表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第四章 空美と赤雪姫
78/141

二択

「眠ってもらおうと思ってね。君か海美ちゃんに」


 海美は必死に殺生刀を振りかざし、英雄の矢尻に刀を向ける。そして矢尻を叩き割った。


「大丈夫か、皓人!」


「さあ、最後の戦いは、皓人くんだけで挑むんだったっけ? そうだったよね」


「あんた、性格悪いよ。平賀限界」


「悪くて結構。僕は僕を楽しめているよ、皓人くん。あははは」


 僕は黒鋼を杖にして立ちあがった。


「最後の敵はなんだ」


 その時、黒い影が現れた。


 長いツインテール。空色の衣装。空美が、そこに立っていた。


 僕は言葉を失った。


「空美?」


 空見はふわりと浮いた。千牙刀のレプリカを持っている。


「相手は空美君の霊体だよ。頑張ってね」


 空美の霊体は僕らの前に突っ立っていた。


「空美」


「お姉ちゃん」


 あの頃の空美がそこに立っていた。


「あれが空美ですか?」


 綱子ちゃんはその美しさにため息を吐いた。

 空美は叫んだ。


「予告するっス。私は今から満月狼を倒すっス」


 海美が顔色を変えた。


「お姉ちゃん!」


 そこに手を差し出す限界。


「手出し無用!」


 限界は叫んだ。


「手出し無用だよ。空美ちゃんは強力な間の者にとりつかれている。果たして倒せるかな」


 なんだと。


「お前もしかして」


「糸を編んだんだよ。糸を編んで仕上げたんだ。他に何も言うことがないだろう?」


 限界は笑いながら姿を消した。


「なんて奴だ」


 僕は眠気を堪えて立ち上がる。


「手伝いますか? 皓人」


 綱子ちゃんが僕の脇を固め、海美が走る。


「手伝ったら、空美は帰ってこない。あいつが出した条件はそれだ」


 僕は頭を振った。


 この眠気を紛らわすには……。


「僕が真里菜ちゃんを数珠で縛るしかない!! そして頭皮をもませろ!」


「あなたはパラフィリアか!」


 海美が僕を掴んだ。


 綱子ちゃんがぼーっとしたまま、僕を殴った。真里菜ちゃんが数珠で僕を縛り上げた。


「先輩、目は覚めましたかっ?」


 笑顔の真里菜ちゃん。


「すみません。覚めました」


 僕は憑き物の取れたような顔で空美と向かい合う。


 空美の体は水でびっしょり濡れていた。


「ひょっとして水の間の者か?」


 そう思ったのは一瞬だった。荘厳な声が響いた。


『私は元水神だ。今はこの子を祟っている。私を払うというなら、それもよかろう。しかし、全力でお相手する』


 全力で。神の全力。


 学校の周りに水柱が吹きあがる。


 その水柱の雫を浴びながら僕らは走った。綱子ちゃんたちは雫をよける。

 僕はそのシャワーの中を前に突進した。


「黒鋼ぇぇぇ」


 黒鋼は起動している。格差があればあるほど力を発揮する特別な刀。


 刃は途中で止まった。力の差があればあるほど力を発揮する刀。

 綱子ちゃんが口を押えた。


「ひょっとして、皓人を鍛えすぎましたか?」


「違う。相手が神だからだ!」


 僕は刀を構えた。どんな困難でも戦って勝つ。

 まともになった構えで、必死に剣を振るう。


 水神がとりついた空美はすべてをかわす。霞と相手をしているみたいだ。


「満月狼、殺す」


「穏やかじゃないね」


 僕は回転しながら突っ込む。


「空美は勝つ。絶対勝つ!」


 空美はものすごく強かった。剣を振り回し、僕に突っ込んでくる。


 君を救うんだ。あれは恋だったような気がする。陽だまりに空美と海美、三人で毎日笑った。

 だけど、赤雪姫はなぜ僕の頭に領域を張ったんだ。


 何かまだ隠しておきたいことがあるのか?


 空美と僕のことで。

 まだ何かあったのか?


 それとも、僕の不安を慮ってのことなのか?


 水神は口を開く。


『私はお前を殺せばあの男に復活させてもらえるのだよ』


「そんな条件を出されているのか」


 僕は蒼白になった。


 神の復活だなんてそんなこと、どうしていいかわからないのに!!


 どうしよう。いいアイディアが浮かばない。将棋で詰んだときみたいだ。


「先輩はあきらめない人でしょう?」


 真里菜ちゃんが叫ぶ。


 海美も綱子ちゃんも僕を見ていた。

 空美を思い出す。子供の頃、お祭りの帰り道で、空美は僕に言った。


「ずっとこのまま一緒なら幸せっス」


「ずっと一緒に居よう。明日も明後日もその先だってずっと一緒に居よう」


 一族が決めたいいなずけ。僕はどう思っていたのだろう。守りたいと思っていた。


 守ってやりたいと、そう思っていた。


 本気で好きだった。胸がドキドキして眠れないこともあった。

 空美は良い奴だ。僕にはもったいない。そう思ってあきらめた。


「何があっても私は皓人を助けるっス」


 そんな恥ずかしいことを平気で言う奴だった。


「そんなこと言わずに自分を大切にするんだ。良いね」


「うん」


 僕らは手を繋いで夜道をずっと歩いた。幸せだった。

 プールのシャワーで頭皮を洗ってやったこともあった。


「【あさぼらけ シャンプーも揉みこむ 水の音】」


「芭蕉先生を侮辱っスか!!」


「いや。リスペクトだ!」


 そんな楽しい関係だった。


 僕はやれる。勇気よ。湧け!


 糸よ、来い。僕は空美にとりついた水神の糸を探る。


 水神の黒い糸が辺りに押し寄せる。


 空美の空色の糸が水神の黒い糸の中心に見え隠れする。


 ゆらゆら見えている。


 問題はどうやったら僕が水神を生かせるかだが。

 限界は神の力を使って水神を復活させるらしい。


 満月狼。オオ、カミ。神の力。

 オオカミの力を使えば確かに分離はできる。問題はそこからなんだ。


「神を助けるにはえびす様の力が必要不可欠。でも」


 それをすると。


「今度は空美が助けられない」


 神を殺すか、空美を助けるか。

 この二択しかない。他に方法は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ