あたし、魔法使いでも呪われてもいません
「&%$#▽■◎♪↑~」
そして、先頭に立っていた男が発した言葉は全く聞いたこともない言葉だった。やっぱりかぁ……一応、予想はしてたけどね~、でも、実際に通じないと困るわぁ。あたしがこの町に殴り込みにきたんじゃないって、説明できないじゃん。
だけど、男の内の一人がにやにや笑いながら、菊宗正を手に取ろうとしたんで、あたしは反射的に、
「ダメ、触らないで」
と言って菊宗正を抱え込んでしまった。ダメダメ、この刀は『野間から離れると災いが起こる』のよ。実際、さっき盗られそうになってここに飛ばされちゃったんだからさ、これ以上飛ばされんのは正直ごめんだよ。でも、刀を取り損ねた男は、
「おっ、このアマ! 舐めたまねしやがる」
と言って、再び菊宗正をあたしから奪おうとした。やばっ、煽っちゃったかなと思った瞬間、菊宗正に触れた男は、
「あつっ!!」
と言って、後にすっ飛ばされた。それを見た男たちは、
「こいつ、魔法使いか!!」
とさらに警戒感バリバリに。ホント、絶体絶命……
にしても、冗談じゃない、魔法なんて生まれてこの方一度も使った事なんてないですよーだ。だとしたらコレも菊宗正の力? じゃぁ、さっきの時のもコレで良かったんじゃないの? そしたら、こんな訳の分からないところに居なくて済んだんじゃない……と、恨みがましく菊宗正を睨みつける。
『我は、ただ主を助けようとしただけぞ。それにな、彼方の輩は、此方の輩よりちと質が悪かったでな』
そしたら、頭の中に、そう言ってじいちゃんの声が聞こえてきた。
「じ、じいちゃん?」
『む、爺とは、なんだ。我は喬良ではないわ。我が名は菊宗正なり』
「菊宗正ぇ? 冗談」
あたしが思わずそう叫ぶと、
『我は戯言など言わぬ』
むっとした声でそう返ってきた。でもこの声、じいちゃんそっくりなんだけど…ってか、剣がしゃべるなんてフツーあり得ないでしょ!! 変なとこに飛ばされてる時点でファンタジーな展開なんだけどさ、これ以上ファンタジー色濃くしないでほしいよ。
それにしても反撃こないなぁと思って目を上げると、周りの男たちは顔を固まらせてどん引きしていた。ま、大の男吹っ飛ばした上に、剣と会話し始めたりしたらやっぱ変だよね。剣に呪われてるとか思ってんのかな。
「おい、司祭様を呼んでこい」
案の定、顔をピクピクひきつらせて、リーダー格の男がそう言う。それを受けてすぐに走り出した下っ端らしい若い男を、
「あ、待って! あたし呪われてなんかないから」
大声で呼び止めるけど、そいつは振り向いただけでそそくさと教会? 神殿? らしき所に走って行っちゃった。げっ、悪魔払いなんかされちゃたまんない。あたし何も憑いてないから!
そこまできて、あたしはいつの間にか彼らの言葉が解ることに気づいた。
『我の力だ』
すると菊宗正が自慢げにそう言う。
「へっ?」
まさかの同時通訳とか?
『今まで長き時を過ごしてきたのだ。言葉は時代により様々に変化を遂げておる。我の生まれし時と今とは全く異なる言葉というも過言ではない。それと同ことだ』
いや、古語と外国語は基本別物だと思うけど。
『主が我に触れておる間は、あやつらの言葉は主の国の言葉に直してやる』
しかも、中途半端にチートだし。ま、いっか……とにかくこれで状況は説明できるわけだし。ただ、ここの人たちがそれを納得してくれるかどうかは別だけどね。
ホントに助かった……かも。そう思ったら今までの疲れがどっと出て、猛烈な空腹が襲ってきた。
あたしは、
「きゅーぐるぐるぐる……」
という盛大なお腹の虫の要求と共に、その場にヘタり込んだのだった