後編
一人、操縦席の中で考える。
頭には安全対策でつけられたのか、黄色いひよこがついたピンクのヘルメットがいつの間にか装着されている。
(武器? これ何? 操縦席? ツインテールが操縦桿になったの?)
考えても考えても、ひとしの混乱は収まらない。
だがその混乱に拍車をかけていく。
「ひゃっはああああああああ! きたきたきたあああああああああ! よくも閉じ込めてくれたな!? てめぇら全員ぶっ殺してやるぜえええええええ!!」
ミリーがミリーじゃなくなっていた。
外部マイクから外に音声を流しているようだ。
それが操縦席にいるひとしにも聞こえるのは、どうやら内部スピーカーとも連動しているらしい。
そのせいで外部からの音声も中に入ってきている。
「全員撤退! 命を粗末にするな! 逃げるんだ!」
「助けてくれええええええ!?」
「死にたくないよおおおおおお!」
「俺、帰ったらすあま屋をやるんだ…」
阿鼻叫喚である。
(あれ? さっきまで幼女と一緒にキャッキャッウフフしてて…。 幼女が武器になって、剣で俺かっこいいする展開は…?)
「一人残らずミンチにしてやるぜえええええええええ! ひとしさん、照準を敵に合わせて右のボタンを押してください。 あ、ついでに左のボタンも出来るだけ押しっぱなしにして頂けるとベストです!」
「ベスト? ねぇ何がベストなの!? これ絶対押したらまずいあれだよね!?」
照準とかボタンを押せとか言っているが、照準を合わせてボタンを押したらどうなるかなんて、戦車に乗ったことがないひとしでも容易く想像がつく。
「ひとしさん…。 私を助けて下さった時も思いましたが、本当に優しい人ですね。 ぽっ///」
何か欲しくない好感度が勝手に上がっていく。
だが今は現状の打破が先決であることは一目瞭然だった。
「ミリー! とりあえずこのまま逃げることはできるかい?」
「分かりました! 私、こう見えても超高性能AIなんです! お任せください! 全自動で操作をいたします! 照準あわせー! 仰角よーし! …往生せいやゴミクズどもがああああああああああ!!!!!!!」
「分かってねええええええええええ!?」
ひとしの叫び空しく、ミリーから砲弾が発射される!
照準通りに人が一番多いところへと、真っ直ぐと砲弾は飛び…爆発した。
激しい衝撃音に、ミリーが…揺れなかった。
ずっしり構えている、さすが通常の三倍はあろうかという超重量級戦車である。
「おいおいそっち逃げようとしてんじゃねぇぞぉ!! 蜂の巣にしてやんよぉ!!!!!」
ミリーの雄叫びと共に、機銃が掃射される。
逃げようとした人々が蜂の巣どころか、肉片へと変わり飛び散っていくのが画面に映し出される。
「やめて!? ミリーやめて!! もうあっちも逃げてるしこの辺でいいんじゃないかな!?」
「皆殺しじゃボケがああああああああああああ!!!!!!」
ひとしの声はミリーには届かない。
その虐殺行為は、小一時間続いた。
「んー、あらかたぶっ殺したみたいですね♪」
「うん…。 もう動く物どころか建物も半壊してるけどね…」
ひとしの声に覇気はなく、顔は青ざめ、今すぐにでも吐きそうになっていた。
「で、でもあらかた片付いたし…。 もう撤収でいいんだよね?」
ひとしの言葉に反応したのか、美しいピンク色の光が部屋中をまた包み込む。
そしてミリーは元のピンクのツインテール幼女に戻っていた。
それを見てひとしは、ほっとする。
(おうちに帰れる…!)
惨状には一切目を向けず、帰ることだけを考えている。
完全に現実逃避状態にあった。
その時だった。
空にヘリの音。
どうやら運良く虐殺から逃げのびた人達がヘリに乗り脱出したようだ。
「しまった!? まだ残っていたなんて! 向かう方角は北? このままじゃ逃がしてしまう…! 急がないと!」
「み、見逃してあげてもいいんじゃないかなぁ?」
勿論ひとしの話なんてミリーは一切聞いていない。
彼女は慌ててツインテールをほどき出す。
(一体、何をしているんだ…?)
すでにこの状況に慣れつつあるひとしは、自分は傍観することしかできないと知り、ただその行動を眺めていた。
ミリーは手慣れた手つきでツインテールをポニーテールへと、素早く切り替えていた。
「さぁこれで大丈夫です! ひとしさん、私のポニーテールを掴んでください!」
「これ掴んだらまた何かあるよね!? 掴みたくないんだけど!!」
「もう何を言っているんですか。 私を信じてください!」
粉みじんも信じることができないミリーの台詞に、頑なにひとしは拒否を続けた。
だが、余計な考えが頭をよぎる。
(あれ? ツインテだと戦車だったけど…。 ポニテだと何になるんだろう?)
悩んだ結果、ひとしはミリーのポニーテールを興味本位で掴んでみることにした。
今度は、戦車じゃなくもっと扱いやすい物かもしれない。
そんな甘い考えが彼にはまだあった。
「んっ/// いきますよ! 決戦変形!」
眩い光が半壊したPS本部を包み込む。
光が収まった時、ひとしはやはり操縦席にいた。
(今度は、操縦桿が一本? なんだこりゃ)
激しい震動に燃えるような轟音が響く。
そう、ミリーは…ピンク色の戦闘機へと変形を果たしていた。
尾翼には当然トレードマークの黄色いひよこのマークがきらりと光る、かわいい。
「ちょ、離陸用の滑走路とかないよね!? てか既に浮いてない!?」
「ふっふっふ。 よく気づきましたね、ひとしさん! 実は私の空中殺戮おっと。 戦闘機形態はハリアーをベースとしてグレードアップされています! 垂直離陸も垂直着陸も可能なハイスペック機体ですよ!」
興奮気味にミリーは語る。
だがひとしは、またもや想像を上回る展開に、すでに思考は停止していた。
「そうなんだ、それはすごいね! これなら僕を家に送り届けても降りる場所に困らないね。 ありがとうミリー!」
「いえいえそんな…ひとしさんに褒められると照れちゃいます/// 御安心ください! このミリーが責任もって家まで送り届けさせて頂きます!」
「じゃあ、うちはこっから東の方で…」
「すぐに追いつき殲滅します! 逃げてんじゃねぇぞごらあああああああああああ!!」
「やっぱりいいいいいい!?」
超高性能戦闘機と化したミリーは、激しいアフターバーナーを鳴り響かせ、今…天空高く飛び上がった!
目標はヘリで逃げだした悪の親玉、PS団のメイス=スアーマンである!
尾翼の黄色いひよことピンク色の機体を光らせ飛ぶその姿は、正にピンクの流星であった。
「いっくぞおらああああああああああ!!」
「うごごごごごごごご…ごふっ」
激しいGに耐えながら、ひとしは本日何度目かの臨死体験をしていた。
そんなことは気にもせず、北へと逃げるヘリ相手に、超高性能戦闘機ミリーは瞬く間に距離を詰めていく!
「射程圏内に入ったぞおらああああああああ!! ひとしさん! ロックオンしました! ミサイルを発射してください!」
「しないからね!? 発射しないからね!?!?」
ふっと、ヘリに乗っていたメイス=スアーマンと、ひとしの目が合う。
今、二人の心は一つだった。
「海の藻屑になりやがれドサンピンがあああ!! 発射ああああああああああ!!」
「「もうやめてえええええええええええええ!?」」
ひとしとメイス=スアーマンの言葉が一致する。
だが言葉虚しく、発射された二発のミサイルはまるで吸い込まれるように、PS団のヘリに進み…。
命中し、ヘリごと爆発四散した!!
「きったねぇ花火だぜ! やりましたね、ひとしさん! 悪は滅びました。 私達二人の勝利です!」
「あれ、おかしいなぁ。 俺撃ってないよね? ははは、共犯になってる」
何を言ってもすでに無駄であり、ひとしは半分白目を向いていた。
「さて、それでは後はひとしさんのご実家に御挨拶…ご実家にお送りすれば任務完了ですね!」
「待って? 今何か変な単語が入ってたよね? 御挨拶とか言ってたよね?」
「気のせいです! では東に向かい…。 ん?」
やっと解放される。
そう思っていたのにミリーの様子が何かおかしい。
「どうかしたのかい?」
「いえいえ、大したことではありません! では向かいますねー」
そう言いミリーは、機体を反転させた。
「もうやだなー。 ミリー? そっちは南だよ」
「うふふー。 いえ、実は動体センサーに反応がありまして…。 どうやらまだゴミクズが残ってるようなんですよ」
「…え?」
反転したミリーは真っ直ぐに南へと向かう。
目的地は、半壊したPS団本部だ。
「もういいじゃん! いいよね!? 許してあげようよ!! はい、終わり! ここまで! 撤収ー!!」
「ひとしさんは本当にお優しいですね。 ですが立つ鳥跡を濁さずと申しますし、ここは最後まできっちりいきましょう!」
「濁していいからあああああああ!?」
「絨毯爆撃じゃおらあああああああああ! 投下☆」
ミリーから落ちた数発の爆弾は、見事にPS団本部跡地に命中し、半壊していた建物全てが燃え落ち、更地になっていくのが見えた。
「もう…いいや。 やっと帰れる…」
「ええ、では今度こそ東に向かいます! 絶対離しませんよひとしさん」
「ん? ミリー今なんか小声で言った気がしたんだけど…」
「気のせいですよ! では帰投いたします!」
世界を手にしようとするPS団は、今この二人の人知れぬ活躍により、滅びた。
悪は滅びた! 世界は救われたのである!!
ある和菓子屋があった。
和菓子は手抜き、なのに妙に値段が高くて店には閑古鳥が鳴いていた。
そこに目を付けた悪の組織PS団の手により、和菓子屋はすあま屋へと洗脳され、売上が300倍以上となり、連日満員御礼行列のできるすあま屋として繁盛した。
だがその極悪非道な組織は、名も知れぬ二人の手によって打ち倒された。
その後、そのすあま屋の両親の洗脳は解かれ、和菓子屋としての再スタートを歩み出す。
商品の90%をすあまとし、残り10%を和菓子とした行列のできる店となった。
勿論和菓子は手抜きでおいしくないので売れない。
その店には、看板娘がいる。
ピンク色の綺麗な髪を、ツインテールに束ねた、とても可愛らしい幼女だという話だ。
少年と共に、今日もきっと楽しくお店を盛り上げてくれていることだろう。
「ひとしさん! 万引きです! 追撃し、殲滅します! 私のツインテールを握ってください!!」
「やめてくれえええええええええええええええ!!」
おしまい。




