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前編

 すあま…、それは白色やピンク色で、甘くてもちもちした和菓子である。

 地域によっては、紅白のすあまを詰め合わせて、祝い事の席で配る習慣などがあったらしい。

  そのもちもちしておいしいすあまを利用して、世界征服を企む組織があった。


 その組織の名は、PERFECT SUAMA団。

 通称PS団。

 すあまこそが完全であり、すあまこそが神そのものである。

 その教義の元に動き、世界中の和菓子屋をすあま屋にする事を企む、残虐極まりない組織である。

 組織を束ねる者は、PS団のトップであるメイス=スアーマン。

 好物はすあま、嫌いなことはすあまとなるとを間違えられることである。

 間違えた者には制裁として、すあま一年分が送り届けられる悪逆っぷりである。

 その野望を打ち砕くため、今立ち上がった者がいた…。



「くそっ! PS団め!」


 単身、PS団の本部に乗り込んでいる少年。

 名は、ひとし。

 彼の実家は和菓子屋である。

 だがPS団の陰謀によって、すあま屋に変えられてしまった。


 そのせいで、閑古鳥の鳴いていた実家の売り上げは300倍にも達し、今や連日行列のできるすあま店として超有名となった。

 正に絶対悪とでもいうべき非道な行いである。


「おのれPS団! 悪逆非道な輩め! 弱味を握って絶対に潰してやる!」


 ひとしは実家の和菓子屋にされた仕打ちでも思い出したのだろう。

 悪態をつきながら、PS団本部の地下通路を進んでいた。

 そこで、妙に分厚い壁で覆われた部屋を見つける。


「ここは怪しいな。 でも見張りもいないし…。 一応調べてみよう」


 抜き足差し足気を付けながら、ひとしは薄暗い部屋の中へ侵入をする。

 そして部屋の奥に辿り着き、そこに一人の幼女が囚われていることに気付く。


「誰か…いるんですか?」


 ひとしは気を付けて幼女に近づき、優しく話しかけた。

 優しく幼女に話しかけるとか、場合によっては怪しい人である。


「こんな所に囚われて…。 大丈夫かい? 今助けてあげるよ」


 彼は幼女を拘束していた電気シールドを解除し、大丈夫なことを確認すると、その側へと近づいた。


「大丈夫かい? 俺はひとし。 君の名前は?」

「私はミリーといいます。 助けて下さり本当にありがとうございます!」


 幼女は、綺麗なピンク色の髪をツインテールにしている、とても可愛らしい子だった。


「ひとしさんはPS団の人間ではなさそうですが、一体ここで何をしていたんですか?」

「ああ…。 俺はPS団を潰そうと思ってきたのさ!」

「PS団を…! ひとしさんお願いです! 私にも手伝わせてください!」


 ミリーは何を思ったのか、ひとしに同行したいと言い出した。


「駄目だ! 危険だ!」

「でも…。 ここで一人にされてしまってもどうしたらいいか…」


 確かに彼女の言う通りであった。

 彼女を連れて脱出することもできるが、次もこの様にうまく侵入できる保証はない。

 ひとしは覚悟を決めた。


「分かった。 手伝ってくれるかいミリー?」

「はい! よろしくお願いしますひとしさん!」


 二人はお互いの力を合わせるために手を取りあったのだ。

 目指すはPS団壊滅!


「ミリーは内部については詳しいのか?」

「はい。 一応長くいますので大体の構造は理解しています」


 それならば話は早いとひとしは思った。

 ミリーに重要書類のある所に案内をしてもらえばいいのだ。


「ならミリー。 この本部で最も重要な所に案内をしてくれないか?」

「え…」


 ミリーの顔が強張る。

 だがそれも束の間、ミリーはひとしに向き直った。


「分かりました。 こっちです! 着いて来てください!」


 ミリーの案内の元、地下通路から1Fに戻る。

 ひとしはPS団に見つかることを警戒していたが、ミリーはその辺りも熟知していたらしく、何事もなく目的の部屋に辿り着いた。


「ここです、ひとしさん」

「ここか…。 長かったな、ここまで」

「はい。 色んなことがありましたね…」


 などという茶番を二人で行い、顔を合わせ笑いあった。


「まずは俺が様子を見てくる。 ミリーはここで待っていてくれ。

「え…。 ですが、ひとしさんに何かあったら…」

「大丈夫だ。 安心して待っていてくれ」

「…分かりました。 気を付けてくださいね!」


 ひとしはその部屋の扉を、今解き放つ。

 恐らくは資料室だろうなと、ひとしは予想していた。

 しかし、それは大きな勘違いだった。


「む。 な、何者だ貴様!」

「え?」


 ひとしはひどく狼狽した。

 それも当たり前だ。

 扉を開けた先には広い部屋、たくさんのPS団員、そして一際高い壇上には…PS団のトップである、メイス=スアーマンがいた。


 深く呼吸をし、ひとしは自分を落ち着かせようとした。

 目の前には悪逆非道、因縁極まるPS団が集まっている。

 言いたいことはいくらでもある。

 そしてそれは今だと…!


「すいません。 間違えました。」

「曲者だ! 捕えろ!!」

「ですよねえええええええ!?」


 目の前にいたPS団員達が武器を構える。

 木べら、お玉、簾などなど危険な武器を構え、ひとしに向き合う!


「く、くそ! 武器なんて卑怯だぞ!」

「不法侵入をした奴に言われたくないわ!!」


 ごもっともである。

 絶体絶命、何か打開策はないかとひとしが考えていた時、後ろから飛び出す小さな物影があった。


「おのれPS団! 無抵抗の人間に武器なんて、恥を知りなさい!!」

「「ミリー!?」」


 ひとしとメイス=スアーマンの声が被る。


「き、貴様まさか…ミリーを解き放ったのか!?」


 なぜか動揺しているメイス=スアーマンを見て、ひとしはこれはチャンスだと思った。


「こんな幼気な幼女を捕え拘束していた極悪PS団! これが明るみに出ればどうなるか分かっているのか!」

「待て! 落ち着いて話し合おうではないか!」


 いける…! ひとしは直感した。

 

「ぐっ…。 仕方あるまい! 全員急いでその二人を拘束しろ!」


 駄目だった。


 あっという間に逃げ場を抑えられた二人は、壁際まで追い込まれる。


「くそっ。 何か方法は…!」

「落ち着きたまえ少年。 最後のチャンスだ。 大人しく拘束されるのであれば、手荒なことはしないと約束しよう」

「そんな言葉を信じられるか!」


 やれやれとメイス=スアーマンは溜息をつく。


「少年。 君はミリーの正体を知っているのかね? 彼女は我々が世界に対抗すべき作り出した。 その結果、調子にのって色々とやり過ぎちゃった系の最終決戦兵器だ」

「兵器!? こんな幼女相手に何を訳の分からないことを言っている!」

「…本当です、ひとしさん」


 ミリーは目を伏せ、悲しげにスカートの裾を両手で掴み、小さく震えていた。


「でも! PS団を潰したいという気持ちはひとしさんと同じです! 私を信じてください!」


 賢明に自分へと語りかける幼女。

 たまらないな。

 ひとしは即決でミリーを信じることにした。


「当たり前だろミリー! 俺達は一蓮托生! 信じるぜ!」

「…ありがとうございます。 ひとしさん、ここを打開する方法が一つあります」


 ミリーの言葉にひとしは驚く。

 だが今更疑う理由は一つもなかった。


「さっきも言っただろ。 俺はミリーを信じる! どうしたらいい?」

「私は兵器です。 ですが一人では何の力も使えません。 私を武器として使ってください!」


 なるほど、確かにミリーが武器だというならば、この場を打開することも可能かもしれない。

 それはPS団達の狼狽っぷりからも明らかであった。


「待てミリー! 話し合おう少年!」

「うるせぇ! どうすれば君の力を使えるんだ?」

「私のツインテール(・・・・・・)を、一つずつしっかりと手で握ってください!」

「分かった!」


 ツインテールを掴む?

 つまりこのツインテールが剣か何かに変わるのだろうと、ひとしは直感する。

 最終決戦兵器というくらいだ、それはもう持った瞬間超人になってしまうようなすごい武器なのだろう。

 ひとしは厨二病であった。

 にやにやとしながら、ミリーのツインテールを強く握りしめる!


「あっ/// あの、もう少し優しくお願いします///」

「す、すまない」


 頬を染めながらお願いする幼女に、ひとしの心臓が早鐘を打つ。

 そして少し力を抜き、優しくしっかりとツインテールを握りしめ直す。


「いきます! 決戦変形(KILLorDIE)!」


 何か今物騒な言葉が聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 ひとしはツインテールを握ることで無我夢中だった。


「やめろおおおおおおお!!」


 メイス=スアーマンの絶叫が響く。

 そんな中、ミリーの体がピンク色に光り、部屋中を眩しく照らし出す!!


 ひとしの握るツインテールを先程までの柔らかさはなく、しっかりとした感触がある。


(これはやはり剣に間違いない。 双剣使いひとしの冒険が始まってしまう!)


 ひとしはのりのりである!

 そこで違和感を感じた。


(あれ? 何か握っている部分が少し湾曲していて…丸い?)


 輝きを止めないミリーの体! 撤退命令を出すメイス=スアーマン!

 部屋の中は混沌としていた。


 そんな混沌は我知らずと、ミリーの体は粒子状になりひとしの体を包み込む!


(鎧きたこれ! 攻撃も防御もばっちりじゃねーか!)


 そして一際眩い光を最後に放った後、ミリーの決戦変形(KILLorDIE)は完了していた。


 しっかりとした握り手。

 ピンク色に輝くボディ。

 圧倒的な威圧感を誇る砲身。

 気付くとひとしは操縦席に座り、操縦桿を握っていた。


 そう、ミリーは黄色のひよこのシンボルマークをつけた、通常の3倍はあろうかという、巨大なピンク色の戦車へと変形していたのだ!!


「なにこれこわい」


 ひとしは完全に置いてけぼり状態で、操縦席の中で茫然としていた。

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