表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
98/141

よかったな

「にいに、おはよう」


「お兄ちゃん、おはよう」


 昨日は呪いでも何でもなく一睡もできなかった。


「おはよう」


「にいにが弱々しい」


「おにいちゃん何か悪い物でも食べた?」


「伊理亜、優梨愛。僕はもうだめだ」


「何がダメなの」


「一人の女の子を選んで、デートしなくちゃいけない」


「それは良い話だよ。いいじゃない、にいに」


「ひょっとしてみんな好きなんだ」


「なぜわかる」


 妹たちは胸を張った。


「正直に決めればいいよ。にいに」


「正直過ぎてもな。たとえば綱子ちゃんは不器用だ」


「うんうん」


「その不器用な子が作った一生懸命な不器用なチョコと、真里菜ちゃんの一生懸命造った綺麗なチョコレート。僕はどっちを選べばいいか、解らないんだ」


「チョコってなあに?」


「それ美味しいの?」


 妹たちはじゅるりとなった。よっぽど食べたかったらしい。


「持って帰って」


「持って帰ってよ!!」


「うん。解った」


 持って帰れる大きさなら。そう思った。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 学校にたどり着くまで気が重かった。でも腐っていてもしょうがないと思った。


 一歩前へ。


「おはよう」


 綱子ちゃんの顔が引きつっていた。


「お、おはようございます」


「どうしたんだ、綱子ちゃん」


「どうもしません。一睡もできませんでした」


「気が合うな」


「一睡もできない。心臓がバクバクして眼がギンギンします」


「僕もだよ」


「この際、私を選んでみませんか?」


「ちょっと待て。待ってくれ。バレンタインデーはもっと淡い物だと聞いたぞ。告白されるかどうかわからない儚い柔らかい物だと聞いたぞ。小宮山君に」


 小宮山君が見たのは儚い夢だろうか。それとも、僕が見ているのが儚い夢なのか。


「私たちの場合、告白が前提です。殺気立ちます」


「知っていることを再確認する必要がどこにあるんだ」


「随分信頼しているんですね。私たちを」


「いけないか?」


「心が変わっているかもしれませんよ。特に真里菜はあなたを好きになってもいいですかの子ですよ」


「そうだよな」


 心を引き締めよう。フラれる可能性もある。


「今更皓人には何もできないでしょうけどね」


「どういう意味だ」


「心とは儚い物です」


「川柳が読めそうだ【好きな人 月日が流れて 秋にけり】」


「飽きると秋をかけましたね」


「最近、技術を磨いているのだ」


「それは俳句です」


「くそう」


 僕は綱子ちゃんと教室に入った。


「君の心は変わっているか?」


「何も変わりません。強くなったくらいです」


「どう強くなった」


「心は見せられません」


「そうか」


 教室に入ると真里菜ちゃんが待っていた。


「先輩。放課後お話があります」


「ああ、うん。良いよ」


「放課後まで待ってくれますか」


「うん」


 なんだろう、胸が高鳴る。


「私、こんな気持ち初めてなんですっ。こんなドキドキした気持ち、どうしたらいいかわからないんですっ。私、私、緊張していますっ。先輩、私……こんな心細い気持ち初めてですっ」


「うん」


「あの、うまく作れないかもしれないけど、学校でしか作れないから受け取ってほしい物があるの。私、お昼休みに頑張りますからっ。昨日頑張ったけどうまく出来なくって。だから放課後まで待ってください」


「期待して待っているよ」


「先輩」


 真里菜ちゃんはようやく微笑んだ。


 調理室の貸切りか。何ができるんだろう。楽しみではある。

 そこに海美が走ってきた。


「放課後屋上に来い。良いな」


「ああ。うん」


「絶対だぞ。絶対来いよな」


 もはや脅迫だった。


「ああ、必ず行くよ」


「この街のチョコは私様が買い占めた!! 勝つのは私様だ」


「やりすぎだよ」


 道理で真里菜ちゃんが苦しんでいるはずだ。


「そこまでして勝ちたいのか?」


「私様は勝ちたいよ。いつだって勝ちたい。勝ってこなかった人生だ。勝ちたいよ。私様はお前に選んでほしいんだ」


「海美」


「じゃあ放課後、屋上で」


 悩むな。あいつを勝たせてやりたい。しかし。


「どうしたものか」


 そこに空美がやってきた。


「皓人。チョコレートを準備したから。放課後、待っているから。教室に来て」


「チョコレートなどどうやって準備した。海美が買い占めたんじゃないのか?」


「海美から、買ったんだよ」


「相変わらず仲がいいんだな」


「うん。前より仲良くなったよ。何か辛かったみたいだね。海美は」


「お前は立派な姉だからな」


「立派じゃないよ。立派じゃない。試行錯誤していつも悩んでいたの。帰ってきて海美とはそんな話をしたの。そんな話しかしなかったの」


「打ち解けたんだな。よかったな」


「うん」


 その空美の笑顔は天使のようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ