目が覚めました。
額の冷たい感覚が気持ちいい。この気持ちいい感覚を私は知っている。ただ布団の温かさだけが愛おしい時間。
ふかふかでぬくぬく。もう少しだけこのまま寝かせておいて欲しい。
このふかふか感…自分の部屋のベッドじゃないみたいだ。
あ、でも今日はなんだか物足りない。何だったっけあ、そうだ私の大好きな……が足りない。
「………」
ゆっくりと、目を開けた。
何度か瞬きを繰り返しているうちに、ぼんやりとした視界もだんだんとクリアになっていく。
あまりの寝心地の良さに二度寝しそうになる頭を叱咤して、ぼんやりと仰向けの体勢のまま辺りを首を捻って見回す。額に置いてあった濡れたタオルが落ちてきた。さっきの冷たい感覚はこれだったんだ、と1人納得した。
部屋を見回すと、白を基調としたシンプルながらに必要最低限揃えられた家具はどこか高級感がある。
今の日本では考えられないような、絵本の童話に描かれた部屋のようだ。
「…夢?」
私が独り言を呟いた瞬間、ガチャリと扉が開く。
音のした方を見ると扉の向こうにいる金髪碧眼の男性と目が合った。
「えっ…コスプレ?」
絵本に出てくる騎士のような格好に作り物にしてはよくできている剣を腰に差しているその男性は私を見て大層驚いた様子で大きな目をさらに大きくさせ、 私はと言うと現実離れした絵に描いたようなイケメンにある意味ギョッとしてしまった。誰だこの人…。
「ーーーー?」
「え?」
男性の口から出た言葉を理解出来なかったのも当然だ。何故なら日本語じゃなかったから。
「あの…」
するとドアの横からまた1人茶髪に赤い眼をしたこれまたイケメンのお兄さんが顔を出し、私の顔を見るや否や何かを叫んでいる。
その瞬間ドタドタとまた1人、1人と見知らぬ男性達が入ってきて私の方に駆け寄り何かを喋り出す。
「ーーーー!」
「ーーー!ーー…」
「ちょ、ちょっと待って。意味がわからない」
日本語で突っ込みを入れながら、栗色の髪をした1人のイケメンの手から握られた自分の手を引っこ抜こうとする。けれど、それを察したらしき彼によって、私の手は素早く彼の手に握り込まれてしまった。えっ何これ!?イケメンというより異性への耐性がない私にとっていきなりのスキンシップに動揺してしまう。
混乱する私に皆もどこか不安げな様子だ。
夢にしてはあまりにもリアルではっきりとしたこの現状に、自然と男性達から後退りすると目の前の男性達は少し顔を顰めた。
しばしの沈黙が走る。
…ここはどこなのだろう。
目の前の男性達の格好を一瞥する。
今の現代ではあり得ないようなファンタジーに出てくる騎士の格好もいればスーツの男性もいる。だが皆容姿が現実離れしているのは共通している。
よく見たらみんな顔ちっさ。何頭身あるんだ。横に並びたくないレベルだ、この人たち。
…何かのドッキリだろうか。
毎日社畜として働き、普段男性と縁がない私にご褒美とか?
そうなったら隠しカメラはどこだ?とキョロキョロ探してみると男性達に可哀想な目で見られた。あ、そういうノリじゃないですか、そうですか…。
というか私眠る前まで何してたんだっけ?
「………あっ!」
その瞬間私は思い出した。
私は猫を飼っている。それも5匹。
出会いは雨の中の会社帰り。
「拾ってください」と漫画かドラマにある様なありがちな張り紙を貼られ雨にうたれてじっとしている猫達と目が合う。
最初は自分の傘を差してあげて拾わず帰ろうと思っていたがどうも放っておけず、Uターンしてとりあえず連れて帰ってしまったのだ。
成り行きで家に連れて帰ってみたものの冷静に考えて5匹はさすがに飼えないだろう、と猫達を見ながらどこか里親に出そうかとも考えた。
しかし予想以上に私の拾った猫達は賢く、猫の世話自体はあまり大変ではなかった。むしろ皆とても聞き分けの良い猫達だったのである。
この子達を捨てた人は許せないが、それなりに教育されてきたのだろうか。
それにいつのまにか猫達は仕事ばかりの私にとって癒しを与えてくれる存在になり、家族同然の大切な存在になっていった。
遊んでいるときはさすがにかなり体力を消耗したけど…。私の体力が衰えただけかな。みんな体力が無限なんだよ…。
ちなみに飼っているのは、落ち着いたロシアンブルーのリク、あまり可愛げのないところが可愛いスコティッシュの海、人懐っこいメインクーンのこてつ、イタズラ好きな茶白でアメリカンカールの大和、真っ白で儚げな大人しいシンガプーラのユキ。
今までペットを飼っている人による「うちの猫(犬)が1番可愛い!」発言を聞くたびに親バカだなぁと笑って聞き流していたが、今や私も立派な親バカの1人であった。うん、うちの猫が一番可愛い!
「ニャー」
「んー?どうしたの、ユキ?」
「ニャー」
いつものように休日の夜、ドタバタと遊んでいる猫達を横目に料理をしていると、横であまり鳴かないユキが声を上げた。
ユキの動きにつられて、他の猫達も揃ってその方向を見やる。
何か面白いものでもあったのかな?
火を止めて料理を中断し、私も駆け寄ってみることにした。
「…………えっ」
なんかベランダの床には黒い穴があるんだけど。ブラックホール?ぽっかりと不自然にひらけた空間が見えた。
「落とし穴…でもないよね?何これ」
嫌な予感しかしない私はひとまず猫達に危険が及ばない様に一歩前に出てから扉を開けてベランダに出て穴の方に足を進め、目の当たりにした光景に息を飲んだ。
「これは――」
そーっと黒い渦を上から覗き込む様に眺めていると突然、後ろにいた5匹みんながズルズルと穴の方へ動き出した。
「えっ!?」
ううん違う、渦の中に引き寄せられてるんだ!1匹、1匹と黒い渦に引き寄せられて重力に逆らえず消えていく猫達。
「ちょっ…と、待ってーー!」
いてもたってもいられない私は消えていく猫達と一緒に渦の中に飛び込んだのだった。
「そうだ!私、みんなと一緒に穴に落ちて…」
そうなると私の飼っている猫達は何処へ行ってしまったのだろう。
頭に浮かぶ私の大切な家族の猫達を思い浮かべ、私は目の前の男性達に焦りながら尋ねた。
「あの、猫見ませんでしたか?」
連載スタートです。
目標は逆ハーレム、少しヤンデレも出していきたいなと思ってます。よろしくお願いします!