プロローグ
「悪いことは言わない、そいつを俺らに渡しな」
あたしを取り囲む男たち。その主犯格と思しき男がそう言って狡そうに笑った。だけど、渡すって事自体、あたしにとっては悪いことなんですけどっ?
あ、あたしの名前は野間麗子。この春、高校を卒業して、料理の専門学校に通う、ごくごくフツーの19歳。
そんなあたしが何でこんな悪っぽい奴らに囲まれているかと言うと……うわっ、一斉に奪いに来たよ、説明なんかしてらんない。あたしはそいつの鞘を抜いて上段に構えた。
「ふん、めでたい奴だな。それがいっかな『妖刀』とは言え、この人数に勝てると思ってるのか」
それをみて、主犯格の男はそう言って鼻で笑う。バカにしないでよね、これでもあたし剣道部なんだからね……6年やってて初段だけど。それに、大人数で来られたって、これはおいそれと渡せないんだから。死んだじいちゃんに『借金してもこれだけは絶対に手放すな』って、ずっと言われてきたんだもん。
あたしは、
「菊宗正、あんたは死んでもあたしが守ってやるから、あんたもあたし守んなさい、解った?」
と叫びながらそいつに-妖刀菊宗正-を握り直す。すると頭の中に、
『承知した、では、主の仰せのままに』
という声が響いた。
「えっ? 今の誰の声??」
あたしは辺りを見回したけど、キョロキョロしてると虫みたくオッサンたちが寄ってきたんで慌てて菊宗正を振り下ろす。思わず目をつぶっちゃったあたしの腕に、鈍い、重い手応えが走った。
げっ、真剣だから、当たったら切れるよね。もしかしたらあたし、人切っちゃった? ヤバい、警察捕まる。いや、でもコレ正当防衛だよね。
そんなことを考えながらおそるおそる目を開けたあたしの前に、男たちは一人も居なかった。それどころか、それまでいたごみごみした町すっかりと消えていて、あたしの前にあるのは、ただただ、草・草・草……
誰か、教えて! さっきのおっさんたちはどこに行ったの? それよりいったい、ここどこなの~!!