第4話 狩りの始まりだぜ
狩は始まったけど今年はコレで終いです
ジャッ ジャッ ジャッ
「・・・・・・。」
ジャッ ジャッ ジャッ
「・・・・・・。」
ジャッ ジャッ ジャッ
「・・・何やってんの?」
ジャッ ジャッ ジャッ
「ちょっと、聞こえんてんでしょ返事しなさい‼︎」
「うわ⁉︎何だよいきなり!」
耳元で大声で叫ぶな!鼓膜とか耳小骨とか蝸牛とか色々イカれちゃうだろ!
「何作ってんのって聞いてのよ!」
「えっ見て分からん?」
俺は手元にあるモノを緋之美に見せる。俺の手に握られていたのは、カッターナイフと1.5メートル少々の長さがある枝。ってか棒。
「・・・・・・・・。」
「・・・。」
「・・・旗?」
「なんでだよ!」
散々そんだけ考えといて出た答えがなんでソレなんだよ⁉︎
「槍だろ!YA☆RI!」
「ああ槍・・・槍ね。なんで槍?」
「なんでって・・・。」
おまえ、それくらい分かるだろ?そう言ってやると、
「・・・狩りでもする気?」
「ご名答!」
俺はブンッ!と削っていた枝を振って見せた。その先端は、真に槍のように尖って・・・と言うのは言い過ぎだったが、まぁ鉛筆くらいには鋭かった。
「ここで生きていくには、サヴァイバル生活をして行くしかない!」
「あっそう。」
「反応薄いなぁ・・・。」
どうも起きてからこの方、緋之美の俺に対する態度が、そわそわしていると言うか、ドライに努めている気がする。そりゃあ・・・年頃の男女が床を同じくして寝ればそうはなるかもしれないけど。
俺だってアンな事やコンな事を考えなかった訳じゃないが・・・まぁそれより先に睡魔が余裕で勝ちましたけどね。あんなにすぐに寝れたのは久し振りだった。子供が日中活動した分、夜はグッスリ眠るっていうのは本当なんですなぁ。
・・・まぁそんな事はどうでもよろしい。
もう一度緋之美を見やると、やっぱり綺麗で可愛い・・・では無く、やはり落ち着きのない様に俺には映った。常に何かを弄ってないと気が済まない様な・・・そんな感じだった。
「・・・なに、見てんのよ。」
「あいや、別に・・・。」
「・・・・・・。」
ツイ、と緋之美は視線を反らした。顔を伏せていたが、ちょっと目の下の所が赤かったな・・・こんな状況だし不安になるのも当然か。俺もしっかりしなければ。
「ちょっと、そこいら歩いてくる。何か見つかるかもしれないしな。」
「あ、うん。いってらっしゃい。」
緋之美はひらひらと手を振って、見送ってくれた。
▼
「っても、こんなモンで仕留められる動物なんてたかが知れてるよなぁ・・・。」
俺は(結構頑張って作った)槍(笑)を掲げながら言った。
あんまり詳しい訳じゃないが、普通槍ってもう少し長いものじゃないか?自分の身長より短い尖った棒を振りかざして「槍で〜す」とか言ってると、バカみたいな感じになる。
しかし、他に使えそうなものがない。ハサミかカッターを紐で括り付けようとしたが、(多分結び方がヘタクソだったせいで)全然上手くいかなかったしな。
「しかし、狩猟の基本は待つこと。」
ボケッとしてりゃそのうちなんか捕まえられるだろ・・・
そんな風に、気楽に考えていた。
▼
「あぁ〜あ・・・。」
ふっとため息をつくと、少しだけ気怠さがマシになった気がした。
「ちょっと強く当たりすぎたかな・・・。」
額に手を当て、少女は呟いた。
少女―――姫島 緋之美―――は、幼馴染みの涼介のことを考えていた。というのも、耳元で声を荒げたり、ぞんざいな反応をしてしまった事を反省していたのだ。
目下、たった2人の状況で、その2人の仲が悪くなってしまうのは最悪だ。人間、何でも1人でやっていける物では無い。しかもこんなジャングルの中にたった1人でほっぽり出されたのでは、たかが高校生の自分達なんかすぐに野垂れ死ぬだろう。
何とか仲良くやっていかないと・・・。
(いや、仲が悪いって訳じゃ無いんだけど。)
彼とは昔からの付き合いで、よく遊んでいた近所の幼馴染み・・・長い付き合いなのだから、よっぽどバカなことをしたりされなければ、上手くやっていける筈だ。
それに、彼はとても温厚な人だ。滅多に怒らないし、優しいし、温かかったし、ちょっと前から男っぽい体型になってちょっとカッコいいかなとか・・・ってイヤイヤイヤイヤイヤいやいやいやIYAIYAIYA。
(そういうことじゃないでしょっ・・・!)
知らずのうちに紅くなっていた頰を抑え、首を振った。
(なんであいつの事ばっかり考えちゃうかな・・・。)
この後もしばらく、彼女は悶々とする日々を過ごす事となるが・・・それはまた別の話。
だがそれにしても。
(暇ねーー・・・。)
やる事がない。彼からは何か頼まれている訳ではないし・・・そうだ。
「火、起こしてみようかな。」
何か火遊びでも始めそうな危なく聞こえる発言だが、事今回に限ってはそうではない。
こんなジャングルでは、火が有るのと無いとでは重みが全く違う。火があれば、野生動物は寄ってこにくい筈だし、暖も取れる。・・・昨夜は(やむなく)彼で暖をとったが、何時もそう出来るとは限らない・・・いや別に、暖をとらせて欲しいわけじゃ無いし・・・。
手頃な木の棒を探し、これまた丁度いい板に使えるものを探し出した。
こう・・・板を棒で押さえて、手でグワーーッと棒を回して、その摩擦で火つける奴
「だあぁぁあらっしゃあぁぁぁ―――ぁあ‼︎‼︎」
「へぇッ⁉︎」
遠方から咆哮のように聞こえた幼馴染みの声に、ここイチ変な声を出したのもまた別な話。
▼
じっと待つ事およそ10分。
どうやら俺には現代社会では全く役に立たないであろう特技・・・“狩猟”があるらしいことが判明した!
「獲ったどーー!」
なんと鉛筆くらいの完成度を誇る自制の槍で、謎の生物を仕留めた!
・・・ってナニコレ。ツチノコ?頭が三角形で、胴体にでっかいコブがある・・・いやコブっていうか、胴体そのものが他より二、三倍くらい太い。
まぁツチノコも蛇の仲間でしょ。蛇って食えるらしいし、何でもいいか。火通せば何でも食えるわ。
空腹に勝る衝動は無いのだよ。・・・あんま腹減ってないけどな。
▼
「よう、ツチノコみたいの獲れたぜ。」
洞窟に戻ってくると、緋之美は出口の近くで何やらやっていた。
「あーおかえりっぺぇぇえ⁉︎キモい‼︎」
「第一声それかよ!」
ていうか今聞いたこともない奇声上げたな!女子ってそんな声も出るのか!俺はそんな声でねぇぞ。
「キモいは無いだろう、そんな事言ったら何かコイツに申し訳なくなっちゃうでしょーが!」
「勝手に申し訳なくなっときなさいよ!」
酷い言い草だな!
まぁ女子ってなんでか爬虫類的な奴は苦手だから、大目に見てやる・・・・。
「ってか何してんの?」
目を転じると、緋之美は何やら棒状の木を板みたいな平らな木に押し当て、ビャーーーーーッと高速で回していた。
「火、おこそうかなって・・・。」
何やら自信なさげに言う。よく見ると、緋之美の白い手にはささくれがいくつか刺さって痛そうである。
「火って・・・まぁ、そうか・・・。」
喉まで出かかった「そんなの頼んで無いだろう」と言う(我ながら)失礼というか心無さすぎる言葉を飲み込んだ。先を見越してやってくれている幼馴染みに対して、その物言いはあまりに酷いだろう。
「あんたが身の程知らずにも頑張って食料調達しようしてるのに、私だけ何もしないってのは・・・なんかアレかなーって。」
「アレって何だよ・・・ってか身の程知らずにもって何だ!ちゃんと獲ってきただろ!」
「だってソレ・・・キモいし。」
「問題はそこじゃねーーっ!」
全く失礼極まる幼馴染の美少女だが、取り敢えず食料は調達したし、多分飢えるこたぁ無いだろう。
「あっ!煙出てきた!ちょっと、涼介!そこの落ち葉の屑!こっち掛けて!」
「屑・・・あぁこれね・・・ハイよ。」
「よし、そうそう・・・ふー、ふーっ、ふぅーーっ―――・・・」
ちょと前にテレビでやっていた方法だ。
木の板に棒を擦って、その摩擦熱で火種をとる。その火種を、枯葉とか(デレビでは縮れ毛みたいな麻紐をほどいたヤツでやっていた)燃えやすいもので包み込み、頑張って息を吹きかける。
火種が生きていれば、燃えやすいものに引火して炎が灯る。
それを消してやらない様にすれば完成だ。
緋之美は以前にこの方法で火を付けた経験があるからか、すぐに煙がではじめた。めっちゃ臭い。息がつまる・・・。
「緋之美、大丈夫か?」
流石に息苦しいので、声をかけるが、
「黙ってて、もう少しだから!ふー、ふー・・・」
とお叱りを受けた。
・・・でその十数秒後、「もう少し」という宣言通り、煙を噴き出していた枯葉たちが一気に火を噴いた。
コイツが火をつく時は本当に一瞬で、あっという間に火だるまとなった。
「あっちち。」
言ってはいるがそんなにではない。(タイミングさえ間違えなければ)
ぼと、と落ちた火だるまは、その周りにあった枯葉や小枝を巻き込んでその火の手を強めていった。
「これもお前がたてたの?」
俺は火がつきはじめた一点を指差す。山の形に枯れ枝が立てかけられていた。
「そ。キャンプファイアと似た要領よ。」
「なるほどな。」
火は勢力を拡大し、ええ感じのサイズになった。
今晩はツチノコ(?)の丸焼きだな。・・・夜も寒くはなさそうだ。
来年もまぁそれなりに頑張ります٩( ᐛ )و