ウソっ、それ聞いてないよぉ~!!
家に帰って報告したら、ダリルさんもイオナさんも大喜び。
「早速、王都にいらっしゃるカクタス様方にご報告しなくては」
とダリルさんはニコニコとオービルにお茶を差し出す。ちなみにカクタス様というのは、オービルパパの名前。以前からオービル以外のレクサント家の面々は王都に住んでいるとは聞いてはいたんだけど……
「えっ、婚儀はこちらでなさるのですか? それではナタリア様が出席できないではありませんか」
オービルが結婚式をここヘイメですると言った途端、ダリルさんがそう言って渋い顔をする。
「ああ、神殿で誓約した後、海猫亭で簡単にやろうと思うんだが……」
「なりません! 仮にもオービル様はこのヘイメを治める方なんですよ。それにあまりにもみすぼらしいと、ナタリア様の今後にもかかわります」
ま、領主様の結婚式があまりにもジミ婚すぎるのもいただけないか。でも、何でそこでオービルの妹のナタリアさんの名前が出てくる訳? 首を傾げたあたしは、ダリルさんの、
「ナタリア様が正妃になられるというお話はオービル様もご存じのはずでしょう」
いう言葉でぶっ飛んだ。と言うことは……
「ナタリアさんってもしかして……」
「はい、アルスタット国87代国王、ジェラルディーン陛下の側妃様にございます」
げっ、王妃さまって……聞いてないよ、それ!!
そもそもそれは、現王様が騎士学校時代に、友人であるオービルんち(つまりここね)に来て、ナタリアさん一目惚れしたのが始まりだったという。
でも当時、王様にはしかるべき大貴族のお嬢様が婚約者にいた。それを覆すには、誰かの養女になるか、この家を貴族化するか。王(当時は王太子だったけど)オービルも側に置きたかったから、オービルを貴族にした。もちろん、オービルもそれなりの武勲は重ねていたからできたんだけどね。
ただ、付け焼き刃の貴族じゃお嬢様を推す奴らに勝てず、王様は渋々二人とも妃にする羽目に。しかもお嬢様が正妃でナタリアさんは側妃。
当然、お飾りの正妃と愛妾の関係が丸くおさまる訳はなく、お嬢様改め正妃さんは何かというとナタリアさんを目の敵にするようになった。最初は嫌がらせ程度だったけど、その内命まで狙われるようになった。
オービルの怪我も、実は正妃さんの手の物からナタリアさんを守るためだったらしい。お陰で? 正妃一族のやってきたことが一気に明るみになり、正妃さん一族は崩壊し、正妃は今幽閉状態……うわぁ、ドロドロのお家騒動。すごすぎでしょ、それって。にしても、そんな家に異世界からきたあたしみたいなのが嫁いでホントに良いわけ? それに対して、
「気にするな、ナタリアのために受けただけで、俺には爵位など腹の足しにもならん。第一、そんなものに捉われるからレジュール家は潰えた」
と、さらっと言い放つオービル。いや、領地が付いてくるんだったらは腹の足しにはなるでしょうよ。ま、そんなもんをアテにする時点で腐ってるとはあたしも思うけどさ。それに寄っかかっている奴らが多いことも事実だよ。ナタリアさん大丈夫なの?
「ああ、あの一件を機に旧体制派は一掃されたからな。それでも何か言ってくる輩もいるかもしれないが、そこは陛下に意地でも守ってもらう。
それよりお前は、一品でも多くお前の世界の料理を再現してみろ。その方がいくらかこの国のためになる」
うん、中央の政治的確執より地方の景気振興策って事だね、ラジャー!
っていうことで、あたしたちは神殿に出向いて神官さんに結婚を証明してもらい、夫婦になった。