国家プロジェクト始動
翌日もあたしたちはお城へ。また昨日みたいな物を着せらるのかとちょっとビビったけどそんなドレスコードはなく、行ったら大工さんに鍛冶屋さんなど、いかついおっさんたちがいっぱい待っていた。なんと、ケイレスだけじゃなく、周辺の町や村からも来ているとか。ホントは国中から呼びたかったらしいんだけど、ヘイメもそうだけど、一日でお城につける町なんてそんなに多くないのだ。にしても、ジェイ陛下は本気でこれを広めようとしてるんだなって思う。
あたしは、そんなおっさんたちを相手に精米器の構造説明。昨日のお貴族様たちとは違って、きらっきらに目を輝かせて、ボンボンと細かい質問が飛ぶから、あたしも説明に熱が入る。ふと横を見るとオービルがめちゃくちゃ恐い顔しておっさんたちを睨んでいた。
ともあれ、いくつかの変更点を加え、無事全国版精米器の概要が決定。やっぱいろんな分野のスペシャリストがいると違うね。どんどんとすごい意見がでてくるんだもん。そして終わった後、
「ロイヤリティー制度も期間を決めた方が良いかも知れません。3年ではちょっと短いし、5年くらいで打ち切るということでどうでしょう」
と言ったあたしに、
「何故ですか? ロイヤリティー制度は元々レディ・レクサントが言い出したことですよ」
エルドさんが首を傾げて異を唱える。
「お米をまんべんなく磨くにはあまり一台の規模を大きくできないことが判ったし、となると設置台数が膨大になるでしょ。初期投資だけでものすごい額がヘイメに動くことになるんです。
自分が稼いでない多額のお金って大体毒にしかならないし、今日、こっちの職人さんたちの意見を聞いてるとまだまだ改良点って出てきてもおかしくないんですよ。様変わりしてしまった精米器の旨みをいつまでもヘイメが吸い続けるのもどうかと思うし」
それに対してあたしがそう返すと、
「自分が稼いでいない多額の金は毒にしかならない……オービル、君ってつくづくすごい娘見つけてきたよね」
「俺も今そう思った」
とジェイ陛下がしみじみ言って、オービルがそれに頷く。
けど、あたしぜんぜんすごくなんかないよ。あたしがこの世界に来たんだって元々はウチのパパ・ママがそんな泡銭に飛びつこうとしたからだもん。菊宗正を売るなんて言わなきゃ、あたしは今でも日本で……
不意に流れ落ちた涙で言葉が途切れたあたしの顔を、
「ノーマ……どうした?」
オービルが驚いた様子でのぞき込む。
「何でも、何でもないよ、オービル。みんながあんまり褒めるから照れくさい……そう、照れくさいだけ」
と言って無理して笑って、お守りにと持ってきた菊宗正を握りしめる。すると、
『主よ、済まぬな。我を守ろうとしたばかりに……』
と、菊宗正までそう言って謝る。
(やだぁ、そんなんじゃないよ、あたしはただ、ここに来なかったら今頃就活大変だったろうなぁって思っただけ。
ホントに……それだけだよ)
あたしはそれに対して、心の中でそうつぶやく。声に出さないで会話している菊宗正にはあたしの本心なんてちょんバレなんだけど、それでもあたしは自分に言い聞かせるように菊宗正にそう語りかける。ここに来なきゃ、オービルにもアルスタットの国の人達にも会えなかったし、あのままあそこにいたら、傷害罪で捕まっちゃうだろうし。うん、これで良かったんだよ……
突然泣き出したあたしに、微妙におろおろしている男性陣を後目に、ナタリアさんがそっとあたしの頭を撫でてハグしてくれた。




