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刀様の言う通り!?  作者: 神山 備
Taverna la Bianca
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すべてがウソのように

「何これ、ウソでしょ」

光に飲み込まれたあたしがたどり着いた所は、見覚えのある場所だった。明るいオレンジ色のカーテンに、同じ色のベッドカバーに、料理の本が乗った勉強机。そして、とどめに昔好きだったKーPOPアイドル宇宙皇子コスモプリンスのポスター。そう、ここはあたしの部屋、正確に言えば昔、アルスタットにとばされる前の……時計を見ると、えっ、10時半!? 大変だ、マリエルの学校!

 マリエルは今、基礎学舎(要するに小学校よ)の一年生。日本よりずっとのんびりなアルスタットだけど、さすが王都というか、マリエルの行ってる基礎学舎は、貴族の子弟ばっかの集まりだから、何かと五月蠅いんだよね。

【マリエル、マリエル! 起きたの?】

あたしがマリエルを探しながら階段を降りると、

「麗子、何大声だしてんの」

と、台所から出てきたのは、ママ。正真正銘のあたしのママ。ってことは、ここはやっぱり日本?

【ねぇママ、マリエル知らない?】

それでもあたしがそうママに聞いてみると、

「麗子、それ何語?」

とママが目を丸くする。

「アルスタットっていうかムオスカル語……」

ムオスカル語がアルスタットと周辺諸国の公用語だ。

「え? エスカルゴ? ああ、いまフランス料理の勉強をしてるのね」

そしたら、ママは自分に理解可能な単語に振り替えて一人納得した。やっぱりあたし、日本に戻ってるんだ……しかも、ママが怒ってないということは、たぶんあたしが家出する前か。じゃぁあたし、9年前に戻っちゃったって言うの??

「ねぇママ、今日は何月何日?」

慌てて聞いたあたしに、

「何を言ってるの、今日は○月×日、日曜日じゃない。あんた今日は本当にどうしたの」

勉強してもらうのは嬉しいけど、そこまでしなくても良いのよ、ママは心配気にそう返した。その日付は菊宗正を持ち出した日の週末だった。そうだ、菊宗正っ!

「菊宗正、菊宗正はどこ!?」

だけど、菊宗正が入れてあったガラスケースがない。

「菊宗正? あの気持ちの悪い刀なら、金曜日にちゃんと先方に無事お渡ししたじゃない。何寝ぼけてんの、いい加減ちゃんと目を覚ましてちょうだい。

圭介が今日帰ってくるのよ」

「お兄ちゃん帰ってくるの?」

圭介というのはあたしの5歳年上のお兄ちゃん。地方の大学に行って、その土地で就職している。

「どうやら、本命の彼女を連れてくるらしいわ。だから、さっさと顔洗って料理手伝って」

ママは顔を歪めてそう言った。ママは実際菊宗正が嫌い。そりゃそうかも知れない。実際ママは野間家にお嫁にきただけで、野間の血は一切入ってないからね。だから、最初に菊宗正を鑑定に出そうと言ったのもママだし。


 にしても菊宗正もういないのか……あいつがいたら今の状況をとっちめ……もとい、説明させるんだけどな。とにかくお兄ちゃんが帰ってくるのなら、唐揚げ作んなくちゃね。あたしの唐揚げは、下味はもちろん、揚げ油にマヨネーズをブレンドしてあるオリジナルで、たまに帰ってくるお兄ちゃんが必ずあたしにリクエストするものだ。けど、揚げ油にマヨを入れるなんて信じられないって? ホント、外はカリっと中はジューシーに仕上がるんだよ。騙されたと思って試してみて。

 実は、オービルパパもこの唐揚げが大好き。でもさ、最初唐揚げにマヨが入ってるって聞いて、マヨ好きのオービルパパ、暴れたんだよ。『そんなもったいないことするな』って。どんだけマヨ好きかって話。

 ただ、アルスタットの場合、牛豚はともかく、鶏やウサギなんかはは丸ごと売ってて、部位に切るとこから始めなきゃなんなかったんだよね。アレは、正直慣れるまでキツかった。日本じゃ、料理人だってあんまし丸ごとに遭う事なんてないもんね。

 そして、あたしは冷蔵庫から当然のように切り分けられているもも肉とお醤油(いいお醤油は冷蔵保存が基本だよ)チューブ入りのおろし生姜とにんにくをとりだす。ああ、アルスタットではこのお醤油にたどり着くまでが大変だったな。今では、ズータ豆の産地に味噌・醤油の工場ができるまでになったけど、マジで麹から作ったんだもんね。

 そして、下拵えのおわったあたしは、リビングへ。すると、今まで菊宗正の置いてあった場所に別の物が飾ってあるのに気付いた。小さな筆だ。家出するときは当然だけどこんなものなかった。

「何これ?」

とママに聞くと、

「コレ? 祥子から送ってきたのよ。夏菜ちゃんの髪の毛で作ったんですって」

祥子というのはあたしの7歳年上のお姉ちゃん。夏菜というのは、あたしが飛ばされる前の年に生まれたお姉ちゃんの娘だ。なんでも、初めて伸びてきた髪を剃って、筆にするという商売があるらしい。せっかく伸びてきた髪を剃って丸坊主にしちゃうなんて、赤ちゃん可哀想と思ったら、そうする方が、きれいに髪が生え揃うんだって。

「女の子の薄毛はねぇ」

とママ。でも待てよ……そうよ髪の毛、遺髪! 身体の一部なんて持って行けないけど、髪の毛ならそれができるわ!! オービルの髪の毛はすごく短かったけど、スキンヘッドじゃない。今ならお葬式からそんな経ってないし、間に合うかな……


 あたしはそこまで考えてはたと気づいた。あたしは今、日本にいるんだと。

 あたし、この先アルスタットに帰れるんだろうか。それ以前に、アルスタット自体が夢オチってことないよね……あたしはそんなことを考えながら夏菜ちゃんの筆の前で小刻みに震えていた。


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