レクサント隊長っ!
そして、馬車の扉が閉められようとしたとき、
「おいこら、ステファン、ニール、ダグラス、ジャイロ、シムル、グラッド、おまえ等ウチの前で何をしている」
とオービルの声がした。しかもすっごい低いトーンで。その声にあたしを捕まえた全員がピッと背を伸ばして固まる。
「レクサント隊長っ!」
「近衛のおまえたちが何でヘイメにいるか聞いているんだ」
すると、オービルはあたしに魔女容疑の口上を述べたおそらくステファンさんの顎を掴んでそう言った。
「そ、それは……」
そして、そのステファンさんと思われる人の顔が紙より白くなる。ブルブル震えて言葉にならない。オービルの纏ってるオーラが黒すぎて、これじゃ何にも話せないと思う。
「何かと理由を付けて俺の居ぬ間にノーマをかっさらってこいとでも言われたか。そうすれば俺が何をおいても王都へすっ飛んでくると?」
するとオービルが地獄を這うような声のままそう言った。
「いえ、その……は、はぁ……」
それに対して、騎士たちはなんとも歯切れ悪く返事する。
「いかにもジェイの考えつきそうなことだ」
それを聞いてオービルはフンと鼻を鳴らした。ジェイっていうのは国王陛下の愛称だったよね。ええ~っ、じゃぁ、これって王様の指示なの!
でも、何となく納得かも。オービルはこの人たちを近衛兵だと言っているし。近衛兵って王様を守るための部署だもんね。それに、確かに貴族の護送かも知れないけど、彼らがあたしを拘束したとき、できるだけ傷つけないように配慮してるようだったし、押し込まれた馬車も何気に豪華仕様だ。囚人にする対応じゃない。
「そ、それは、レクサント隊長が陛下の再三の復帰のご要請をことごとく無視されているからで……
さらには、ご成婚も直接報告はなかったと、陛下もナタリア妃様もいたくお怒りでございます」
すると、顎を掴まれているステファンさんとは別の人が、震え声でそう言った。それを聞いたオービルは、
「ジェイに報告して国家行事にされてたまるか」
「ひっ」
と、ステファンさんを突き飛ばすと、さっとそう言った人(後でシムルさんだと分かる)の前に回り込んだ。
「それにな、大体俺たちは新婚だぞ。ノーマが懐妊しているとは考えなかったのか?」
「えっ? あの……あの……ご懐妊って、その……」
そして、続くオービルの言葉に、そこにいた騎士全員の顔が真っ白になって引き攣る。さらに畳みかけるように、
「もし懐妊していて、このことで子が流れてしまったら、どう責任を取るつもりだったんだと聞いてるんだよ!!」
と詰め寄るオービルに、
「「「あわ……、あの……申し訳ありません!」」」
と、6人はしどろもどろで謝った。顔色も紙どころか、死相漂ってるし。一人では立ってられなくて、みんなで支え合って何とか立ってる状態。それをみたオービルはプッと吹き出した後、
「安心しろ、可能性を指摘しただけで、まだその兆候はない」
と言った。オービルがそう言った途端、彼らは手を取り合ったままへたり込んでしまった。
「まったく、意気地のない奴らだ」
と、オービルは笑った後、
「ノーマ、手間のかかる仕込みは終わったのか」
あたしを馬車から引きずり出しながらそう聞いた。
「うん、後は干し物だけだよ」
もちろん干しっぱなしにはできないけど、やらなきゃならない手間はずいぶん減った。するとオービルは、
「そうか、では王都に行くか」
と言い出した。この言葉に、
「「行ってくださるんですか!!」」
と、あたしより先に反応する近衛兵さんたち。
「仕方ないだろう。おまえ等も空手では帰れんだろううし、この顛末を報告してもジェイのことだ、子供のものとかどっさり送られても困る」
「えっ、何で?」
子供のことはウソでしたって報告もいくでしょ?
「あいつのことだ、『子供はいつか生まれるんだもん、だからいいよね』って言うに決まってる」
すると、オービルは苦い顔でそう言った。
ま、理由はどうあれオービルが重い腰を上げてくれたと騎士さんたちはほくほくで、あたしたちがいない間、ニールさんとシムルさんが干し物の管理をするために残ることに。正直、年輩のダリルさんや他に家の仕事があるイオナさんに任せてしまうのはどうかなって思ってたから助かったよ。
そして翌日、あたしたちは王都に向かって出発した。




