国益と地域の利益
「条件ですと! 貴様、陛下に何を言うか!!」
だけど、精米器をケイレスでも作れと言ったジェイ陛下に条件を突きつけたあたしに、列席した大臣たちは一斉に集中砲火。しかも彼らの奥歯の隙間にはちらっと『移民のくせに』っていうのが挟まっている感じがしてうんざりする。
だから……だからこそあたしは最初にぶちかましておかなければならない。
「もちろん、ちゃんと作りますよ。ただ、今回組み上げるのはケイレスの職人ですよね。
なので、その報酬の1パー……いえ、100ギルに対して1ギルをヘイメの職人たち渡すとここで約束して欲しいんです」
つまり、ロイヤリティーの要求。けど、あぶないあぶない、うっかりパーセントって言っちゃうとこだった。これ以上こっちにないこと言ったら、いくら移民設定でも怪しまれるよ。ま、ロイヤリティー自体この世界にない感覚だろうから、みんなきょとんとしてるんだけどね。あ、一人だけ違う。オービルは渋い顔であたしを見てるよ。きっと不敬罪に問われるかもと心配しているんだろうな。けどね、ここで退いたらあたしの負け。言うべきことは言わなきゃね。
「だってこの精米器、あたしだけが作ったものじゃないですから。
もちろん原理を考えたのはあたしですけど、それを形にしたのは、幼なじみのシドやドッジやケイン……ヘイメの職人街のみんなです」
そう、この器械の概要を考えたのはあたし(もっと正確に言えば菊宗正なんだけどね)。でも、実際に動く物になったのは、シド君やドッジ君をはじめ、ヘイメの若い職人さんたちの試行錯誤によるものだ。その努力を国だからって、いや国だからこそかってに吸い上げてもらっちゃ困る。
「解りました。ですが、1ギルで本当に良いのですか」
「間違えないでください、100ギルに対して1ギルです。できあがったものに1000ギルの報酬を支払うなら、10ギル、1万ギルなら100ギルです」
結果、100分の1のロイヤリティー作戦は、すんなりっと受け入れられた。ま、ホントは3%ぐらいは欲しかったんだけどね、いまいちお城からの発注の利益率がどうなのか分からないからさ。案外名誉だとかなんだとか言われてマージンバリ少ないってことも考えられるからね。
でもさ、たった1ギルとバカにするもんじゃないわよ。確かに1ギルは日本円にすると80円ぐらいだけど、精米器がたった100ギルぽっちで作れるわけがないし、服と一緒に添えられていた手紙では産業の少ないアルスタットの新しい内需拡大策として全国展開を視野に入れているってんだから、当然10台や20台では済まない。つまり、結構すごいお金が、黙っていてもヘイメには入ってくることになるのだ。
明日改めて職人さんたちを呼んで具体的な規模とか設置場所を話し合うことになって、散会というか、
「せっかく来てくださったんです。寄ってくださいまし、兄様」
と、改めてナタリアさんの私室に招待されたのだ。そしたらジェイ陛下はもちろん、エルドさんまでくっついてきちゃった。ナタリアさんの部屋で話ができるのなら、最初からそうして欲しいよ。
でもそうできないのがお城? ホントっ、王宮って面倒だわ。




