入れ替わった人
急に大泣きしているあたしに、おろおろするジェイ陛下とジュディーちゃん。
さらにあたしを落ち込ませたのが、菊宗正がやっと思い出した入れ替わった女の人の名前で……
『おお、そうだ、女の名はコーデリアと言ったな。コーデリア・レジュールだ』
それは、幽閉されたはずのジェイ陛下の元正妃様(今は、ナタリアさんがスライドで正妃になっている)のものだった。
「ね、ねぇジェイ陛下……あの……その、コーデリア様って、いったい今どこにいるの?」
しゃくりあげながらそう聞いたあたしに、
「いきなりなんなの? ……コーデならセフィロタの森だよ」
と言うジェイ陛下。やっぱり……間違いなく、あたしと入れ替わったのは元正妃様だ。
「ホントに、今でもそこいる?」
そう言うあたしに、ジェイ陛下は明らかにギクリと肩を揺らした。それでも一旦は首を縦に振ったけど、あたしの目に負けて、
「はぁ……ノーマちゃん、ホントどうしたの?
うん、実はコーデは今、行方不明。
レジュール縁の者に手引きされて、姿を隠したんだと思うけど、コーデ自体は被害者だったりするしね。密かに第2の人生を歩んでくれればいいかなって。でも何で、ノーマちゃんがコーデのことを気にしなきゃなんないの」
ため息をつきながらそう白状した。
「やっぱり……」
「やっぱりって、それがどうかしたの?」
「あのね……」
やっぱり言えない! だけど、
「ノーマちゃん、もしかしてコーデの消息を知ってるの?」
と、わんこみたいな目で尋ねるジェイ陛下の態度に負けて、
「ごめん、コーデリア様……あたしが殺した」
と言って、あたしはベッドの上で土下座した。
「そ、それどういうこと!?」
ジェイ陛下の息を呑む音が聞こえる。
「あたし、前に日本で殺されかけてこっちに飛ばされてきたって言ったよね。
あれね、何でこのアルスタットだったのかっていうと……あの時、セフィロタの森にいたコーデリア様と入れ替わったからなんだ。
コーデリア様はたぶん、入れ替わったあたしの代わりに日本で殺されてると思う」
更にそう言ったあたしに、
「嘘だ!」
とジェイ陛下が否定するのは当たり前のことだと思う。
「ウソじゃないよ、今菊宗正が『あたしと入れ替わったのは、コーデリア・レジュールだ』ってはっきり言ったよ」
続くあたしの説明に、
「それにしたって、それはノーマちゃんが殺した訳じゃない」
ジェイ陛下はどこかホッとした顔をしたけど、
「ううん、あたしが家から菊宗正を持ち出さなきゃ……」
正妃様があたしと入れ替わって、あのやばいおっさん満載の場所に急に放り込まれたって事実は変わらない。
「違うよ、確かノーマちゃんがここに現れた時いたのはセフィロタの外れの草原だったよね」
すると、ジェイ陛下はあたしの手をとってこう言った。
「うん」
森の中ではなかったのは事実だ。だから、あの時あたしは、多少時間はかかったけど、迷わず日が暮れるまでにヘイメの町にたどり着けた。
「じゃぁ、コーデの方が命をかけてノーマちゃんを呼んだんだよ。
ねぇ、ノーマちゃん、その剣も言ってたんでしょ、コーデが自殺しようとしていたって」
「!」
な、何! 実は、ジェイ陛下にも菊宗正の声が聞こえてたの?? 目を丸くしたあたしに、
「セフィロタの森に行ってから、コーデは何度も自殺未遂を起こしてたからね。さっきはあんなこと言ったけど、ホントはボクもコーデが見つからない時点で、死んでいると思ってたんだ」
ただ、死体が見つからないから、一縷の望みを抱いていただけというジェイ陛下。
「にしたって、アルスタットにいれば助かったかもしれないじゃん」
半ばヒステリックにそう叫んだあたしに、
「そうだね、助かったかもしれないけど、コーデはきっとまた、同じ事を繰り返していたよ。彼女にとって、王妃でない自分は無価値なんだよ。
ボクは何度も、コーデに、コーデ本人として生きろって言ったんだけどね。生まれてきたときから刷り込まれてきた価値観だからね、そう簡単には変われなかったみたいだ。
だから、ボクも同罪……ううん、ボクの方が絶対罪が重いよ」
ジェイ陛下は沈痛な面もちでそう反論した。




