第二のふるさと
オービルはヘイメに帰る途中も帰ってからもずっと不機嫌だった。
元々あんまりしゃべる方じゃなかったけど、更に無口になり、馬車の中はあたしだけがしゃべっている状態。最初の内はそれでもお城とか今まで見たことのない世界ばっかだったから、気にせずしゃべってたけどね、帰り着く一日前ぐらいになるとさすがに黙っちゃったよ。
で、家に着いてダリルさんとイオナさんの顔を見たら、すごくほっとした。ヘイメに飛ばされて約8ヶ月、ああ、いつの間にかここ、あたしん家になってたんだなって思った。
でも、すぐにここ、離れなきゃならないんだよね。大丈夫、あっちにはオービルのパパもママもナタリアさんもいる。きっとすぐになれる。でも、ちょっと寂しいな。
あたしがそんなことを考えながら鰹節を布で磨いていると、
「本当にそうして見ると、元が鰹だったとは、とても信じられませんわ」
宝石のようですとイオナさん。
「でもね、こうするとすっごく良い出汁が出るの。チョットずつ削って、長く使えるしね。
そうだ、これを削る道具が要るよ」
そうだよ、鰹節作っても削らなきゃ、意味ないじゃん。どうしたら……シド君に相談しよう。
「オービル、オービル、ちょっとシド君とこに行ってくる」
あたしがそう言いながらリビングに入ると、オービルはリビングのソファーで丸まって寝ていた。その姿が何となくぬいぐるみみたいだと思って、ちょっと笑っちゃう。でも、何となく出会った頃より一回り小さくなっちゃったような気がするのは……あたしの気のせいか。まだ31歳のオービルの背が縮んじゃうなんてことないよね。きっと丸まって寝てるからだろう。長旅で疲れたんだよね、そっとしておこうっと。
あたしは、イオナさんにシド君家に行くと言って出かけた。
実は、こっちの大工道具の中にも鉋のようなものがちゃんとあるのだ。それを元に、鰹節削りを作ってもらうつもり。だって、削るって原理は同じだもんね。
ただ、鉋は刃を下につけて置いてある木材の上を滑らせて削るけど、鰹節は刃を上につけて、鰹節そのものを滑らせる。で、刃自体を箱の中にビルトインさせて、下に引き出しをつければ、削り節は下の箱にたまるし、引き出しを開ければ使える。確か、日本の鰹節削りもそういう構造になっていたはずだ。
「へぇ、これが鰹? 信じらんねぇ」
シド君もやっぱり鰹節を見て目を丸くする。
「おっ、そう言われれば、魚の匂いがするっちゃするっすね。
しかし、相変わらず、すごい発想っすね、ノーマ様は。どこから、そんなこと思いつくんすか。
鉋ねぇ……そうだ、アレが使える」
と言いながら、棚から鉋をとりだし、台所から食用油を持ってくるとあたしに手渡し、自分は余った端材で箱を組み立て始める。でも、何で食用油? 首を傾げているあたしに、
「鰹の薄さは均一じゃなきゃだめっすか?」
と聞くシド君。
「ううん、別に。こまかくなれば良いよ」
どうせ、出汁をとるだけだからと言うと、
「なら大丈夫っすね。
実はそれ、鍛冶屋の見習いのマリクが作った失敗作なんすよ。微妙に刃が斜めになっちまってて、全体の厚さが均一にならないんっす。大工道具としては致命的で使いもんにならないんで、返すつもりだったんっすけどね。そのまま使えるなら、鋳つぶすより絶対いいっすから。
あ、ただ、何回か木、削ってますからそれで汚れ落としてください」
シド君はまた箱づくりの作業に戻る。そっか、金具を水洗いするわけにはいかないから、そのための油ね。食べるものだから、ちゃんと食用油を用意してくれたんだ。
シド君が引き出し付きの箱を完成させる間、あたしは丁寧に鉋の汚れを落とした。それを、ふつう使う方向とは逆にビルトインさせれば……あっという間に、鰹節削りが完成。わーい、味噌もそろそろ食べられるし、明日は念願のお味噌汁だぁ!
……だけど、ほくほくした気分で家に帰ったあたしを待っていたのは、腕組みして玄関先に立っている、オービルの鬼のような形相だった。




