白雪姫と七人の光
「これで高校生!」
深い。彫が深すぎる。ローマ人のように濃い。
「彼が小宮山君だ。空手の天才で昨日、魔女相手に戦ったが力及ばずと言ったところだ」
それでも、ある程度、渡りあえたところが凄いよ。人間業じゃないよ。
「由貴音さんを、由貴音さんを助けてくれたんですね。線の細い人」
ローマ人の様な小宮山君が起き上がった。
「君と並べば誰でも線が細くなります」
敬語を使ってしまう僕は心が未熟か?
「敬語はいりませんよ。俺は敬語しか使われなくって困っているんですよね」
「そういうあんたも敬語かよ!」
空美は笑った。呟く紳一郎さん。
「小宮山君は三月生まれダナ」
「ある意味年下か!」
思わず叫ぶ。鏡の魔女は一本杉のてっぺんで困っていた。
「あの、私どうしたらいいのだ」
「そのままそこにいてください。美しい人」
赤雪姫は叫んだ。
「不快ですわ。鏡の魔女と仲良くしないでくださらない?」
魔女は究極の力を持つ生き物らしいがこんなに美しいとは思わなかった。
「長いだけじゃないっスか! 何がいいんスか。教えてほしいっス! 皓人の馬鹿者っス。どうして長い物好きになってしまったっスか! 赤雪姫が可哀想っス」
空美と赤雪姫が交代で叫んでいる。
「なぜだ!! 前向きに何がいけない!」
「自分で気づけ!」
紳一郎さんが僕を殴った。
「敵と仲良くするなダナ。赤雪姫と鏡の魔女は犬猿の仲だ」
深刻だ。
「何がそこまで二人を隔てた」
「さあね。だがしかし、七人妖精を消された赤雪姫としては許せないだろうな。鏡の魔女は」
「ちょっと待て。鏡の魔女は確か、ヒルメちゃんが」
稚日女尊、僕らの女神が倒したはず。
「赤雪姫が生まれかわるんだ。鏡の魔女だって生まれ変わるんダナ。白雪姫が真紅に染まったあの事件。赤雪姫になったあの事件」
「どんな事件だったんだ。僕はそれを知らない」
紳一郎さんは顎を撫でた。
「私の記憶を読むといい。それが赤雪姫の事件だ」
「パンクするんじゃないか?」
「パンクしてもいいだろう。君は女の子のためなら死ねる人格だ。奇特ダナ」
「買いかぶりすぎだよ」
「買いかぶるさ。真里菜を助けてくれたんだからダナ」
「ありがとう。僕は紳一郎さんに感謝しかできないよ。いつもありがとう」
ありがとう。
「馬鹿だな。本当に馬鹿だ。だからお前のような奴を助けてやりたいって思うんだろうな。いいよ。読めよ。私の知る情報を読め。そして本にするがいい。しかし私の心は読むなよ。きっと幻滅するんダナ」
「読まないよ。爆弾を読む人間はいない。僕はあなたの人格を読まない」
「それでいい。記録だけを読むんダナ。私が赤雪姫から教わった一言一句たがわずに伝えようと思う」
僕は紳一郎さんに渡された赤い糸を取り出した。そこには赤雪姫のすべてがあった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
わたくしは赤雪姫。王家に生まれて、魔女に育てられた。魔女の娘。
魔女は私を憎んだ。魔女は私が魔女にならないとわかると私の白い肌が欲しくていろいろなことをした。
薬で肌をどす黒く変えようとしたり、肌を奪う魔法をかけようとした。
当時のわたくしは魔女たちと戦うことに躍起になった。
優しいおばあさんから千牙刀を授かり、それを手に走り回った。
そこの七人妖精が現れた。光の妖精。
『導こう』
『お前を導こう』
『リンゴを食べてはいけないよ。リンゴは知恵の実だ』
『知恵をつけてはならないよ。愚かでいなさい』
「どうして?」
『賢くては魔女とは戦えない』
『彼女たちより百倍ずる賢くなければ』
『そんな生は苦しいだけだ』
『娘よ。私はお前を助けたい』
『助けてやりたいのだ』
『愚かでいなさい』
『守ってあげよう』
「わたくしは馬鹿になりたくありません」
『世の中には知らなくていいことがある。君には知らなくていいことがある。知る権利と同時に知らない権利も持っている。知らない権利とは幸せな権利だ。知らない方がいいこともある。たくさんの苦しみや憎しみを知ってしまえば、君の心は歪むだろう。白雪。君の清い心が私は好きなのだ』
『好きなのだ』
『愛しているのだ』
「あなたたちは」
なんなのだ?
『君を導きに来た。遠い昔、私たちは王子と呼ばれたこともあったが今はただの光。君を愛し、君を導くものだ。共に歩もう。魔女を倒すその日まで』
「あなたたちは魔女の所為でその姿に?」
『そうだね。魔女と私たちは憎しみあっている。魔女は国家転覆を企み私たちはそれを退けた。しかし、それゆえに私たちはこの姿になった。魔女の呪いだよ』
『魔女は嫉妬深い物だ。しかし。君は魔女になってはならない。魔女は操られるだけの存在なのだから』
「魔女の向こうには何がいるのですか?」
『落ちた神だよ。別名悪魔ともいう』
その時、その声たちはそう告げたのだと記憶している。赤雪姫はそう言った。
僕が記憶を読んでいる銃マスターはそう言うと一息ついた。
『悪魔は強い』
『悪魔は恐ろしい』
『神と悪魔は同等の力を持つ』
「無知なわたくしにどこまで理解しろと」
『理解は求めない。独り事と思ってくれ』
『私たちは気を抜くと拡散する危うい存在だ』
『仕方のない事だ。それが呪いなのだから』
『しかし、そんな呪いを受けてまで生きながらえたのは、君に会うためだ』
『清らかな白雪。私たちの希望』
『魔女を撃て。魔女と戦うには知識はいらない』
『不必要』
『叩け』
『叩いて、勝て』
『勝って幸せになれ』