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WORLD×world  作者: お猿プロダクション
第1章 異界サバイバル生活篇
4/14

第2話 ここを隠れ家にしよう。

くっさ


おっそ

 


 最初こそ、木々の間から木漏れ日が溢れて明るかったナゾの森も、足を踏み入れるごとにその密度をどんどん増して足元に太陽の光は届かず、薄暗くなって来ている気がした。

 チラ、と隣を歩く緋之美を見てみる。相変わらずの仏頂面だが、隠せきれない不安が滲み出ているように見える。

「・・・緋之美。」

 少し声を掛けてみる。

「――何?」

「大丈夫か?」

「大丈夫に見える?」

「いや見えん。」

 半目でジロリと俺を睨む緋之美の顔が怖え。ここ最近で最も恐ろしい顔をしてらっしゃる。それもそうではあるか・・・・こんな意味の分からん状況に置かれてちゃあ仕方ないだろうってか俺だってさっきから不安で仕方ないんだけどな。

 好きな子の前でくらい格好つけたいなしな。

「って言うか、とんどん森深くなってない?本当にこっちで良いの?」

「・・・・。」

 御免なさい格好つけてました・・・なんて言えない。

「あや・・・多分大丈夫・・・うん、大丈夫だよ・・・。」

 自分に言い聞かせるようにして言い訳をする。

 実際、こっちで良いのか分からないし、どうすれば帰れるのかも分からないが・・・まぁ進まないでウダウダしてるよりはマシな筈だろう。

 そう思って進んで行く。そう思わないと進めない。


 ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ・・・・


 腐葉土や落ち木の枝、乾いた落ち葉を踏む音が、どうにも不気味に思える。


 ジャッ、ジャッ、ジャッ、パキ・・・


 こうも静で深い森の中を歩いていると、森が俺たちの事を飲み込もうとしている様にも感じてきたわ・・・ん?パキ?

「緋乃美?」

「何?」

「枝踏んだ?」

「は?あんたでしょう?」

 俺は今踏んでないからお前に尋ねたんだよ。

 そう言おうとして振り向くと、


 パキパキバキバキバキキキキキッ‼︎


 何か巨大な影が、俺たちに向かって猛突進してきた‼︎⁉︎

「う お お っお‼︎‼︎」

 驚いた俺は変な声を上げ、

「きゃあッ⁉︎」

 緋乃美は悲鳴を上げて尻込みした。


 ―――ザザザザザッッ‼︎


 何ンッだありゃ!ヘビ・・・いやトカゲか⁉︎落ち枝や柔らかい地面で足場の悪い所を苦も無く突っ込んで来やがる!

「くそっ、緋乃美‼︎」

「えっちょっとッ、ひャわっ⁉︎」

 尻込みして俺の方にもたれかかる様に立っていた緋乃美の肩を抱いて、一目散に逃げ走った。

「緋乃美ッ、走るぞ!」

「分ぁってるわよ‼︎良いから手っ、離して!走り難いでしょうが!」

 はいはい悪かったな!

 バッとやや乱暴に手を引き離して緋乃美を前に押し出し、そのまま走り続けた。流石に女性よりも男性の方が基本的な身体能力が高いと言われるだけあって、俺と緋乃美もその例にもれなかったらしい。数秒も走っていると、直ぐに彼女の背中に追いついてしまった。

「走れ走れ!追い付かれるぞっ!」

 そうやって叫びながら、緋乃美の肩を押して走る。

 後ろは振り返りたく無い。ひたすら、転けてしまわない様に前だけを見て走った。

「分かってるってば!ってか押さないでッ転けるって‼︎」

 そうも言ってられねぇよ!ちょっとでもスピード落ちたら―――





「あっ。」





 ドサッッ!


 ――しまった。


 転けた。


 柔らかい土を踏み込んで、その先にあった木の根っこだか石だかに躓いたらしい。俺が転けて、そこまでは良いが直ぐ前に居た緋乃美まで巻き込んでしまった。





 やばい。守らなきゃ。俺も。緋乃美も。死ぬ。何かに、 殺されるッ―――‼︎





 咄嗟に緋乃美へと覆いかぶさる様に飛び掛かり彼女の頭を抱え、目をグッと閉じた。

 だいたき、俺のせいでこんな事になったんだから、そう。そうだ、緋乃美だけでも、何とかして――――――――――










 ?









「あれ?」







 直ぐにでも来ると思っていた衝撃は、ついぞ俺たちを襲わなかった。目を開けて走ってきた方向を見るが俺たちを追いかけていた何かは、いつの間にやら何処かに行っていた。

 いや、もしかしたら最初から追ってきてなどいなかったのかも知れない。そうだ、例えば自分の巣の近くに俺たちが来たから、威嚇のために突っ込んで来たとか―――

 急に緊張から解放されたからか?そんなどうでも良いことばかりが頭の中を巡っていた。

 そうだ、緋乃美は・・・・緋乃美は無事か―――⁉︎

 思わず飛び掛かるようにしてしまったが、怪我はしてないだろうか。

「緋乃美・・・無事か?」

 体を起こし、彼女を見下ろす。

「あ、う、うん。大丈夫だけど・・・・。」

 急に走ったからだろうか、やや息が上がっていて顔を上気させている以外は、一見何もなさそうだった。

「・・・そうか――良かった。」

 俺は胸を撫で下ろした。

 緋乃美に大事なくて良かった・・・。

「あのー・・・ねぇ。」

「ん?」

「守ってくれたらしい事は有り難いんだけどさぁ・・・」

「うん。」

「そろそろ苦しいから退いてくんない?」

「・・・・あ。」

 そうだった。緋乃美は今俺に伸し掛かられている状態になっていた。成る程これでは苦しいと言うはずだ。

 一応、多分、俺よりは非力で、且つ自身の体重以上の物に伸し掛られては重いし苦しいに決まっている。

「す、すまん。」

 そう言って体を起こそうとした。が、

 ぎゅっ。

 何かに服が引っ掛かっちまったのか?直ぐに起き上がれなかった。

 服を確認すると、緋乃美が俺の服を掴んでいた。

「あーの――――緋乃美さん?」

「なによ。」

 あっちょっと不機嫌?

「服を・・・離してもらえますかね。」

「え?・・・あ、あぁ――――ん。」

 パッと緋乃美は手を離したが、いや「ん。」って。もう少し何か、言い返し方は無いのかね。

 いやまて・・・もしかして。

「緋乃美、怖かったか?」

「っ!」

 ざわっ、と全身の毛が逆立った・・・・様に見えた。そんなにビビる事でもあるまいによ。

「そっ、そんなわけ無いでしょ!適当なこと言わないで!」

「へーへー。」

「だいったいね、アンタが転けなければ———」

 あーもー、煩い煩い。・・・いやそれは俺が悪いが・・・。

「分かってるって、悪かったよ・・・・。」

「分かってない!ちゃんと話しを———」

 尚も緋乃美のお説教(半分くらい八つ当たりじゃねぇの?)は続く。

 自分としてはこの微妙に暗い空気を何とかしたかっただけなんですがね———ん?暗いと言えば、この辺り・・・。

「さっきより明るく無いか?」

「こら!聞いてんの⁉︎」

 言うが早いか、ポカ!と緋乃美は俺の額を叩いた。

「痛!いやー聞いてるってば、悪かったって転けたのは——」

「あぁっもう全然聞いてないじゃない!」

 じゃあ何んなだよ⁉︎

 と言ってやりたいがややキレ気味の緋乃美にそんな事を言っては逆効果だし、実際俺も話を聞いていない部分もあったのでそうも言えなかった。

「———ったく、アンタってのは昔から・・・・ってあれ?ここちょっと明るくない?」

 お前こそ俺の言ったこと聞いてねーじゃん!それさっき俺言った‼︎

 このやろう、文句の一つでも言ってやる。

「お前だって俺の——」


「あ⁉︎」


「あ?」

「涼介!あれ・・・!」」


 やや興奮気味に彼女が指差す先へ目線を送ると、森が終わり切り立った崖があって、そこにぽっかり口を開けた、洞窟の様な穴があった。


 ▼


「・・・うーん。」

 これくらい大きな洞窟だったら、観光とか何やらで人の出入りもあるだろう。その中でマナーの悪い人間が捨てたものでも有るんじゃないか、その中で使えそうなものがあってもおかしくは無いだろう・・・と思って探してみたんだが・・・。

「何もないな。」

「何もないわねぇ・・・。」

 ものの見事に何一つ落ちていない。ペットボトルとかそのキャップ、布切れ髪留め、ガラス片etc・・・ありとあらゆるゴミ——と言うより、ここに人間が来た証拠がない。まるで、今まで誰もここに踏み入れなかった様な・・・そんな場所だった。

「ここ、誰も来た事がないのか・・・?」

「だとしたら、私達はアンタん家のどこ○もドアの所為で前人未踏、人跡未踏、完全未開の地に足を踏み入れたっていうことね・・・・」

 ボソ、と呟く様な低いトーンで、緋乃美が言った。

「ん?ああそうだな・・・。」

 石ころを退けながら、俺は適当な相槌をする。


「ぶざっけんじゃ無いわよッッ‼︎‼︎」

 バッギャッッ!!


(ッ⁉︎)

 緋乃美の絶叫と何かが凄まじく折れる音が洞窟内に反響して、俺は反射的に振り返った。


「なんっなのよ⁉︎大体‼︎おかしいでしょ!何で涼亮の部屋からこんな訳の分からないところにほっぽり出されてんの⁉︎ケータイは繋がらない、変な奴に追い掛けられる、挙句人の影すら見えないじゃない‼︎何でこんなことになったの‼︎ねぇ⁉︎」

 彼女は凄まじい形相で俺に詰め寄る。刃物でも持ってたら刺されそう。

 ってか、そんな事じゃなくて。

「いや俺にも分かんねぇよ・・・!」

 あまりの迫力にやや後退りしながら言うが、それでも緋乃美は止まらない。

「何で分からないの⁉︎アンタの部屋でしょうが‼︎どうっにかしなさいよ!」

 そんなこと言われても本当に俺は———

「“俺は分からない”みたいな顔してるわねぇ⁉︎考えもしないで言ってんじゃないわよ‼︎ほんっと昔からアンタは何処か抜けてるし肝心なところがなってないし鈍感だし・・・っていうかそんなことはどうでもいいのよ!そもそもの話アンタが分からないんだったら他の誰がっ」


「俺だってワケわかんなくて混乱してんだよッッ‼︎‼︎」


「っ‼︎」


 びく、と今度は緋乃美が後退った。だがああも理不尽に言われっぱなしでは流石に堪忍袋の尾が切れると言うものだ。そんな事は御構い無しに俺は声をどんどんと荒げた。


「俺だって何とかできないかと思って考えてるんだよ!それを何なんだお前は‼︎お前こそ何もしてねぇじゃねぇか⁉︎しかも事あるごとに俺のせいにしやがって‼︎ちったあ自分で考えたり責任感じたらどうなんだ、エェ⁉︎てっめえいつもかも俺より頭いいからって調子に乗ってんじゃねぇぞ‼︎」

「なら!アンタだってバカなりにちょっとは考えなさいっつってんのよ!」

「考えてるって言っただろうが聞き分けのねぇ奴だな‼︎」

「その考えが足りないって言ってんのよ!」

「何処がだよ⁉︎大体の話どうすりゃ自分の部屋からこんな所にほっぽり出されるなんて考えるんだよッ‼︎」

「だからそれを考えろって言ってるでしょうがこの馬鹿‼︎っていうかそもそもアンタの部屋のせいだかんね‼︎こうなってんのは‼︎」

「だからそれは俺も分かんないって——!」

「そこをどうにかしろって言ってるんでしょうが!いいから——!」

「何だと——!」

「アンタだって——!」


「~~~⁉︎」

「~~ッ!」


 ▼


「はっ、はっ、はっ、・・・・・。」

「ふー、ふー、ふぅー、ふーっ・・・・。」

 アレからどれほど時間が経っただろうか。何で始まったのかすら忘れた口論の果ては“両者の喉が潰れて声が出なくなる”という限りなくしょーないものだった。

「もう、やめにない?」

 と俺は言ったが、俺こんなに声おっさんクサかったっけ。

「ん、別に、良いけど。」

 緋乃美はそう答えてくれたが、お前も随分と嗄れた声になったなぁ。元の綺麗な声と同じ人だって言われたら、初聴だったら疑いモンだな。

 そう思ったら、今までやってた口論も馬鹿馬鹿しく思えてくる。

「ぷっくく、くくくく・・・!」

「くっふふふ、ふははは!」

 無性に笑いが堪えられなくなって破顔し、お互いに腹を抱えて笑い合った。

「変な声だなぁ、はははっ!」

「アンタだって人の事・・・くくくくっ、言えないでしょ・・・ぅぷぷぷ、もうダメ・・・ははは!」

 制服が汚れる外も気にせず、その場に転がってお互いを笑い合う。

 うん?背中に凄まじい違和感を感じる。

「・・・あれ?」

「どうしたの?」

「リュック背負ってる・・・。」

「あれ?私もだ。」

 あんまり急な事が立て続けに起こったものだったから忘れていたようだった。我ながらウッカリしてんな・・・・いやそれは緋乃美も同じか。

 ・・・そうだ。

「緋乃美。」

「ん?」

 俺は今変なことを思いついてしまった。

「菓子・・・持ってるか?」

「——まぁ、少しなら・・・。」

 ハッ、と緋乃美の表情が変わる。俺の言わんとした事が分かったみたいだ。

「アンタ・・・まさか。」


「あぁそうだ。ここを———」


「ここに、いや、ここを隠れ家にしよう。そして、助けを待つ。」


「本気?」


「本気だ。」


 緋乃美はとんでもない物でも見るような目で俺を睨んだ。

「助けが来るとも限らないのに?」

「下手にここをブラブラしても、猟師や自衛隊でも軍人でも無いんだからそれこそ速攻で野垂れ死ぬ・・・!」


「・・・。」

 訝しむような目線をして、彼女はため息をついた。

「はぁ・・・分かった。分かったわよ・・・だからそんな目で見ないで。」

「おご。」

 ぐいーーっと彼女に送っていた視線を横にずらされる。

こういう変な時(・・・・・・・)はアンタに頼った方が良いのは、昔からなのよね・・・今回は譲ったげる。」

 ピン、と俺の鼻を弾いて緋乃美は言った。

「ふっ・・・何か、悪いな。」

 と言うと緋乃美はやや呆れ気味に「はぁーあ。」と大きなため息を吐いた。

「ホントよ。全く・・・。」


 そう言う緋乃美の顔が少しだけ笑って見えたのは、多分気のせいだろう。

遅遅遅遅

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