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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
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振り向け

「鏡よ、壊れろ」


 僕は鏡獣と向かい合う。


「鏡を壊すと七代祟るというぜ。やってみろよ」


 鏡は吠えた。


 僕はお弁当のおコメ粒を取り出した。


「おコメ粒には七人の神様がいるらしい」


「それがどうした」


 鏡は焦った声を漏らした。


「七人の小さな神様が僕を助けてくれる!」


 僕はおコメ粒から糸を取り出した。おコメ粒の神様は僕を鎧のようにくるむ。


「行くぞ。黒鋼えぇぇぇぇぇえっ」


「ぎゃあああああ」


 鏡の化け物は粉々に砕ける。


 僕は深呼吸した。由貴音が近づく。


「どうしておコメ粒なんか?」


「黒いうどんを食べたからお弁当のおむすびが残っていたんだ。後で食べようと思ってとっておいたんだ」


「ラッキーだったね」


 由貴音ちゃんはにこにこ笑った。


「あなたやっぱり、小宮山先輩に似ているの。あったかくて優しいところが。助けてくれてありがとう」


 会ってみたい男だ。小宮山直樹。


 僕らは鏡を抜け出した。


 空美が僕らを辛抱強く待っていてくれた。


「大丈夫?」


「平気だ。いろいろあったがなんとかなった」


「皓人強くなった?」


「強くなったよ。色あったんだ。お前が寝ている間に」


「頼もしいね」


「由貴音ちゃん。鏡の魔女はどこに行った。どこで待っていると言った?」


「あの山の向こうに」


 僕の前には播磨の山脈が横たわっていた。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 播磨の山脈。三農山のふもとで僕は唸った。


 どうしたらいいんだろう。


 由貴音ちゃんと僕は並んで山を見上げていた。


「由貴音ちゃん。どうして空美を置いてきたんだ?」


「空美ちゃんが寝坊したからだよ。待っていられないよ」


 由貴音ちゃんは当然のように言った。


「あいつ頼りになるんだよ。待ってから行こう」


「待たなくていいよ。佐伯さんに恋人がいたなんてしょんぼりなの」


「恋人じゃない。もっといい者だ」


「まあ」


「それより君は小宮山君が好きなんだろう?」


「小宮山君は私よりも律ちゃんが好きなんだよ。男気があってカッコいいって。あの鋼の筋肉が美しいって。私は見てもらえない。正反対だから。女の子に生まれてこなければよかったの。しょんぼり」


「それじゃあ本末転倒だろうが、まったく。お前がもし律ちゃんだったら小宮山君とはくっつけないぞ」


 僕はため息を吐いた。こんな場合は怒るしかできないな。


「なあ、お前は振り向いたのかよ。お前は叫んだのかよ。振り向いてくれって」


「佐伯さん。小宮山君は良い人だよ。私はずるい人だから、解ってもらえない。きっと解ってもらえないの。だって私、魔女の元にまで行ってなんとかしてくれようとした律ちゃんを憎んでいたの。私は小宮山君を取られたってずっと思って。今だって。割り切れずにこうしてここに。あれ、なんで私ここにいるんだっけ」


「おいおい。しっかりしてくれよ」


 ため息が漏れる。


「そんな一途なお前だから律ちゃんは橋を渡そうと思ったんじゃないか? 仲たがいしなくてよかったじゃないか」


「え? どうして?」


「まだ仲たがいしたわけじゃない。やり直せる。きっと」


「でも」


「でも、じゃないだろう? お前と律ちゃんを繋げてやるよ。僕と空美で」


「佐伯さん」


「【高校生 黒いうどんで おせっかい】」


「佐伯さんの川柳はあまりうまくないね。でも好きだよ」


「悪かったなあ。僕の川柳はどうせ、三流だよ」


「それでもいいの。不器用で純粋。小宮山君みたい」


「小宮山君はどこに行ったんだろうな」


「わからない。小宮山君は律ちゃんが消えた日からずっと消えているの」


「おっさんみたいな高校生のどこが良かったんだ?」


「渋いことろ」


「渋くて純粋か? アップダウンが激しそうだ」


「そこがたまらない魅力だよ」


 どんな高校生なんだろう。一抹の不安が。

 そうこうしているうちに僕らは山のてっぺんにたどり着いた。


 山のてっぺんに魔女はいなかった。ただ、卵が落ちていた。


「魔女の卵」


 僕は身を緊張させた。


 魔女の卵からは瘴気が発せられていた。


 近くで律男が倒れている。

 男児なのに由貴音によく似ている。


「どうした。律男! 何があった。僕は専門家だ。話せ!」


「あんた誰だ。小宮山先輩が魔女と戦って……」


「魔女と」


「俺を助けようとして、小宮山先輩が……」


 小宮山先輩、何者なんだ?

 絶対助けるぞ。僕は必死に走った。その視線の先にいたのは。


「どうしたんダナ」


 紳一郎さんだった。

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