表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
99/141

海美のチョコレート

「やっと打ち解けたよ。私はね。私ばかり、いつも損をしているなんて馬鹿なことを考えていたの」


「お役目がお役目だったからな」


「でも今は楽しいよ。みんなと仲良くカフェに行ったり、お弁当を食べたり、休んでいた分を毎日、取り戻している感じ。楽しいよ」


「良かったな。本当によかった」


「皓人。私のこと、どう思っているッスか?」


「どうって」


「ずっと離れていて、再会して、まったりとした関係になって、まるで熟年夫婦みたいっス」


「いいだろう。それも。こうして、お前といると落ち着くんだから、それはそれでいいと思う」


「ずっと一緒に居るのは落ち着く相手が良いっていうッスよね」


  空美は僕の指を握った。


「そうだな」


「でもね。皓人は皓人が好きになった人を選んでほしいの。あなたの幸せそうな顔を見ると私幸せだから。でも私を選んでくれたら、本当に幸せだから、だから私、頑張れるから。家長だって、お役目だってきっとやりきれるから。凄い力で頑張れるんだから」


 空美は笑った。


「放課後、待っているね」


「ああ。行くよ」


 僕らは手を叩いて別れた。


 小宮山君には悪いけど鏡の魔女のことよりもチョコレートのことが気になって仕方なかった。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 律男君はお弁当の時間に僕の席に来た。


「どうしてでしょうね。お兄様」


「なんだ、律男君」


「紳一郎はなぜ、この時期にバレンタインなど決行したんだ?」


「多分面白いからだ」


「あの人そんなことで、みんなを巻き込むのかな?」


「どういうことだ?」


「つまり、何か思惑があるんじゃないかと思うんだよ」


「思惑。もしかして」


「鏡の魔女だ」


「どこかで見ているってことか?」


「見ているんじゃないか。隙を狙って」


「まさか」


「俺のことも利用しようとした人だ。何か考えがあるのかもしれない」


「襲撃があるってことか?」


「解らない。解らないが、用心に越したことはない。狙われているのは由貴音だ」


「肝に銘じておこう。ありがとう。律男君」


 僕は引き締まる思いで放課後を待った。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 放課後、僕はまず海美のところに行った。

 屋上。気が引き締まる。

 そこにはチョコの庭園が出来ていた。


「庭園!」


 のけぞる僕。奥には宮殿もあった。


「力作だ!! 皓人。見てくれ!!」


「食べられるのか!」


「そうチョコレートの庭だ。食べられる。さあ庭ドンをしろ」


「出来ないよ。崩れるよ」


「一生懸命作ったんだぞ。クーベルチュールチョコレートを使って。さあ」


「海美。一緒に写真撮ってもいいか?」


「いいぞ」


 僕らは二人で写真を撮った。


 海美は王子様らしい笑みを浮べた。


「私様が庭ドンをしてもいいか?」


「どうやるのさ」


「庭ドン!」


 海美が庭ドンをするとチョコレートのバラの花が飛び散った。

 海美の顔が近いドキドキする。


 チョコレートの甘い香りで脳髄がマヒする。ピンクの唇がほほ笑んだ。


「あなたを愛している」


「あ、ありがとう」


「それだけか?」


 海美は僕の鼻にかみついた。


「ちょっ、海美。やめ」


「やめない」


「やめ、やめて……ってやめんか!」


 赤面どころの騒ぎじゃない。


 すごいなあ。あの守りの海美が攻めに出るなんて反則だ。

 頭の花輪の花が咲く。


「攻めてはいけないか?」


「いけないかじゃなくって、ドキドキしたよ。新鮮だった」


「そうか」


 海美は華々しく笑った。今まで空美の陰に隠れていて寂しそうだった海美。

 それが、今はこんなにも美しい。


「残さず食べてもいいかな」


 僕はチョコレートで出来たバラの花を食いちぎった。美味しい。


「喜んで」


「最高だ」


 僕は海美の額にキスをした。

 海美は真っ赤になって照れて、僕の鼻先にキスをした。


「勘違いするなよ。こ、これはちょっと手が空いたから頑張っただけだ。お前の為だけじゃないからな。伊理亜ちゃんと優梨愛ちゃんにもわけろよな。なんて、本当はあなたのために頑張ったんだ! そこを忘れるなよな」


「わかっているよ。ありがとう」


 海美は顔を真っ赤にして気絶した。僕は海美を背負って保健室へ連れて行った。

 よほどの勇気を振り絞ったのだろう。


「ありがとう、王子様。」


 僕は上の階に歩いていく。

 その階段には空美が待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ