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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
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茶道部

 茶道部の部室はまがまがしかった。

 魔女の飾りつけがしてあった。牛の頭がい骨や、蝋燭やテントが置いてある。


「エロイムエッサイムー」


 部員たちが仲良く唱和していた。


「どこが茶道部だ!」


 完全にオカルト研究会のそれだった。


「前向きになんということだ。のんびりお菓子を食べる気分じゃないぞ。なんでこんなふうになっているんだよ!」


「なんとなくだよ」


 由貴音はにこにこ笑った。


「私はここの部活に勧誘されただけだよ」


 茶道部の諸先輩たちが僕に抹茶を持ってくる。


「悪魔の抹茶をどうぞ」


「悪魔でも抹茶をどうぞ」


「紛らわしいんだよ」


 僕は叫んだ。由貴音が楽しそうに僕に告げる。


「黒いうどんがあるけど食べる?」


「いいのか」


 空見が僕の脇腹をつついた。


「乗せられているよ」


「乗っているんだ」


 由貴音は得意そうな顔をした。


「黒ゴマペーストが練り込んであるの」


「お前まさか」


「趣味はうどん作りだよ」


 美味しい。


「悪くない」


 評価をひっくり返す僕だ。


「でもどうして茶道部がうどんを?」


「うん。それが。今の部長が、外国のロックバンドにはまっちゃいまして」


「それも御禁制の品か?」


「その通りだよ! 最近、巷は御禁制の品であふれているよね。なんでだろうね」


 由貴音は首をかしげた。


「なんてこったい。そのバンドがうどん好きなのか」


「ううん。そのバンドが黒い物が好きなんだって。それで食べ物がおいしいときはヤミーって言うから」


「言うから?」


「闇うどんを開発したんだよ。先輩と」


「闇うどん。なんて美味しそうなんだ!!」


「皓人、皓人。ちょっとおかしくない?」


 空美が厳かに手を挙げた。


「何もおかしくないぞ。このうどんは最高だ! うますぎる!」


 よく噛んで食べよう。


「そうじゃなくって。御禁制の品は今までに出回ることもあったけどこんなに大量じゃなかったっスよ」


「なかったけど。僕たちは使ってきたじゃないか。僕らのご先祖はイカルガに来た時、御禁制の品から得た知識を使って、それをイカルガ中に配ることによって、人脈と金脈を手に入れ、イカルガに馴染んできた。蒸気技術などその中でも一番の物だ」


「さすが限界っスね。私たちの陣営にいた時、その人々を魅了する技も盗んだという事っスかね」


「そうかもしれない。だが、こうは考えられないだろうか? もしかしたら、奴の提案で僕らの陣営がそうやって運営されていた可能性もある。イカルガの時計の針を押し進めながら自分の都合の良い世界を練り上げるために」


「そう言えば、この前の四戦はおかしかったっス。あの戦いの後、限界に出しゃばられたら、私たちはひとたまりもなかったっス」


「そうだ。あいつがあっさり引き下がった意味が解らない。理解できない」


 あいつならもっと攻めてくるはずなのに。


「何か理由があったっスか?」


「限定条件があるか。企んでいるか、どちらかだ」


「やむにやまれぬ事情?」


「そうだ。あいつのことだ、何もないはずがない」


 心底そう思う。


 由貴音が僕の耳を引っ張った。


「ところで私を魔女にしてくれる話はついたんだよね?」


「誰がそんな約束をしたんだ?」


「勅使河原君だよ。あいつらなら何でもしてくれるって言うんだよ。佐伯ならって」


「勅使河原君、適当なことを言ったな」


 空美が呟く。


「でもそのおかげで仕事がしやすいよ」


「確かにそうだが」


 僕は叫んだ。


「どうして魔女になりたい。間宮由貴音」


 由貴音は顔をゆがめた。


「私はふさわしくないからだよ」


「何にふさわしくないんだよ」


「白雪姫にふさわしくない」


 訳が分からない。白雪姫という単語を聞いて胸がドキドキとするだけだ。

 僕等は白雪姫の血統だからだ。


「どういう意味だ」


「全てはこの鏡が知っているよ」


 鏡を覗き込んだ僕は由貴音と一緒に魂を吸い取られた。

 後には空美が残された。鏡の外に。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 鏡の中は真っ暗だった。


「どうなっているんだ?」


「どうなっていてもいいんだよ。鏡様はずっとあなたを呼んでくれって言っていた」


「この鏡はなんだ?」


「あなたたちが間の者って呼んでいるものだよ」


「間の者?」


 僕は深呼吸した。


 間の者は総じて狂っている。滅ぼさねばならない敵だ。


「鏡様は魔女を待っている。鏡の魔女を待っている」


「君はなぜ鏡に協力する」


「鏡様に助けてもらったからだよ」


「順に説明してくれないか?」


「いいよ。私は昔、双子だった。何もかも合わなかった。正反対だった。正反対にした。同じだとあの人に見てもらえない。茶道部部長、小宮山直樹こみやまなおき


「小宮山直樹とは例の闇うどんの」


「二年生。茶道部二年生。素敵な人。顔はむさくておっさんだけど、心が真っ直ぐで私はすぐ好きになった。でも律ちゃんは」


「律ちゃん」


「私の双子の片割れ」


「それで律ちゃんは」


「律ちゃんはあの人を嫌いだった。殺そうとさえした。だから私、律ちゃんに言ったの。邪魔しないでって!」


「正反対のタイプが好きなのか? お前たちは」


 正反対の双子。争い合う双子。比べあう双子。競い合う双子。同じを憎み、正反対の道を進む双子。僕の家の双子は違う道を選びながらも仲が良いが、間宮家の双子は憎しみ合っていたようだ。


「律ちゃんはいつもそう。私が好きになった人をみんな取ってきた。奪ってしまってきた。だから私、今度こそはと思った」


「おっさんのような先輩か」


「律ちゃんは小宮山先輩のメガネには敵わないはずだった。私は真っ直ぐな先輩と今度こそハッピーエンドが迎えられるはずだった。でも。律ちゃんは今度こそ本当に先輩を奪ってしまった。小宮山先輩は律ちゃんが大好きなんだよ。今でも」


「律ちゃんはどうして魔女について行ったんだ」


「恋を叶えるためだって言っていたんだよ。私は悲しかった。初めて本気で好きになった人だったから。小宮山先輩は律ちゃんのように心が綺麗な奴はほかにいないって。私はいつも、いつも奪われて心を痛めてきたのに。酷いよ。どうしてなんだよ?」


 人間の心のドロドロか。久々に来る。

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