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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
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半落ち

 由貴音は口ごもった。


「放課後、部室で全部話すわ。私、茶道部なの。お菓子が食べられるから」


「そのお菓子は長いのか!」


 由貴音は顔を真っ赤にすると突然、逃げ出した。海美が僕の頬を掴んだ。


「いい加減にしろ、皓人。なぜ、彼女を落とした」


「何を言う、僕は真剣そのものだぞ。海美。落としてなどいない。半落ちだ!」


「いちいち女の子を落とすな!! 私様は悲しいぞ!!」


 空美が軽く手を打った。


「私と皓人で事件を解決するよ。海美は待っていてくれるっスか?」


「事件と言うほどのこともないんじゃないか? お姉ちゃん」


「事件だよ。私が復活してから最初の記念すべき事件だよ」


「お姉ちゃん。っスはやめるのか?」


「悩んでいるんだよね。っスは元気な私の象徴だけど、それでこの弾ける女の子らしさが表現できてなければ本末転倒だと思うの」


「確かに」


 海美は深くうなずく。


「皓人の好みを探るべきじゃないかな」


「どんなのが良いのかな? ふにゃっとか? むふっとか? くにゃっとか!」


 空美のボケが激しすぎる。


「それじゃ変態だ。前向きに変な言葉はつけるなよ。普通にしていてくれ! 頼むから!」


 僕は至ってまともな注文を出した。


「了解」


 空美はにこやかに呟いた。


「ところで由貴音ちゃんは何者なんだろう」


 そこにさっそうと勅使河原君が現れた。


「やあ。特別に間宮由貴音について調べたことを教えてもいいよ」


 勅使河原君は痒いところに手が届く男だ。


「じゃあ、頼む」


「人間のことは人間に聞いた方が早いんだ。佐伯にはそんな情報網ないんだろう?」


「ない事はないけど」


 昔のように知らない人のを嗅ぎまわる嗅覚は失われたような気がする。


 一族意識が高くなりすぎて。過去の英雄や間の物の虚像に真剣になりすぎて、僕はたくさんの物を無くした。


 しかし、この前の事件の後、勅使河原君は僕らを尊敬するようになった。

 何でも、間の者に殺されかけて、間の者が見えるようになってしまったのだという。


 元はと言えば僕らの所為だった。巻き込まれた勅使河原君を襲ったあれは鬼だった。かろうじて殺されていなかった勅使河原君は鬼の部分を消し去って一命を取り留めた。


 勅使河原君は僕らの事件に巻き込まれ、結果、見る力を手に入れた。もともと、危ないところにばかり出没しやすい性質だった。いつかこうなって当然だったかもしれない。


「由貴音は双子を失っている女の子だ。双子には二種類ある。そっくりの双子と正反対の双子。前者は同一性が強く、後者は反発性で成り立っている。鏡の向こうとこっちのような正反対の姉妹を持っていた由貴音。それを無くした由貴音は、ずっと後悔している。そしてある日、思うようになった。鏡の向こうに行けたらと。それからだ。彼女が鏡の魔女を名乗り始めたのは」


「姉妹を無くした。どんな状況で」


「魔女が姉を連れ去って行ったらしい」


「魔女が」


「僕にわかるのはそこまでだ。後は佐伯の仕事だと思うけど」


「わかった。ありがとう、勅使河原君」


 空美がうなる。


「魔女が悪いの?」


「そうなる」


「鏡の魔女かな?」


 だとしたら厄介だ。


「赤雪姫に聞いたことがあるの。赤雪姫はもともと白雪姫だったの」


「うん。知っている」


「白雪が赤く染まった事件。それが鏡の魔女の事件だったって聞いたよ」


「何代前の赤雪姫だ?」


「そこまではわからないけど。あの人はそれで海を渡ったんだって、鏡の魔女を追って」


「いいのか、そんな込み入った話をして」


「大丈夫っス。赤雪姫は眠っているから」


「ならいいけど。僕はあいつの怒りを買いたくないぞ。記憶に領域を張られるんだからな」


「赤雪姫の記憶操作はどこまでなんっスかね」


「どういう意味だ?」


「消そうと思っても消せない物もあるんじゃないっすかね」


「それはあるかもしれないが」


「何もかも消せたら、楽になれるっスかね」


「どういう意味だ? お前の話か?」


「由貴音ちゃんの話だよ。赤雪姫の力で何とかならないかなって」


「痛みが人を強くする場合もある。一概ではないが、痛みに救われる人もいると僕は信じたいよ。無傷だけが強いわけじゃない」


「痛みが人を救う? 由貴音ちゃんはどっちが望みだったんだろう。自分も魔女に連れて行かれたかったのかな。魔女になりたいってそうとしか思えないよ」


「そんな馬鹿な」


「だって、あの子は自分を連れて行って欲しかったんだよ」


「仲が良かったのかな? お前の家みたいに?」


「うちは特別だよ。特別仲がいいよ」


 空美は黙った。何か思い出したみたいだ。


「川瀬君や、徹君は助かったのに、カナデちゃんはそのままなの。どうやったら助けられるんだろう」


 それは限界がまだ元気にどこかで活動しているという証だ。


「気に病むな。いつか僕が助けるから」


「皓人、ありがとうね。えへへ」


 僕らは握手を交わした。


 もうすぐ放課後がやってくる。僕等は由貴音の待つ茶道部の部室に急いだ。

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