えっ、何?
オービルは、国葬級のお葬式を経て、ケイレスが見渡せる高台に埋葬された。でも、あたしはなんだかそれが嬉しくなかった。いくらケイレスが見渡せたって、馬車で4日も離れたヘイメが見える訳じゃないから。一部でも、ヘイメに持って帰って上げたかった。
だけど、アルスタットは基本土葬。荼毘に伏せるのは疫病が流行ったときに二次被害を防ぐためだけなのだという。こっちにはこっちのやり方があるし、縦しんばまんまのオービルの一部を切り取ってヘイメになんて言ったら完璧ホラーだもんね。
それに、オービルの家族はあたしを含めすべてここケイレスにいる。ヘイメに拘る理由は何一つないのだ、でもあたしはもやもやしている。
それにしてもあまりにも眠れないので、あたしは台所に向かった。今日こそ純米大吟醸を飲もうと思ったからだ。
とは言え、あたしもオービルも普段はお酒は飲まない。オービルの場合は、悪化するからと飲ませてもらえなかったが正解で、あたしの場合はこっちにトリップしてきたの時まだ未成年だったから、飲まずにいたらそのままだっていうだけなんだけど、ウチの台所には料理用に純米大吟醸が置いてある。けどなんで、アルスタットに純米大吟醸とか言う? それはもちろんあたしが作ったから。せっかく良い米と良い水と麹があるのよ、作らない手はないでしょってことで。
厳密に言うと食べて美味しい米とお酒にして美味しい米は種類が違うんだけどね、嬉しいことに、お酒にして美味しい米も、ここアルスタットには存在していのだ。
あの麹を生み出してくれたお手柄お米屋さんも、今やあの“壊れた水冷庫”をもう2基建て増しするほどの盛況ぶりだ。で、お礼にとできあがった純米大吟醸を持って行ったら、
『あの場所にレクサント様がいらして本当に良かった。あの腐った米がこんなに美味しい酒になるなんて……』
と飲んで泣かれた。あの時、オービルも味見程度お相伴にあずかって、
『くそっ、旨いな。怪我のことがバレてなければもっと飲めていたのに……』
と、めちゃくちゃ悔しがっていたっけ……
「オービル、ごめんね、こんな事ならもう少し飲ませてあげれば良かったね」
あたしは小声でそう言いながら、純米大吟醸をコップになみなみと注いだ。だけど、あたしが、
「オービルの代わりにって訳でもないけど、今日だけは飲ませて」
と言ってコップをのぞき込んでビックリ。コップの中身が光っている。灯りを反射してるんじゃなくて、お酒自体が光を放っていたのだ。
「えっ、何?」
次の瞬間あたしは、その光の中に吸い込まれた。




