魔法の国から来た? あたしが?
「それにしても、米はともかく、海苔に海鮭、レディー・レクサントの元いらした所は海の近くなんですか」
唐突にそうきりだしたエルドさんに、
「エルド!」
ジェイ陛下が声を荒げて窘める。大泣きしちゃったあたしが悪いんだけど、そこまで気を遣ってもらわなくてもいいよ。あたしはまだちょっと引き攣りながら笑って、首を振った。
「確かに海の近くと言われればそうなんですけど、あたしの家の近くでは海苔も海鮭も獲れません」
「じゃぁ、何故こんなにいろんな食材のことを知ってるのです?」
「学校で習ったのか」
何せお前は13年も学校に行ってたっていうからなぁと、オービルが言うと、
「うわっ、13年って何それ!」
ジェイ陛下が明らかにそれはイヤだというような表情をする。
「だから、日本ではそれが普通なんだって! あたしは専門学校だから、後1年で終わりだったけど、大学に行った子はそれより2年余分に行くし、それから大学院に行けばさらに2年……」
「全部で18年も!?」
「さすがに大学院に行く子は少ないけど、大学には結構行ってるよ。だから、16年かな」
みんなはそれを聞いて思いっきりため息を吐いていた。ただ、エルドさんだけはため息の種類が違うっぽかったけどね。
「何をそんなに勉強しなきゃなんないのさ」
と、うんざりしている他の面々とは違って、
「ああ、そんなに学べる世界があるんですか」
って、うっとりとした顔で言ってたもんね。……けど違うでしょ。
「いや、学校で習わないこともないけど(特に専門学校ではそれが主だったけどね)日本は機械がものすごく発達してて、馬車の3倍くらいで走る機械の乗り物や、空を飛ぶ機械があるんです。しかも、その機械の中の温度は氷と同じに保たれているんで、食材を傷まない内に遠くの町に運ぶことが出来る。だから、知ってるんです」
「それは、本当のことなの?」
まるで魔法だと言うナタリアさん。そして、
「そのような機械の一つでも実用化出来ないでしょうか」
と、ものすごい勢いで食いついてくるエルドさん。ま、この人の思考回路を考えると、予想通りっちゃ、そうなんだけどね。
「ごめんなさい、あたしは機械は、まるきり分からないから。
ただ、精米器だけは、昔ながらの方法をたまたま知ってただけで……」
本当に知ってたのは菊宗正だし。自慢じゃないけど、あたしバリバリの文系、機械の事なんて、なーんもわかんないもんね。
大体いきなり車がどーんとトリップしてきたとしても、この電気もガソリンもないアルスタットではただの粗大ゴミにしかならないじゃん。嵩高さからいったら、粗大ゴミ以上だと思うよ。
「いいよ、いいよ、気にしないで。今のノーマちゃんの知識だけでも、このアルスタットは充分過ぎるぐらい豊かになれる要素を持ってるんだから」
そしたら、何を勘違いしたのか、ジェイ陛下がそう言ってあたしを慰めた。
もしかしたら、あたしはアルスタットの救世主? ……そんなことはないだろうけど、あたし、この国の役に立てているのなら、それはそれでトリップしてきて良かったのかもしれない。
数日後、あたしたちは精米器の試作品を確認してから、いったんヘイメに戻ることにした。
大臣にされちゃったから、領地で引き籠もりって訳にもいかないらしい。
ただ、ジェイ陛下が、
「オービル、ヘイメに帰った途端ノーマちゃんに子供が出来たから動けないはなしだからね。なんなら、ノーマちゃんはケイレスに残る?」
と言ったら、ものすごく冷たい表情で、
「それだけは、絶対にない」
と断言したのだけはちょっとひっかかったんだけどね。




