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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第五章 鏡の魔女とミケランジェロ
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高校生活の始まり

 僕らは領域師。

 あまたの領域を操り、人を間の者から救う。そんな仕事をしている。

 僕の名前は佐伯皓人さえきひろとだ。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 僕は受験を受けた。受験は散々だった。

 一番レベルの低い高校に受かった。

 前向きに最悪だ!!

 最悪じゃなかったのはそこの高校の制服がとてもかわいかったことだろうか。


「いいのか僕。そんな人生で」


 綱子ちゃんは新しい制服に身を包んでいた。


「皓人は頭の悪い学校に入りました」


「そうだね」


「そんな頭の悪い学校に入ったからには頭を取るしかありません」


「頭って」


 僕は恐る恐る手を上げる。


「ヘッドです」


「ヘッドとは」


「カシラです!」


「嫌だ、そんなものになりたくはない」


 綱子ちゃんは僕と同じ学校の制服に身を包んでいた。


「いろいろあってやっと一緒の学園生活です」


「君は和算の推薦で凄い高校に行くはずだったのでは」


「他の授業の単位が足りなかったのです。これはゆゆしき事態ですよ」


「その事態を作ったのは君だよな」


「まあ誰がそんな酷いことを」


「少し考えればわかるんだよ」


「考えなし」


「なぜ僕をののしる」


「皓人と同じ学校に行くためではありませんか」


 僕は言葉を失った。


「じゃあわざわざレベルを落として?」


「落としたわけではありません。和算の推薦できました」


「ええ。そうなの?」


「この学校にはエリートコースと落ちこぼれコースが存在します。私はエリートコースの女です」


「そんな馬鹿な」


「真里菜も来ていますよ」


「真里菜ちゃん、勉強は」


 遠くから真里菜ちゃんが手を振った。


「得意ではありませんっ。でも、ここの制服は可愛いですから」


「余裕があるな」


 ぎりぎりだった僕はため息を吐いた。


「限界の所為で予想外の人生だよ。もっと上の学校狙って、楽しい学校生活送るはずだったのに。スポーツ推薦で陸上部に来た律男って凄い奴もいるのに」


 真里菜ちゃんが唇に指をくわえる。


「勅使河原君なんか災難ですよね。あの人、頭良いのに。受験ここしか受けられなかったそうですよっ。大怪我の所為で」


「前向きに不憫だ。蕎麦屋でうどん奢ってやろう」


 綱子ちゃんが僕を見ていた。


「そうは行きません。私にうどんを奢りたくさせます」


「どうやって」


「あの手この手を使ってです」


「何をする気だ!」


 綱子ちゃんは孫の手を二本取り出した。


「この孫の手で背中をいやらしく揉みます」


「そんなことのできる人間はこのイカルガ中、探してもいない」


「簡単です。曲線で揉めばいいのです。揉みまくりです」


 真里菜ちゃんが拳を握りしめた。


「綱子ちゃん。勉強になりますっ」


「マスコット。勉強しなくていい、そんなこと」


 僕は荒い息を吐いた。最近、疲れやすい。なんでかな。


「さてと。海美に会いに行くかな」


 海美は何の因果か隣のクラスになった。


「私様は羨ましいぞ、皓人」


「なぜだ!」


「どうして同じクラスでみんな仲良くしているんだ」


「空美だって違うクラスだろうが」


「姉さんは学年が違うんだ」


「だってあいつ一年休んでいたのに。なんかずるい」


「姉さんの頭は天才的だ。天災ボケだが天才なんだ」


「前向きに迷惑だよな。頭のいい天然なんて」


「いいじゃないか。皓人は。私様など、姉の所為でツッコミ役にはなれてもぼけられない体質になったのだぞ。全員がぼけていては話が前に進まんからな」


「それは気の毒だな」


「お前たちがぼけると私様がつっこむしかないのだぞ」


「それは気の毒というかなんというか」


「私様だってたまにはボケたい。ジャガイもん、ジャガイもん、どうしてあなたはジャガイもん」


「お前、ボケない方がいいよ。イメージ崩れるよ。俺の王子様」


「そ、そうか?」


「真面目なままでいろ。その方がいい」


「真顔で言われるとは複雑だな」


「複雑でもその方が良いんだよ」


「皓人がそこまで言うんなら考えてやってもいい」


「じゃあ、前向きにそこまで言うよ」


「わかった。なら私様はお姉ちゃんの作曲した歌を歌うのはよそう」


「空美の歌だったのか」


 衝撃が走った。


「ところで、お前の隣の席で唸っているお人がいるんだが」


「私様の隣の席?」


 海美が振り返ったところには前髪をびっちり切った女の子がいた。


「前向きに前髪伸ばせよ!」


「はうっ。これは今最先端の髪型。切り過ぎなどでは……」


 海美が呆れた声を出した。


「前髪は切るものと相場が決まっているぞ、皓人」


「海美。そうは言ってもこの短さでは相手を魅了できないぞ。どうしてくれる!」


 僕は隣の席の女の子をじっと見つめた。


「まあ。他が長いところには共感が持てるかな」


「本当ですか?」


 少女は立ち上がった。


「初めまして。私は間宮由貴音まみやゆきねです」


「間宮由貴音か。随分変わった名前だな」


「そうかな?」


 由貴音はぶるぶる震えていた。


 震える系の女の子らしい。


「私、ここにある決意を持ってきました」


「どんな」


「言えません」


 彼女は鏡を覗き込んだ。


「私にもいろいろあるんですよ。放っておいてください」


 話しかけておいて放っておけとは変な奴だ。


「あの子なんなんだ」


 海美が厳しい顔をした。


「彼女は魔女らしいんだ。鏡の魔女らしい」


「鏡の魔女。それは赤雪姫の」


「そう、赤雪姫の敵だ」


 一気に場の和やかな空気が冷えた。

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