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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
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知識毒

「嘘はつかないよ。嘘をついても仕方がない。僕は嘘をつくことはもうやめたんだ。君には」


「嘘をついていたのですか?」


「嘘をつきたくなったんだ。君を守るために」


「嘘で守られた世界ですか?」


「いけないかい?」


「赤雪姫の世界と変わりませんね。あの人は嘘つきです」


「優しい嘘か?」


「わかりません。ですが、赤雪姫は嘘つきです。みんなあの人が敵だと思っていました」


「確かにそうだが」


「損な人です」


「確かに」


「鏡の魔女は敵です。赤雪姫はどんな世界を滅ぼすのでしょう」


「わからないな。僕は何とも言えないよ」


「魔女に育てられたものは、魔女になる。この世界を滅ぼすものなら、私が赤雪姫を切り捨てます。たとえ空美でも私、覚悟は出来ています」


「君は空美と仲良くなるべきだ」


「それでも私はあの人を切れますよ」


「それでもいい。仲良くなってくれ。頼むから」


「あなたがそこまで言うなら仲良くなります」


 綱子ちゃんの目の中には嵐があった。この前、限界と戦ってからだ。

 僕は綱子ちゃんを抱きしめた。


「これ以上、壊れないでくれ」


「綱は壊れていますか」


「壊れてないよ」


 僕は綱子ちゃんを抱きしめた。

 そこに空美が通り掛かる。


「はっ。さては鯖折りゲームっスか?」


「そんなゲームはない!」


「良かったっス」


 綱子ちゃんは空美を見つめた。


「空美。赤雪姫は嘘つきですか?」


「自分の都合のいい嘘はつかないよ。安心して」


「そうですか。ならばよいのですが」


 空美は呟いた。


「綱子ちゃんは限界に影響を受けやすい性格をしているね。助けてあげないと駄目だよ」


「解っている」


 綱子ちゃんはよろめいた。


「私の心配もするのですか、空美。なんていい人なんでしょう。それを私は、私の馬鹿、馬鹿。サウンドパックで殴られても仕方ありません」


「それは音しか出ていない!!」


 空美は小さく笑った。


「今までにいなかったタイプだね。綱子ちゃん」


「お前もそこそこに特殊だよ」


「そうかな」


 綱子ちゃんは微笑んだ。


「あなたは空色。晴れたように明るい人です。羨ましいです」


「そうかな。私は綱子ちゃんが羨ましいな。皓人は本当に好きな人じゃないと鯖折りにしないんだよ」


「皓人、鯖寿司は好きですか?」


「折ったんじゃない。抱きしめたんだよ」


 僕は閉口した。


「とにかく。空美。七人妖精ってなんだ?」


「神様の使いだよ。どこの神様の使いか知らないけど、白雪は憧れていた」


「騙されていたってことはないか?」


「ないよ。あの人たちも可哀想な生い立ちだったからね。肉体を無くしたんだ。敵に騙されてね」


「敵って」


「落ちた神だよ。水神様が落ちたでしょう。あんな風に腐れ神に肉体を奪われたんだって」


 そう言えば最大の疑問だ。


「僕らの祖先は」


「光と白雪姫だよ」


「光に肉はなかったんだろう?」


「なんかいろいろあったみたいだよ。大人の事情で話せないけど」


「どんな事情だよ!」


「肉体を借りたんじゃなかったかな」


 赤雪姫が空美を殴った。というか、空美が空美を殴った。痛そうだ。赤雪姫は自身の顔面を抑えた。


「転生したのですわ。光は」


 僕は沈黙した。


「生まれ変われたのか?」


「七人が合体して一人の男性になったのですわ」


「それはややこしい存在だったんだな」


「そうでもしないと、一つの魂になることもできないほど、あの人たちは疲弊していたのですわ」


「もう会えないのか?」


「一度きりです。会えたのは」


「それで鏡の魔女を恨んでいる」


「ええ。本気で愛した人たちでしたもの」


 それで赤雪か。


「そういえばあなたはあの方に似ていましたわね。子孫だから当然ですが」


「似ているのか」


「とてもよく」


 赤雪姫は少女のように笑った。


「ですが、鏡の魔女の長さに気を取られるようではまだまだ甘い。わたくし、鍛えて差し上げますわ」


「お手柔らかに」


 愛する人を失った赤雪姫。どんな気持ちだったのだろう。

 僕には七人も好きな人がいないが、その全員を失ったとしたら、悲しいだろう。

 きっと悲しい。真っ赤に染まった白雪姫は清楚なお姫様ではなく、魔女に近い存在なのかもしれない。

 世界を滅ぼす。愛した人と別れた姫。たくさんの子孫を作り、その血の中で溺れる白雪姫。


「あんたは世界を滅ぼすのか?」


「わかりませんわ。愛する者がいなくなれば、わたくしはまた暴れるのかもしれませんわね」


「暴れてもいい事なんてないぞ」


「そうですわね。もう潮時かもしれませんわね」


「消えるのか?」


「まさか。あなたたちを置いて消えることなどできませんわ」


 赤雪姫は赤い唇を震わせた。かなり眠そうだ。

 僕も眠い。この前限界の攻撃を受けてからずっと眠い。

 矢尻の攻撃を受けてから。

 本当に眠い。


「わたくし眠りますわ」


 赤雪姫は目を閉じる。溺れていく。眠りに。


「赤雪姫はどこかでリンゴの毒を食らったのかもしれないっス」


 いったいどこで。


「知識毒か」


 毒々しい毒。

 僕はあまりの眠さにあくびをした。

 鏡の魔女は赤雪姫を追い詰めようとしている。

 どうやって。不安だけ心の端にあった。

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