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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
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暴走バレンタイン

「よく考えてください。私はともかく、綱子ちゃんと海美ちゃんは暴走します。いえ、暴走していたでしょう」


「海美もか?」


「はい。海美ちゃんは思いつめて暴走するタイプなので、いろいろと事故が起きます」


「どんな事故だよ」


「先輩はひょっとしたら暴走する狐とバトルになっていたかもしれません」


「それは怖いな」


 海美が地球掃除機である狐を押さえつけてくれているからこそ、イカルガは平和に回っていると言っても過言ではないのに。


「それに綱子ちゃんと海美ちゃんが激突していたら、あの共闘はありませんでした」


「そう言われればそうか。そうか限界は策をあらかじめ用意していたのか」


 僕らを破滅させる策を。


「それだけではありません。その上にホワイトデーです」


「それはなんだ?」


「バレンタインデーのお返しに男性からクッキーがもらえる日まで作っていたのです」


「なんだ、その風習は。聞いたことがないぞ」


「限界はクッキーも好きです。ですから、バレンタインデーのお返しにあなたが何を返すかもやもやする様を高みで笑おうとしたのです。しかしその試みは脆くも崩れ去ったのですっ」


「そんな計算高い罠が準備されていたというのか?」


「はい。全て父が調べたところによると、私たちに仲間割れを起こさせる、ただそれだけのために、限界はこの二つの日を作ったのですっ。お菓子業界と手を組んで」


「何てことだ!」


 わななく僕。


「その試みが成功していたなら」


「空美さんは戻ってきていないでしょう。先輩はみんなが平等に好きです。もしも、そのみんなに優越をつけてしまえば関係は破たんする。そこまでが限界の企みですっ」


「何てことだ。その罠から僕らを救った陰の功労者は誰なんだ」


「アナスタシアさんですっ。父に連絡をくれたそうですよっ」


 アナスタシアさんは真里菜ちゃんのお母さんの友人で、アナスタシアさんは真里菜ちゃんのお母さんに命を救われた。恩人らしい。だから、真里菜ちゃんに恩を返すことを目標に生きている人だ。


「あの人は限界の知り合いじゃないのか?」


「新しい知り合いだそうですよ。私の母に助けられた後、限界とは行動を共にしたことがあって。アナスタシアさんは私の危機に再び泳いでここまで来てくださって、陰ながら助けてくださったにもかかわらず。なぜでしょう。悲しいことに彼女の斧は破壊されてしまったそうですっ」


「そう言えば笑顔で君が壊したんだよな……」


「いけませんか?」


 真里菜ちゃんの顔が悲しそうにゆがむ。


「不可抗力だ、あんなもの。気にするな」


「事情を知らなかったものですからアナスタシアさんには許してもらえましたっ。アナスタシアさんはバレンタインのチラシを私たちの周りからすべて奪ってくれたのですっ」


「それはよかった。それで、なぜ今更バレンタインをする必要があるんだ」


「来年、仲良しのみんなが仲間割れをする前に今、ガス抜きとして予行練習をしようと思いますっ」


「誰の提案だ?」


「父の提案です。限界に襲われる隙を無くす作戦だそうですっ」


「隙を無くすね」


「一番ドキドキさせた人が、ご褒美にデートが出来るおまけつきですっ。先輩。好きになってもいいんですよね」


 僕は恐ろしくなった。紳一郎さんのにやにや笑う顔が見える気がした。


「ちょっと待て。紳一郎さんはどうしてそんなに限界に詳しい」


「さあ、そこまでは教えてくれませんでしたが」


「それって僕はチョコを食べることになるのか?」


「四個食べることになりますっ」


「チョコレートか。チョコレートクッキーは真里菜ちゃんがよく焼いてくれるよね」


「私も、銃マスターと赤い靴の一族ですから、いろいろと、海外のことには詳しいのですっ。でもここに三年で相当、広がりましたよね。海外の物がイカルガにも」


「全部、限界の仕業か?」


「そうですね。あの人に影響されない人間はいないのかもしれませんね」


「紳一郎さんはどうだ?」


「そう言えばあまり影響されていませんね。父のおかげで私はあまり影響されないようです。母の数珠のせいもあるかもしれません。でもほかのみんなは」


「不安定になりやすいか」


「はいっ」


 律男くんは僕らの言葉に首をかしげている。


「バレンタインデーを知らないのか? 佐伯」


「知らない」


「バレンタインデーに俺はチョコを十個貰ったぞ。全部運動部のマネージャーからだった。あんまりモテたって感じがしなかった」


「小宮山君も貰ったんだろうな」


「あいつも貰っていたな」


「由貴音ちゃんは」


「恥ずかしくて渡せなかったらしい。その時からこの学校を狙っていた。憧れのスター小宮山を追いかけていたんだろうな」


 あの子らしい。

 綱子ちゃんは僕をみた。


「皓人。あなたにチョコを食べさせればいいのですね」


「え」


 綱子ちゃんは僕の口めがけて茶色い物体を押し込んだ。


「チョコです」


 むぐっ。


「嘘つけ。水羊羹の味がする」


「予行練習です」


 僕は息を吐いた。


「君って奴は」


 綱子ちゃんは僕にしがみついた。


「だって、チョコが売ってあるのに、チョコを作るってなんですか。何の風習ですか。ゲームですか?」


「いや。僕はよくわからない」


「告白できるってどういうシステムですか? チョコを持つと、告白が出来る根拠は!」


「いや、根拠とかそんなものはこの場合ないんじゃないかな」


「頼光様、助けてください。このわけのわからないイベントから綱を助けてください!」


「綱子ちゃん、綱子ちゃん。人格が崩壊しているよ」


「涙腺も崩壊しています」


 泣きわめく綱子ちゃん。これは手ごわいぞ。律男君は深呼吸した。


「なんか面白そうだな、その風習。俺も参加させてくれよ」


「え」


 思わず振り返る。何を言っているんだ律男君。


「映像の佐伯の妹に会いたい」


「え?」


「俺。双子だから、結婚するなら双子って決めていたんだ」


「なんと!」


 僕はのけぞった。

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