表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第四章 空美と赤雪姫
77/141

馬鹿な

 黒鋼の分剣が辺りに降ってくる。その攻撃を限界はよける。


「駄目だよ。僕はターゲットじゃないんだ」


「では!」


 綱子ちゃんは剣を構えた。


「鬼に止めを刺します」


「いいのかい。さっき鬼に攻撃されて鬼になりかけたばかりの魂だよ」


 そう来るなら。僕は綱子ちゃんの刀に触れた。綱子ちゃんの刀が真っ白に光る。

 僕のワンダーランドの力を刀に流し込む。


「行ってくれないか。綱」


「はい」


 綱子ちゃんは鬼を回し切りにした。鬼の糸だけが吹っ飛んで中から人が現れる。


 僕は全身の苦痛を堪えた。低く呻く。地獄の筋肉痛。


 目を疑う。僕たちは驚愕した。そこに倒れた人は、勅使河原君だった。


「あんた!」


 僕は思わず限界に掴み掛る。


「だってさ、友達を巻き込むなって言われてないもん。殺さなかったんだね。凄い、凄い。次は真里菜ちゃんの番だもん」


 カナデさんの口癖で僕の意識を逆なでする限界。

 今度は華々しく真里菜ちゃんが屋上に現れた。


「私の相手は誰ですかっ!」


 限界は拍手した。


「間の者だよ。斧の間の者だ」


 空から巨大な斧が降ってくる。

 斧の真ん中には目があった。ぎょろっとこっちを見る。


「赤いくつぅぅぅぅぅ」


 指揮者のように両手を広げる限界。


「赤い靴は斧に殺されて血の中で何度も生まれ変わることになったそうだね。さあ、その再現をしよう」


 真里菜ちゃんは僕を見た。


「先輩。託宣たくせんが来ますっ」


「どんな」


「あの斧は英雄の斧の間の者がとりついた者です。弱点はあの目ですっ」


「英雄」


 何の英雄だというんだ?


 何の英雄の武器だと。


「あれはクルミ割り人形の斧ですっ!」


「ぶおおおおおぉおぉぉおぉぉぉお」


 斧は不気味に叫んだ。


「クルミ割りクルミ割り人形の斧……アナスタシアさんはどうしたんだ? クルミ割り人形はアナスタシアさんだ。あの斧はアナスタシアさんの物じゃないのか! アナスタシアさんは僕らの味方じゃないか」


 思わず蒼白になる。限界は手を叩いて笑った。


「僕は彼女に武器を譲り受けただけだよ。真里菜ちゃんが危機だからってね」


 真里菜ちゃんは走った。


「確かに危機なのは間違いありませんねっ」


「納得するな、真里菜ちゃん。前向きに最悪だぞ!」


「行きますよ。赤い靴!」


 真里菜ちゃんはロングブーツを履いて飛び跳ねた。その勢いで斧に駆け上る。

 斧から現れている目に素早く回し蹴りをかます真里菜ちゃん。


「行きますよ! はあああああ」


 間の者と合体した英雄の斧はひび割れていく。粉々に砕けて果てる。


「これでよしですっ」


 真里菜ちゃんは胸を張る。


「ああ、残念だ。アナスタシアさんの武器が無くなっちゃったね。残念、残念。躊躇わないなんてとんだ天使だな。天使すぎるにもほどがある」


 限界はぼやくように呟く。

 アナスタシアさんと知り合いなんだろうか、この男。

 アナスタシアさんの立ち位置はどうなんだろう?


 僕を好きだと言って帰って行った彼女。敵なのか?

 それとも。利用されているだけなのか?

 真里菜ちゃんはがっつり頭を抱えた。


「どうしましょうっ。アナスタシアさんの武器を」


「そうだな。修理して、欠片だけでも返しとくか」


 結構いい加減な僕だった。


「ですが。大事な斧だったんじゃないでしょうか?」


 動揺する真里菜ちゃん。その眼はゆらいでいる。乗せられてはいけない。


「自分を責めるな、真里菜ちゃん」


 僕は立ち上がった。


「綱子ちゃん。真里菜ちゃんを守ってくれ」


「はい。解りました」


 綱子ちゃんは無形を抜いて構える。

 そこに海美が現れた。

 屋上に駆けあがってくる。


「私様の敵は誰だ!」


 今度は矢尻の間の者が現れた。矢尻に目がついている。限界が拍手する。


「玉藻狐は矢尻によって倒れたという。これは英雄の弓。リンゴも間の者を倒したウイリアムの弓矢」


 次から次へと、いろんなものを持ってくる。


「あんたはこんなことをして何が楽しいんだ! 言え、限界!」


 かっこよく叫ぶ海美の隣で僕は唇をかんだ。


「僕は今回もうどんを食べていない。どうしてしまったんだ、僕は! 海美。じんましんが出そうだ」


 海美は僕を殴った。


「アホか。お前がどうかしてしまったか! 皓人!」


「大事なことだぞ! これから状況がよくなるか悪くなるかの瀬戸際だぞ! どうしてくれる! 海美」


「そんなことであなたは悩んでいたのか。戯け!」


 僕らのところにウイリアムの矢尻が迫る。

 海美は自分の領域を広げた。


「変化の領域。矢尻よ。無力になれ!」


 矢尻はそれを突き破って飛ぶ。キリキリと回転しながら。


 僕はその矢尻を切り捨てた。

 もっと強力なのが来ると思っていたのに。こんなものか?

 こんなもので済んでしまうのか?


「僕たちが限界の予想より強くなっているのか?」


 僕は矢を握りしめた。その時、体に衝撃が走った。

 苦しい。なんだこれ。舌先までしびれる。


「効いてきたかい。毒だよ。君たち白雪姫の一族には毒がよく効く」


 僕は膝をついた。


「馬鹿な」


 僕は床に倒れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ