
ふんだっ、少々チートな技が使えるからって、偉そうに言うんじゃないわよ。なんだかんだ言ったって、あたしやじいちゃんが持ち歩かなきゃ、ぴりっとも動けないじゃん。
『ぐっ……』
へへへっ、あたしの勝ちぃ~! ざまぁみろって。ま、菊宗正の顔がどこなんだって言われたら、困るけど。ところがその時、
「ところで坊主、お前何で一人百面相なんかやってんだ?
それにしてもお前、体フニャフニャだな。男は鍛えないと、立派な騎士になれないぞ」
オービルがそう言ってあろう事かあたしの胸をごつごつした手で揉んだのだ。
「何すんのよ、このエロ親父! あたしは女よ、バーカ」
「お、女って……坊主……」
驚いて緩んだ手をすり抜けて地面におりたあたしが、呆けているオービルの顔に、グーでパンチを入れてやったのは言うまでもない。