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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
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お兄様

「僕の妹はまだ小さいぞ!」


「大きくなるまで待つよ。にいにって言われたい」


 映像の妹たちにめろめろの律男君。


「好きなのは優梨愛か! 伊理亜か!」


 僕は涙を流した。まだ育てている途中だというのに、嫁に行く日を妄想してしまった。

 綱子ちゃんじゃないのに涙があふれた。号泣だ。


「大丈夫。俺、嫁に来る日まで手を出さないから」


 胸を張る律男君。


「そうしてくれ。ロリコン」


「大丈夫だ。年の差婚は大抵ロリコンだから!」


「年の差婚の人に失礼だぞ!」


 僕らは息を切らした。


「律男君。後で妹に会いに来てくれないか?」


「普通は断るところじゃないか?」


「妹が限界みたいな変な人と会う前に、結婚を決めておきたい」


 情緒不安定な僕だった。


「そう言えば小宮山のことだけど気になることがあって」


「なんだ?」


 何が気になるというんだ?


「あいつ、ここ半年の間にイカルガに来たばかりみたいなんだ」


「それはつまり」


「その限界って人が輸入してきたんじゃないか?」


 僕と綱子ちゃんと真里菜ちゃんは蒼白になった。


「まさか本当にローマの人か?」


 しばらく脳を止める。


「だとしたら、限界の味方か?」


 綱子ちゃんが首をかしげる。


「何かを探しに来たのでしょうか?」


「どうしてそう思う?」


「そうでもないと辺境のイカルガまでくる理由が見当たりません」


「イカルガに来る理由か」


 僕は深呼吸した。


 八百万やおよろずの土地神が生きていて呼吸をしている土地。


 その数は現代になってかなり減ってしまったが、それでも、たくさんの神々が呼吸をしていることには間違いない。イカルガは他の土地より魅力的な土地だ。土地神や、物神が溢れ、エネルギーには事欠かない。神はエネルギーだ。人々の願いは神を支え、神を生かす。それがエネルギーとなって、イカルガの町を無尽層に動かし続ける。巨大装置だ。他所の土地では土地神はあまり根付かなかったらしい。


「イカルガのエネルギーで何かしようとしているのか?」


 だとしたらあまりにも。荒唐無稽。


「荒唐無稽ではありません。それができるからイカルガは鎖国したのです」


 鎖国。


「海外の文化を入れないのが目的ではありません。海外の人を入れないのが重要なのです」


「では白雪姫の一族は」


「イカルガにとっては余計なものですが、しかし今はそうではありません。ヒルメ様を支えておられますから、例外中の例外でしょう」


「歯車になったということか?」


「歯車でなければ意味はありません。イカルガにとって、海外の人は危険なのです。特に神にとっては。海外では腐り神が多いそうです。自分たちの教義に合わない神は腐り神と認定するからです」


「つまり」


「鎖国は神の為です」


「神の為か」


 深呼吸した。


「僕等はヒルメちゃんの為になっているだろうか?」


 真里菜ちゃんが振り向く。


「なっていますっ。でないとヒルメ様があんな嬉しそうな顔をしませんっ」


「だといいが」


 律男は僕の方を見た。


「俺の一族はお前らの遠縁だってな。由貴音がそう言っていた」


「そういうことになるね」


「遠い親戚か。よろしくな」


「よろしく」


 和やかなムードで、僕らは笑う。

 由貴音ちゃんはどうしているだろうか?


「小宮山先輩と仲良くしている。目も当てられないぜ。見てみるか?」


 僕等は校庭のベンチに腰かけた小宮山先輩たちを見かけた。


「今日はいい天気だな」


「いわし雲が浮かんでいますね」


「イワシは弱い魚とかく」


「そうですね。海でジャンプする魚の群れを見かけたら、その下にはイワシの群れがいるの」


「弔ってやらねば。弱い魚よ!!」


「はい。弔いに行きましょう」


「そうだ。水着を買って海に行こう。俺は泳ぐのも得意だ」


「でもまだ寒いから。それに私恥ずかしいの」


「大丈夫だ。お前は何を着ても可愛い! 愛している!」


「小宮山先輩!! 私、私……」


 律男君は嫌な顔をした。


「いつでもあんな調子なんだ」


「清浄の気にやられるな」


 僕らは毒気を抜かれて横になった。しかし、疑問も残る。


「あんないい人が本当は何をしに来たんだろう? 律男君」


「あれが良い人か。どこがいい人だ。人の妹の水着を見たいなどと。犯罪者め」


「律男君。君も数年後にはああなる身かもしれんぞ。僕に跪け」


「すみません。お兄様」


「ところで、世の中にはどうして長い水着がないんだろう」


「絡まるからじゃないか。泳いでいて危ないから」


「そうかもしれないが、やはりパレオなのか。女の子を美しく見せるのは」


「パレオか。露出を減らした方がセクシーに見えるのは世の中、不思議なもんですね。佐伯お兄様」


「お兄様はまだやめて。心の準備が」


「お兄様。あの二人の邪魔をしましょう」


「やめてまだ、心の準備が!」


 いつの間にかやってきた海美が僕らを見ていた。


「何をやっている。戯け。私様は声を大にして叫ぶぞ。人の恋路は邪魔するなと」


「しかし小宮山君は、限界によって輸入された人間かもしれないんだ」


「何だって」


 海美は渋い顔をした。


「あのローマ人、限界の手先か。恋路どころか、メイドの土産まで準備してやる。くくく」


「海美。言うようになったな」


 僕は感心した。感心しかしなかった。


「ところで皓人。バレンタインだが。凝ったことをしてもいいかな?」


「凝ったこと?」


「チョコレートの庭を造ろうと思うんだが」


「なんで。そっちの方に行っちゃうの。海美さん! そんな物食べられないよ」


「皓人がその庭で私様を押し倒してくれたら、私様、大賞を取らなくても大丈夫だから」


「それ自体が大賞だろうが、王子様!」


 僕はあきれた。


 綱子ちゃんの目が勢いよく燃えている。


「チョコレートなど最初から作れるはずのない物をこねくり回す意味が解りません」


「君は不器用だったよな」


「はい。綱は不器用です」


 認める綱子ちゃん。


「これでは大賞が取れないので、一人ひとり闇討ちしたいと思います」


「そんなバレンタイン、要らないよ」


 戦々恐々する。


 そこに空美がやってきた。

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