さぁ、作るぞ!
神殿からあたしたちは、海猫亭に向かった。
「今日はお祝いだよ。この代金はすべて領主様がもってくれるとさ。さぁさぁ、どんどん呑んでおくれ、食っておくれ」
ミラさんがそう言うと店を揺るがすほどの歓声が上がった。そうして、どんちゃん騒ぎの内にあたしはヘイメの人たちにノーマ・レクサント(男爵夫人)として認知された。あれっ、何かおかしいって? 気づいちゃった?
そう、あたしの本名は野間麗子。本来ならレイコ・レクサントとなるべきなんだけど、ここの人たちは野間も麗子も発音できない。野間はニョマに、麗子はレークになってしまうのだ。しかも、レークはこっちでは男名前だったりするので、オービルが露骨に嫌がった。『俺は男と結婚したつもりはない』だってさ。まったく、ここにたどり着いたときに、真っ先に『坊主』って声をかけてきたのは一体誰だったっけ?
そういう訳で、あたしの名前はノーマ・レクサントに落ち着いた。
楽しい宴だった。ただ、一つだけ気になったのは、オービルが全くお酒を口にしなかったこと。飲めない訳じゃないみたいなのに、どうしてなんだろう。
あ、あたしも飲んでないよ。あたしはこっちではともかく、あっちでは未成年。まったく飲んだことがないとは言わないけど、どれだけ飲めるか自分でも解んない。花嫁が結婚式でつぶれるのはさすがにまずいよねってことで。
で、レクサント夫人になったあたしは、翌日から早速こっちの世界の食材で日本の料理を作る準備を始めた。
第二弾はパンづくり。えっ、パンは和食じゃないって? んなこと言うんだったら、いっぺんこっちのパン食べてみなよ。一日経たずに、日本のパンが恋しくなるから。
まず、あたしは市場でブドウもどきとプルーンもどきを買った。天然酵母を作るためだ。正直、日本にいる時はドライイーストしか使ったことがなかったんだけどね。
あたしはブドウもどきとプルーンもどきをきれいに洗って種を取り、天日に干した。ついでに、港で貰ってきた鰹も干す。背骨をとって片身丸ままを干した亀節って奴だ。この方が上品じゃないけど、味は深い。とは言え、鰹節になるのはずいぶん先なんだけどね、やらなきゃずっとできないもんね。
先に干し上がったブドウもどきを煮沸した瓶に入れ、水と栄養を入れて待つこと4日、天然酵母が完成。
でも、さて実際に焼こうと思ってふと気づいた。発酵どうしよう。確かにヘイメの温暖な気候なら常温発酵もアリっていえばアリなんだけど、それじゃぁものすごく時間がかかる。何か良い方法は……あ、コタツ!
あたしは、武器屋のおじさんに絵を描いて必死に説明して、中心に木炭を入れるコタツを作って貰った。
そして、無事パンが完成。さぁ、これをこのヘイメの人たちに食べてもらうには、いったいどうしたら良いんだろう。