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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
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プレッシャー

「みんなで小宮山君を応援っスか。良いっすね。小宮山君は私のクラスの人だよ。良い奴でさ、昨日も一緒にベースボールをしたよ」


「スポーツ仲間かよ」


「彼のストロークは長いっす」


「なんと! ストロークは深いだ!」


 意外と野球好きの僕だった。

 空美はにこにこしている。


「空美、バレンタインの話を聞いたか?」


「明日やるんスよね。誰が上手に告白できるか? いいスね。初々しいっスね。燃えろ、空美っス」


「燃えろ、空美は何を作るんだ?」


「言ったらつまらないっス」


「ヒントだけでも」


「いいものを作るっス」


 空美は上目遣いで僕を見つめると顔を真っ赤にして走って行った。


「なんだったんだ」


 海美がよろめく。


「お姉ちゃんは本気っス!」


「キャラ変わっているぞ。それは本気だろうな、海美」


「本気で迎え撃たねば死ぬかもしれんぞ。皓人」


「何を作ってくるんだ!」


 空美は訳の解らないものを作ってきそうだ。

 対して焼き肉を作るのにも牛から選んでくる海美のことだ。海美の本気。何を食べさせられるんだろう。旨い物だといいが。


「そんなに切羽詰っているのか、海美」


「私様の気持ちは放っておけ」


 小宮山君の正体も気になるが明日も気になってしょうがない。

 それよりも今は小宮山君だ。


 僕はゆっくり歩いて小宮山君と由貴音ちゃんの前に立った。


「小宮山君、話がある」


 由貴音ちゃんが泣いた。


「佐伯君の気持ち、よくわかるよ。明日の仮バレンタインに小宮山君に何かを送るつもりなのね。うう。佐伯君には勝てないの。良いよ。好きにして。ミケランジェロチョコを送って」


 律男君がジャンプして由貴音ちゃんの肩を叩いた。


「由貴音。お兄様に何を言う」


「律ちゃん、いつの間に佐伯君とそんなに仲良くなったの?」


「お前こそ、小宮山先輩とそんなに仲良くなりやがって。水着デートってなんだよ」


「律ちゃんも来る?」


 小宮山先輩は感涙した。


「由貴音くんは可愛い。由貴音君を鯖折りにしたい」


「小宮山先輩」


「由貴音くん」


 ラブラブだった。その様子を見つめる律男君。なんだか殺気立っている。

 なんだか気が引けるが。


「小宮山君。話がある」


「俺もだ。話がある。佐伯、川柳部でなくて柔道部に入れ」


「嫌だ!」


「その話じゃないのか」


「その話じゃない。なんでそんなこと承諾しなくてはならないんだ」


「南蛮歩きの出来るお前には隙が少ない。そんなお前が柔道の試合に出れば勝ち放題!」


「そんなわけあるか。受け身が取れないんだよ」


「そこをなんとか。そうだ、空手はどうだ?」


「あんな痛いスポーツできない」


「お前なら勝てるんだよ! 絶対勝てるんだよ。素質がある」


「勝てるわけない」


「そう言うな。強くなれるぞ。空美よりも」


「空美よりも? それは嬉しいが! って本当か!」


 気になることがある。


「ひとつ言いたいことがある。君はローマ人だ。小宮山君!!」


「どう推理した?」


「彫が深い! それに所作がローマのスポーツ選手のようだ。僕らとはまるで違う」


 小宮山君は咳払いした。厳しい顔で僕らを見た。


「いかにも俺はローマ人だ。俺はローマからイカルガに逃げてきた」


「どうして」


「いや、逃げてきたんじゃない。追ってきたんだ。鏡の魔女を」


「鏡の魔女を」


 小宮山君はうなずいた。


「転生した鏡の魔女は我が一族に不穏な呪いをかけていった。その呪いとは若返りの呪いだ。代償に我が一族はすべて老人で生まれてくる。それがどんなに辛い事かお前たちにわかるか。生まれたばかりであの苦痛。俺たちは鏡の魔女が逃げたイカルガを目指し、また一人、また一人とへっていき、とうとう俺一人になった」


「小宮山君。そんな……」


 由貴音ちゃんは泣いていた。


「すまない。びっくりさせた」


「ううん。良いの。小宮山君のことがもっと知りたかった」


「ありがとう。由貴音くん」


「小宮山君」


 二人の世界だった。


 律男君が恐る恐る口を開く。


「小宮山、そんな大変な思いをしてここに来たのか」


「ああそうだ。大変な思いをしてここまで来て、今、とても良い思いをしている。あはは」


「許すもんか!」


 小宮山君と律男君がもめ始めたので僕はなんだかなあと思った。


 やはり鏡の魔女が曲者か。


「小宮山君の一族は何者なんだ?」


「俺たちの一族は光の妖精の一族だ」


 空美が頭を振った。


「それ本当?」


「白雪姫の一族に会うために、我が先祖は血を残した。それがいけなかった。我が一族はもうほとんど残っていない 鏡の魔女に襲われた」


 疲弊していく一族。


「赤雪姫に復讐するためか? 鏡の魔女め」


「許せない」


 空美は拳を握りしめた。


「鏡の魔女はどこにいったんだろう?」


「解らないんだ。どこに行ってしまったのか?」


「鏡に潜んでいるのかな」


 空美は頭を振った。


「とにかく、小宮山君の一族を救わないと、我々の一族にも明日はないよ」


「赤雪姫は」


「眠っているの」


「ずっと心臓を抱えて眠っている」


 はっとする。そう言えば最近の僕の眠気が嘘のようだ。まさか。

 そんなはずないか。赤雪姫が僕に優しいなんてそんなはずない。


「赤雪姫は皓人が好きだよ。守ってあげたいって思っているんだよ。だから、今までのことは全部、許してあげて。皓人は広い心の持ち主でしょう?」


「僕はまだ赤雪姫を許していなかったのか」


「心の奥底では。許せてなかったんだよ」


 許すって難しい。


「この戦いが終わったら許すよ」


「ありがとう、皓人。明日、楽しみにしていてね」


 空美は去って行く。綱子ちゃんは僕らに頭を上げた。


「首を洗って待っていろ!」


「キャラ変わっているぞ!」


「失礼しました!」


「失礼だよ」


 何てことだ。

 真里菜ちゃんははにかんだ。


「先輩。力作、楽しみにしてくださいねっ」


「なに、そのハードルあげても平気な安定感」


 安心できる。真里菜ちゃんの料理は。


 海美は僕をじっと見た。


「凄いものを作って行くから、覚悟しろ」


「お前の凄い物は本当に凄いんだよ」


 なんだろう。楽しみのような不安のような。


 小宮山君が白い歯を見せて笑っていた。


「誰が大賞を取るんだ?」


 それがプレッシャーなんだよ。

 楽しみだけれど明日が来なければいいのになんてことを本気で考えた

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