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刀様の言う通り!?  作者: 神山 備
Taverna la Bianca
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味覚障害の原因

 味覚障害の原因が妊娠かもしれないと言うエルドさんは、

「今まで、サー・レクサントが既にみまかられておられるので、そこに気づかなかったのですが、つい最近までご存命だった訳ですし、第四の可能性は全くないとは言い切れないですよね。

大体、男って種族は、自分の死期を悟ると妙に子孫を保存したくなる衝動に駆られるものですからね。実際、遠征の直後に懐妊される方が増えるのは有名な話ですし、サー・レクサントもそうだったのではないかと」

と続けてそう言った。

「で、でも遠征の後に妊婦さんが増えるのは、当然旦那様が戦地に行くくらい元気だからでしょ? オービルは……」

「確かにそれはそうですが、サー・レクサントの場合、元々の原因が内疾患ではなく外傷。しかも、そこに難がないのは、マリエルで実証済みですから」

当惑するあたしに、エルドさんはにこっと笑ってそう言ってから、

「サー・レクサントは、罷かる少し前、ウチのマチスを見ながらぽつっと『一人じゃ可哀想だな』とつぶやいておられたりもしましたし」

とビックリするような事を付け加えた。実はエルドさんは7人の子持ち。ちなみにマチス君は女の子ばかり続いたバーンズ家に5人目にしてやっと生まれた男の子だ。頑張ってるエルドさんに絆されて?

「にしてもさ、自分が居なくなった後、子供に伯爵家を背負い込ますのはどうかって言ってたのはオービルの方だよ」

あたしの方から誘わなきゃなんなかったんだからさ。あー、あの時のこと、思い出すだけで恥ずかしいわ。だけどエルドさんは、

「そのお話をされたのは、きっとお二人の頃ですよね。

ですが、実際にマリエルを育てたことで、いくら子供が大きくなろうが、親が心配する気持ちは減らないと悟られたんじゃないでしょうか。子供なんて、大きくなればなるほど心配は増しますからね。

それならば、一人よりも二人の方が兄弟協力してあなたを支えることができるとお思いになったんじゃないですか」

間髪入れずそう返した後、ホントにそうなんだろうかと考え込んでしまったあたしの顔を見て、

「あ、あの……もしかして営みなどなかった……申し訳ありません!! とんでもないことを口走ってしまいました……」

と言って蒼白になり謝るエルドさん。にしても、今頃気がつく? 賢いくせに直情型なんだよね、この人。

「ううん、間違ってないよ」

「えっ……?」

「そもそもそういうことしてなかったら、最初の時点であたし大声で全面否定してるから」

そりゃそうでしょ。あたしももしかしたらと思わなきゃ、最初からエルドさんの話も聞かないよ。


 そう、実はオービルは死ぬちょっと前、一週間ほどすごく元気になったことがあったのだ。で、その時心配するあたしを後目に、オービルは強引にやりきっちゃったんだよね。内心、それが彼の命を更に縮めたと悔やんでもいたんだけど、オービルの方も自分の代わりに新たな家族を残そうと必死だったのかもしれないと思ったら、涙が出てきた。オービルがそんなことを思ってたなんて、あたしちっとも気づかなかったよ。


 エルドさんの想像したとおり、味覚障害の原因は悪阻つわりだった。急にカレーが食べたくなったのも、妊婦特有のミョーなものが衝動的に食べたくなるあの症状。味覚も安定期に入ると徐々に戻って、今度は食欲を抑えるのに苦労するほど。


「やっぱり8人目!」

そして、エルドさんが今までスルーしてきた事実に着目したのは、自分の奥さんのクララさんもオメデタだったからだ。3番目のカレンちゃんの時に鼻炎みたいな悪阻つわりだったなぁって思い出したんだってさ。

 因みに、あのカレーは実はそんなに辛くなかった。子沢山のバーンズ家では間違っても激辛メニューなど出てこないので、エルドさんの舌がお子ちゃま化していただけだった。


 また、この時を機に始まったあたしの朝の日課が……


「きえーっ、きえーーっ!!」

台所で食材を前に菊宗正を振るうこと。すると、あたしにとってその日食べたい食材が飛んできて勝手に下拵えされる。あたしは、それを眺めてその日の献立を考えるのだ。


 そして、オービルが命をかけて授けてくれた命は順調に育ち、あたしは半年後、男の子を産んだ。


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