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第二話 名無しのヒーロー

現在地球の総人口は200億人。

皆さんが知る数字をはるかに越えていると思われる。

いや。

その殆どがいらない人間なので。

数のうちには入らない。

例えば彼方が誰かに必要とされたとする。

大切な人だと言われる。

でも。

彼方の本質は何も変わらない。

世界から見下された。

不必要な人間であることは。



そしてまた。

誰も知らない。

誰にも愛されない。

下らないヒーローが現れる。






『 戦え! キグルマン』






夜の街を。

壊れた人形が歩く。

布の身体に綿の中身。

ボタンなどない、糸の目を光らせる。

彼の名はキグルマン。

つまらない愛の為に。

あえてその身をヌイグルミへと変えた少年。



「キャァァァァァァァァァ!!!!」



夜の街と悲鳴。

キグルマンは破れた体の隙間から。

助けを求める声を聞き。

駆け出した。



「誰かァァァァ!!!! 助けてェェェェ!!!! 巨大暴走ハニワよォォォォ!!!!」



守るために。

走る!



「イヤ―!!!! 暴走ハニワに囲まれた、古墳なんかに入りたくなィィィ!!!!」



彼の小さな手足。

走ったところでその速度は知れている。

超人的な力を持たない。

無駄骨ヒーロー。



「古墳はイヤァァ古墳はイヤァァァァァ!!!!」



何時だって後の祭り。

彼が駆けつけたときは全てが終わっている。

誰もいない。

何も無かったかのように。

被害者は古墳の中で眠っている。

考えてみれば。

キグルマンより巨大暴走ハニワのほうが必要とされているのかもしれない。

ちゃんとお墓を用意してくれる親切。

ヒーローは何もしてあげることが出来ない。



彼の住処はゴミ捨て場。

中間達と共に眠りにつく。

朝、目覚めればいつも一人ぼっち。



けれどその日だけは違った。

何かの間違いが起こったんだ。



目覚めてみれば。

誰かの手に握られている。

やっと回収されるのかな。

車が動いている。

もう一眠り。



とある屋敷に着くまで。

彼はゴミの島の夢を見ていた。



その屋敷は。

とくに世間からとやかく言われるほどのモノじゃない。

ただ、彼が連れて行かれた部屋だけ違った。

所狭しと人形が並んでいる。

首だけの人形、無機質にずっと動き続ける人形、同じ言葉をしゃべり続ける人形。

ああ、ここは夢で見たゴミの島と同じだ。

キグルマンは居心地が良かった。



ギグルマンを見つけたのは。

彼が愛した少女より、少しばかり小さい女の子だった。

人形を集めるのが趣味のバカな女の子。

綺麗な人形も汚い人形も彼女にとっては一緒くた。

新参者の彼を他の皆に紹介する。

「カラカラ! ケラケラ! 今帰ったよ〜。ゴンゴンもサラサラも元気だった?」

彼女には人形につける名前に法則性があり。

擬音を二回繰り返したような名前をつける。

「ね〜ね〜新しいお友達連れてきたんだよ。ヘロヘロもうれしいでしょ? 

えっとね〜えっと・・・ね〜・・・タマタマちゃんだよ〜」

だれがタマタマだ!

「みんな〜仲良くしてね〜」

なんでタマタマなんだ!



別にこの女の子には。

辛い境遇も無く、身の上話もない。

しいて言えば、母親が現在行方不明というだけだが。

それが全くなんだというのだろう。

彼女は能天気だった。



その能天気に。

キグルマンは油断をしていた。

夜中もっそり動く姿を。

女の子に見られてしまったのだ。

「わ〜わ〜わ〜・・・タマタマちゃん、すごい!」

タマタマやめろ!



ヒーローは。

みだりに自分の正体を人に見せてはいけない。

彼はテレビで教わった。

しかしこんな簡単に・・・。



「ねぇ〜タマタマぁ〜」

それからというもの、女の子はキグルマンを小脇に連れ。

いろいろ語りかけるようになった。

でも。

タマタマじゃないもん!

「どうしたの。ねぇねぇ・・・タマタマぁ〜」

僕がプイッと横を向くと。

彼女はクスクスと笑う。

ふざけるんじゃねぇ!



「ね〜ね〜コロコロもテロテロもタマタマみたいに動いてくれないの・・・」

うっしゃい!

「どうしてなのかな〜、ねぇねぇタマタマぁ〜」

うーっしゃい!



「ねぇねぇ、考えたんだ。プルプルもタラタラもみんな死んじゃってるんじゃないかな? ねぇねぇタマタマぁ?」

き〜こ〜え〜な〜い〜!

「だったら、お墓作ってあげないとねぇ、タマタマぁ?」

あ〜あ〜あ〜!

「家ねぇ、地下室があるんだ。そこお墓にするの。一人じゃ淋しいから、みんな一緒。お母さんもいるんだよ。ちょっとうらやましいな、ねぇタマタマぁ」

あ゛〜!!!!



「私一人じゃソロソロ達をみんな運ぶの大変だからタマタマも手伝ってね」

ぶぅ・・・

「そうだ、タマタマも見た? 私の新しいお母さん。ねぇねぇ、すっごく綺麗なんだよ。すっごく優しい人なんだよ。おっぱいがすっごく大きいんだよ。でもねみんな悪口言うんだ“土偶”みたいだって。私が持ってる土偶のドグドクちゃん変じゃないもん! お母さんも変じゃ無いもん!」

ふんッ!

「タマタマぁ・・・つぶれてるよ」

・・・

「もっとちっちゃいのでいいからねタマタマぁ」

ふん!



「早くお墓完成させなきゃね、ねぇタマタマぁ」


「本で読んだんだよ。お墓には宝物を入れなきゃならないんだって、何がいいかな〜ねぇタマタマぁ」


「真珠! 昔のお母さんの宝箱にあった真珠! これを散りばめよ。ねぇタマタマぁ」


「もうすぐ完成、ありがとねタマタマぁ・・・あれ? お墓にお父さんがいる」


「新しいお母さんがね私の事、不憫だとかかわいそうな子とか言うんだよ。ねぇねぇ私って変かなタマタマぁ? でもいいんだ、お母さんはねそういう時は決まって私を抱きしめてくれるんだから・・・えへへへへ」


「新しいお母さん・・・かわいそう」


「お父さんねやっぱり昔のお母さんの方がいいみたい。いつも一緒にお墓にいるんだよ。ダメだよねぇ、男の人はケジメをつけなきゃ、うんうん」


「お墓完成♪ お祝いよタマタマぁ。ケーキケーキケーキケーキケーキケーキ! 一緒に食べようね。彼方の分も用意させたから、でもタマタマは食べられないんだよね〜・・・へっへっへっ♪」


「今日からお手伝いさんはいなくなるんだって。お金が無いからって、でもね私見たよ、お手伝いさんにいっぱいお金あげてるの、う〜ん、そうだ! あのね・・・そのね・・・新しいお母さんがね・・・料理作ってくれるのよぉ〜♪」


「まじゅい」


「ふふふふふふ♪ 今日新しいお母さんと遊園地に行くんだ、タマタマはお留守番ね」


「そうだ! お墓には門番がいるんだよ、だからタマタマはお墓の中でみんなを守って頂戴。お願い・・・ねっ♪」


「はっ! タマタマ隊長! 元気だったでありますか!」


「ねぇタマタマは元気? あたしね〜最近すぐ疲れちゃうんだ」


「タマタマぁ久しぶり〜♪」


「・・・」


「・・・」


「・・・」




辛い思い出を、人間は忘れることが出来る。

それで精神のバランスが整うから。

ただ。

一番最初に忘れることといえば。

どうでもいい事から忘れていくんだ。



女の子はお墓に現れなくなった。

もう女の子じゃないのかもしれない。

キグルマンはずっと墓を守り続けていた。

仕事は無い。

ここはネズミも入ってこない。

でも以前よりは良かった。

誰も守れないヒーローだった頃より。



お墓が開いた。

あれは女の子の新しい母親。

新しい人形を抱えている。

お墓に新しい入居者を拒む理由があるか?

門番は快く受け入れた。

ただ、その母親が。

新しい人形を乱雑に放り投げたのは気に入らなかったが。

扉の錠が閉まった音がした後は。

静寂。



白い人形はしばらくして、かすかに動き始めた。

口を動かして、指が動いた、目が開いた。

ただ、それだけ立ち上がりもしない。

壊れた人形。

「・・・ここは・・・お墓?」

人形はテープに吹き込まれた言葉を話す。

「私ね・・・もうすぐ死んじゃうんだ・・・優しいお母さんがね・・・最後は本当の両親と一緒にいたほうがいいって・・・よかった・・・ここ、お墓だよね?」

キグルマンはゆっくりと人形に近づいた。

「あっ・・・久しぶり・・・ずっと、守っててくれたんだね・・・えっと、名前なんだっけ?」

人はどうでもいいことから忘れていく。

「カラカラ? ケラケラ? う〜んとね・・・」

でも、思い出そうとしてくれている。

その出来事だけが少しうれしい。

「私これから死んじゃうんだよね、死んじゃうんだよね・・・やっぱりお墓作っておいて良かったね・・・みんなと一緒だから淋しくないよね・・・お父さんもお母さんも一緒だから楽しいよね・・・彼方も一緒だから安心だよね・・・ヘロヘロ? コロコロ?」

僕はそんな名前なんかじゃない!

「ねぇねぇ・・・」

僕は彼方を守れない!

「ねぇ・・・」

僕はッ・・・





「・・・タマタマぁ・・・助けて・・・」





破れ汚れた布の隙間から。

助けを求める声が聞こえた。



行け行けキグルマン!

GO GO キグルマン!

今こそ閉ざされし冥界の門を打ち破り。

死者を甦らすんだ!







「キグルマンビィーム!」







人形たちは。

今もお墓の中で眠っている。

小さな人形も大きな人形も。

そこは人形の死者だけが入る場所。

生きているキグルマンは入ることが出来ない。



数日掛りで。

それもほんの小さな穴しか、扉に作ることしか出来なかった。

キグルマンが通ることが出来るほどの小さな穴しか。

僕は彼方を守れませんでした。

守れませんでした。

僕は彼方に何もすることが出来なかった。

出来なかった。

だから、できることをします。

何かできることを。

何かできることを。







夜の街。

壊れた人形が歩く。



「ギャァァァァァァァァァ!!!! 助けてェェェェ!!!!!」



叫び声、助けを求める悲鳴が。

破れた身体の隙間から聞える。



「巨大暴走ハニワだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「古墳はイヤダァァァァァァァ!!!!」



僕は助けることが出来ない。

守ることは出来ない。






「ハニワに囲まれたァァァァァ!!!!」

「ハニハニ言ってるー!!!!」

「手をつないで踊ってるー!!!!」

「助けてくれぇぇぇぇぇ!!!!」

「まだ死にたくないぃぃぃぃぃ!!!!」

「古墳だけはイヤだァァァァァァァ!!!!」

「ギィヤァァァァァァァァァァ!!!!」

「グゥァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

「アアァァァァァァァァァ!!!!」






僕のできること。

それは。

彼方たちのお墓に。

花を添えること。

花を添えてあげるから。

タマタマって呼ばないで。

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