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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第四章 空美と赤雪姫
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進化

「私も読んだ、あの日記を。それで不安定になった。あんなことがなければ、私様は狐になど取りつかれなかったに決まっているだろう!」


「何者なんだ。平賀限界」


「赤ずきんが後を追っていることしかわからない」


「赤ずきんが」


 僕は思考を止める。赤ずきんが追いかけている。


「赤ずきんときたら、ひょっとして狼と関係あるのか?」


「さあそこまでは」


 真里菜ちゃんが首をかしげた。


「皓人くんは赤ずきんと会ったことは」


「うちの母親の中に居るらしいとは聞いたことがあるけど、活動しているのは見たことがない」


 不意に影が降ってきた。


「君のお母さんは君に再来リフレインだということを隠してきた。赤ずきんは奔放でね、君の母親としてはふさわしくないと感じたんだろう。やあ。久しぶり」


 辺りに絶海の光が満ちる。いつの間にか紳一郎さんが現れていた。


「紳一郎さん。元はと言えば紳一郎さんの所為じゃないですか。あの男に恨まれているのも」


「そうかな? あの男は危険だったからね。ちょいと悪いことを行う前にたたいておいた。それだけなんダナ」


「それがこんな問題になったんですよ。空美を巻き込んで」


「あの男、元はこちらの陣営だったんダナ。イカルガ本来のリフレインだったんダナ」


「こちらの陣営?」


 僕は言葉を失った。


「ヒルメちゃんの陣営だったというんですか?」


 稚日女尊ワカヒルメノミコトは僕らが守るべき神だ。その神のつかえていたということはつまりどういうことなんだ。


「仲間だったんだよ。まさか隠れて間神を食らっているとはダナ」


 間神。


「間の神。ひょっとして狼ですか?」


「オフコース。赤ずきんが追うわけもわかるだろう? 私たちはあの男を追っていて、空美ちゃんは偶然、そこにたどり着いてしまった。たどり着かされてしまったんダナ。あっちから誘われた。こっからどうするかな。どうカードを切るかなあ」


「カードは切れるんですか」


「まずは君が空美を取りかえすことが第一段階になる。全てはそこからだ」


「取りかえせると思いますか」


「思うよ。取り戻せると思う」


 紳一郎さんは笑った。


「お前ならやれる」


 僕は父親の顔を知らない。


「紳一郎さんが僕の父親だったらよかったよ。胡散臭いけど」


「悪かったんダナ」


 真里菜ちゃんは微笑む。


「なら私は先輩と兄妹ですか?」


 僕は笑う。


「嫌なのか?」


「兄妹では頭皮をもんでもらえません。残念ですっ」


「大丈夫だ。妹だって揉んでやる」


 綱子ちゃんが僕の背中を竹刀で押した。


「いい加減にしないと切りますよ」


「もう切られているよ……!」


 背中がズンズンするよ。


「私はあなたに焼きもちを焼きます」


「【冬の日に 寒い屋上 焼きもちを】何でもかんでも焼かないでくれないか。俳句になってしまったじゃないか」


「焼きたくなります。私だって家族が欲しい!」


 そうだった。


「綱子ちゃん、ごめん」


「良いんです。いくら、皓人に優しさがなくても許します。紳一郎の家族は死んでも嫌です」


「おいおい、そりゃないんダナ」


 海美はその様子をじっと見ていた。


「紳一郎は今回の一件、参加できないのか?」


「海美よ。訓練だけ。訓練だけでしか参加できないんダナ」


 海美は目を細めた。


「限界をだまし討ちをできないか?」


「出来ない。それをすれば二度と空美は帰ってこないんダナ」


 あいつが帰ってこない。明るくて爽やかで優しい奴が帰ってこない。

 綱子ちゃんはぼーっとしていた。


「意地でも取りかえしましょう。こうなったら皓人が進化するしかありません」


「僕の進化が前提か。しかし、どんな進化が」


「とりあえず口からミサイルを吐きなさい」


「そんなことできないよ。綱子ちゃん」


「なら、口からソバボーロを吐きなさい」


「なぜ!」


「そばは長いでしょうが!」


「僕を前向きに見透かしたというのか!」


「見透かしました」


「なんて奴だ」


「私は素敵な女の子です」


「素敵な女の子だ」


 海美が僕らを見た。


「とにかく時間がない。皓人、お前を徹底的に鍛える。それで死んだらお前の所為だ。私様は知らん」


「何の恨みを込めていいるんだ?」


「真剣になれと言っている。私様の姉の命が掛かっているんだぞ」


「わかっている。だが、僕だって平賀限界、あいつに会って心が揺らいでいるんだ」


「すまない、皓人」


 真里菜ちゃんは首をかしげる。


「そんなに危ない方なんですか?」


「真里菜ちゃんは感知系だから多分相当、来ると思う」


「会ったこともありませんがっ」


「紳一郎さんが守っているからだよ」


 真里菜ちゃんは不安そうな顔をした。


「心配ですっ。皆さんのことが。特に綱子ちゃん、あの平賀限界さんと出会ったのでしょうっ」


「はい。恐ろしい男でした。心と糸を抜かれるかと思いました」


「心と糸を」


 僕らは緊張する。


「糸の攻撃には皓人しか対応出来ないんダナ。君を鍛えたかったんダナ。早く強く」


 紳一郎さんは僕を見下ろした。


「みんなの糸を読ませてほしい」


 僕は意を決した。


「全てを見せてほしい」


 真里菜ちゃんが恥ずかしそうに肩をすくめる。


「どこまで読むつもりですか? 人の心のドロドロは読まないんじゃなかったんですか?」


 海美が困ったように微笑む。


「読みたくない。僕は読めない。きっと読めば君たちへの興味を失う」


「だったら」


「進化しないとみんなを救えない」

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