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00.プロローグ

 やっと、やっとだ。

 やっと休日がきた!


 一体何連勤だったのか、カレンダーを見て確認するのも恐ろしい。

 今日はどんなに寝坊しても許される!

 撮り貯めていた!ドラマも!アニメも!見放題である!

 そうだ、レンタルビデオ屋に行って映画を借りてくるのも良い。

 ていうか、カラオケ行きたい。


 高校卒業後、すぐに地元の小さな企業に就職して2年と少し。

 事務職にも慣れた。時々無茶な労働を強いられている気はするが、社長はとても良い人だ。多分。


 はぬあああああ、と意味をなさない文字列を口から吐き出しながら、反射的に早起きしてしまった自分に心中で賛辞の言葉を浴びせかける。時計はいつも起きる時間、6時半を指していた。せっかくの休日だと二度寝に入ろうとしたのだが、ここ数日間…十数日間、の労働の賜物か、どうにも二度寝に入れない。

「悲しい性だな……」

 小さく独り言を呟いて、のっそり起き上がる。

 高校時代から愛用している、少しばかりよれよれの黒いジャージと白いポロシャツに袖を通す。日曜のこんな時間だ、人目もそう無いだろう。ちょっと走ったらきっと気持ちよく眠れる、そんな気がする。



 昨日の夜は雨が降ったらしい。濡れた地面と、朝のにおい。

 雨が降った次の日の朝は、どこか不思議なにおいがする。いつもよりつんとする草のにおい。土のにおい。いつもより湿気の籠った風が、頬を撫でていく。

 雨は嫌いじゃない。洗濯物は干せないし、いつもより髪が跳ねるし、だけどそれでも好きだと思う。きっとその理由の一つは、においだ。


 とんとん、とスニーカーの爪先で地面をたたいて、ゆっくりと走り出す。昔は走ることが嫌いだったのに、不思議と今は苦じゃない。強制じゃなくなったからか。自分のペースで走れるからか。

 今日はどこまでいこう。走るのは久しぶりだ。取り敢えず近くの公園まで行こうか。近所の早起きのお年寄りがいるかもしれない。世間話でもしながら時を過ごすのもいい。


 ああ、公園と言えば、昔――――



ずるっ。



「わ」

 滑った。

 いや、違う、踏み外した?


 思いもよらぬ場所に段差があった、あの感覚。

 しかし住宅街のど真ん中、段差なんて無いはずで。

 視線を下に向ける。

 は、と変な声が出た。

 真っ暗な闇がぽっかりと口を開け、私の右足を飲み込んでいる。

 何だ、これは。

 本能が、これが危険なものであると叫んでいる。

 慌てて右足をその「穴」から引き抜こうとするが、どんなに力を入れても抜けない。

 そうこうしているうち、左足から力が抜ける。違う、力が抜けたんじゃない。これは…

――――地面が、無くなった、と感じた。



 風景が凄い勢いで上に流れる。


 頭が真っ白になって、落ちている、と気付くのに酷く時間がかかった、ように思う。

 叫び声をあげたときにはもう遅い。

 眼前は真っ黒に染まり、意識が混濁していく――――。






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