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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
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光の愛

『私たちはお前のことだけを案じお前のことだけを愛するだろう』


『そのための力をお前に授けよう。お前は美しい。心が綺麗なのだ』


『そのままでいてくれ』


『私の愛する白雪』


「王子様たち」


『君を愛している』


 疑問がなかったわけではない。ただ光たちは本当に優しかったのだ。

 優しかった。覚えている、今でも。魔女に育てられた。随分、酷い目にもあった。

 しかし、私は光たちに会って本当の私になれた。

 だから、光たちは私の親だ。親であり、恋人だ。

 そこに鏡の魔女が現れた。三人目の刺客だった。


「私は鏡の魔女だ。ある魔女の命令でお前を殺しに来た」


「魔女の名は」


「教えるものか!」


 鏡の魔女は叫んだ。


「私は鏡の魔女。鏡獣でお前を倒す! 世界で一番、美しい白雪。お前のような存在はいずれ魔女たちの脅威となるだろう」


「なぜです」


「お前のような危険な存在を魔女に変えねば魔女界の明日はない。しかし、お前は光に守られている。ならば簡単なことだ。この鏡で光を拡散させる。幸い私は鏡を使う。光は乱反射して、お前は光を失うだろう」


「なんですって」


 鏡の魔女はいひひと笑った。


「私を倒すにはリンゴをかじらねばならない。光の乱反射の計算など賢くなくてはできない。しかし、無知でなければ魔女とはとても渡りあえない。どうする」


「私は無知を選ぶ。光は私を育ててくれた。魔女と戦えるようにと」


「お前は私を倒せても鏡獣は倒せない。鏡獣は光を引き裂くだろう」


『覚悟の上』


『覚悟の上なのだよ』


『お前は復讐を望んではならない』


『ただ魔女を倒せ』


『お前自身を救うために』


『お前のために』


『スポーツのように敵と戦い正々堂々と打ち破れ』


『その先に、お前の望むものがある』


『そこの鏡の魔女は下っ端だ』


『ただの下っ端だ』


『おそるるに足らない』


『私たちは消えてもいい。お前でなくては魔女を殺せない』


『何万人の人々が、お前を待っている』


『お前の救いを待っている。私たちの死などほんのかすかなことに過ぎない』


『大したことではない』


『お前を選んで導いたのはただ愛していたからだ』


『それだけのことだったのだ』


『ああ、お前のなんと愛しい事か』


『あとは一人で戦え』


『輪廻の輪が合えばまた会えよう』


『また会える』


『気にするな。魔女の呪いを受けた身でも、この七人の魂が集うことがあるならばきっと、またお前を愛するだろう』


『私たちはお前を愛している』


 光は徐々に消えていく。


「ああ、行かないで、行かないで。私の王子様」


 白雪姫は泣き崩れた。王子様たちが白雪を愛したように、白雪も王子様たちを愛していたのだ。


「私の王子様」


 消えてしまった。いなくなってしまった。独りだ。寂しい。今までみんなに囲まれて幸せを取り戻したと思っていたのになんということだろう。また一人になってしまった。


 鏡の魔女はどくろマークのついたリンゴを掲げた。


「私は未熟な魔女。しかし白雪を倒すには都合の良い魔女。お前に知恵を植え付けよう。魔女など殺せぬように」


 白雪姫のドレスが真っ赤に染まって行く。


「わたくし、知恵の実などとうの昔にむさぼっておりましたのよ。ですが光のために、わたくしは嘘をついた。無知で、無能なフリをして、それを光は愛してくれた。わたくし嘘をつかねば愛される資格などありませんの。わたくしはずっと孤独でしたわ。光に愛されて孤独でなくなって、それでもわたくしは嘘をついていたから本当に愛されたわけではありません。わたくしは永遠に孤独ですの。その孤独を光は癒してくださいました。わたくしも愛していたのですわ。わたくし魔女よりずる賢くなる自信がありますのよ。魔女は許しません」


 赤雪姫は茂みに潜んでいた大勢の魔女たちを千牙刀で軽々と一掃した。


「ほら簡単。どんなに賢くても私からは逃げられやしない」


「赤雪姫ぇぇぇえぇぇぇぇ!」


 他の魔女と赤雪姫は切り結ぶ。次倒される魔女たちは卵になって消えていく。最後に残った鏡の魔女は敵わないと思ったのか、毒りんごを口にした。


「私も知恵をつける。お前には負けぬぞ、赤雪姫。必ず負けぬ。未来永劫逃げおおせて必ずやお前を倒す!」


「そのあなたを追い詰め、わたくしは勝ちますわ。だってわたくし、本当に愛する人たちを失ったんですもの」


 赤雪姫は涙をこぼした。哀しい涙だった。赤雪姫は子供のように泣いた。何もかもを失って、泣き崩れた。失った者は大きすぎて、ただ喪失感だけがあった。


 赤雪姫は鏡の魔女を追った。仇を討つためにイカルガにやってきた。銃マスターと赤ずきんを従えてやってきた。


「と、こんな話だったよな。赤雪姫」


 僕は紳一郎さんに糸を返した。


「口の軽い男は嫌いですわ」


 赤雪姫はため息を吐いた。


「そんなことがあったのか? 赤雪姫」


 赤雪姫は顔を真っ赤にした。


「別に佐伯なんかに心配されたくありませんわ。ぷんぷん」


「心配してほしいのかよ」


「欲しくないのですわ。ぷんぷん。ですから、鏡の魔女とは仲良くしてはなりません。わたくし許しませんからね」


 鏡の魔女は一本杉のてっぺんで僕らを見下ろしていた。


「コホン。赤雪姫。互いに佐伯に翻弄されたようだ。その男何者だ!」


「わたくしの子孫ですわ。ぷんぷん」


 僕は赤雪姫をつついた。


「空美、空美。赤雪姫はどうなっているんだ。こんなにぷんぷんするキャラだったか?」


「キャラだったっス。一時期よりは落ち着いたっス」


「落ち着いたのかよ!」


 意外過ぎて叫ぶ僕だった。

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