じいちゃんの宝
事の発端は、この春じいちゃんが死んだことね。
そのじいちゃん、野間喬良は無類の骨董好きで、自宅の小さな倉の中に、ごっそりと古い物をため込んでいた。
ま、そのほとんどが箸にも棒にもかからないガラクタなんだけどね。中にはまともなものもあるだろうと、骨董なんてまるで興味のないパパたちは、バンバン鑑定と称してオークションに放り出して……
その中の一つがとんでもない額を叩き出したのだ。それがこの『菊宗正』。なんと、その額2億! もちろん、パパたちは売る気満々。それに、一人立ち向かったのが、あたしだった。
「ダメだよ、これだけはじいちゃんが売るなっていってたじゃん」
「そりゃ、これだけの値が付く品物だ。騙されて安い値で売るなってことだったんだろ」
口を歪めて抗議するあたしに、パパはのんきにそう返した。
「そうさ、あのじいさんの骨董好きのおかげで、ばあさんも俺たちもどれだけ大変だったか。これくらいの恩恵を受けても罰は当たらんと思うぞ」
そして、パパはそう続けた。
「でも、コレは妖刀だよ。借金してでもこいつは売るなって!」
じいちゃんははっきりと、『この刀が野間から離れれば災いが起こる』って言ってたんだよ。
「それは、あのじいさんが手放したくなかっただけのことだろ」
そんな風に、あたしが力説してもパパはとりあうことなく、2億の額で菊宗正は落札されてしまった。そして、明日には引き取りくる。
どうしよう……手放したことであたしたちが被害を被るのはもちろん、あたし達が無事でも売った相手が不幸になるのも、気分が良いもんじゃないからさ。
というわけで、あたしは菊宗正が盗まれたことにするために、菊宗正が入ってたケース(二億の値が付いたとたん、パパが買ってきたのよ、どう思う?)を壊して、密かに菊宗正を持ち出したのだ。
だけど、そこに落札できなかったあのおっさんが、仲間を連れて腕づくで奪いに来た。それに立ち向かおうとして菊宗正を振り回したら、何故か空間を切っちゃって現在に至るっと。
状況を整理したあたしは、再び力を込めて菊宗正を振った。しかしいくら、
「きぇ~っ!!」
と気合いを入れて振り回しても、周りの景色は元には戻らず、相変わらず長閑な草っ原。10分くらいはやったろうか。いい加減素振りしてるだけみたいで空しくなってきたし、元の場所に戻れないなら、とりあえず人の居るところに行かなくっちゃ。このままここで夜になっちゃったら、何が出てくるか分かんないじゃん。
あたしは森っぽいものと反対の方向に歩き始めた。