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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第四章 空美と赤雪姫
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だけど

 綱子ちゃんはぼーっとしたまま笑った。


「皓人といるといつも楽しくて、楽しくてたまりません」


「のろけか?」


「おのろけです」


「綱子ちゃん。僕は感激だ」


 僕は綱子ちゃんを抱きしめた。


「何をするのですか、皓人。ハグは結婚前までと誓った中ではありませんでしたか」


「誓ってないんだよ」


「ハグ美になってもいいですか?」


「そんなに急にハグ美になられても僕は困る」


「いいえ、ハグ美になるには、遅すぎるということはありません。たとえハグ子になろうとも、問題はありません。皓人が嬉しいだけです。喜ぶだけです」


「君は何者だ!」


 僕らは顔を近づけた。


「皓人様」


「綱子ちゃん」


 勅使河原君が僕らを押しとどめた。


「そこまでだ。何か用事があったんだろう。佐伯」


 僕は何も言えなくなった。


 助けてくれなんて言えない。どんな危険な目に遭わせるかもしれないのに。


「声をかけられなかったんですね。真里菜と海美には」


「どうしてそれを」


 綱子ちゃんは下を向いた。


「あなたが電話をかけてきた後、あの男から私に電話がありました。全てを聞きました。あなたがあの男の所為で困っていると。力になりましょう」


「だけど」


 綱子ちゃんの目の中は塗りつぶされてぐるぐるしていた。大丈夫そうに見えない。


「巻き込むと思うなら筋違いです。海美にも真里菜にもすでに伝えています。行きましょう」


「どうして」


 綱子ちゃんは僕を見なかった。


「空美さんを助けるのでしょう。どんな女か吟味します。吟味して悪い女だったら、私が皓人を奪います」


「いい女だったら?」


「その時は皓人をドラキュラのように奪いに行きます」


「君は奪っているだけだよ!」


 事情を知らない勅使河原君のツッコミを胸に、僕は感謝していた。後は単純な話、僕が強くなるだけだ。


「綱子ちゃん。僕を鍛えてくれ」


「四戦四勝できるように鍛え上げます」


 僕はぼーっとした綱子ちゃんの目を見た。


「どうかしましたか?」


 綱子ちゃんは笑った。可愛らしくて優しい笑顔だった。


 勅使河原君は首をかしげた。


「何かの試合でもあるのか? 川柳か?」


「そんなところだよ」


 僕らはそう言って修行に向かった。屋上のカギは川柳部顧問の先生からもらっている。


 一週間、放課後みっちり特訓を行うことになった。


 学校の屋上は横志摩よこしまの名のもとに今や貸し切り状態になっている。

 僕らは勅使河原君を残して屋上へ向かった。そこには真里菜ちゃんと海美が待っていた。


 一週間後、どんな敵が待っているんだろう。


 真里菜ちゃんは数珠をほどいて立っていた。

 海美はピンクの唇で笑っていた。

 綱子ちゃんは竹刀を振り回した。


「行きますよ」


 一週間後何が来るかわからない。恐ろしいのにみんながいると頼もしかった。

 真里菜ちゃんはものすごく強かった。赤いブーツで屋上をスケートリンクのように駆け抜ける。

 海美は防御の領域を張った。

 そこに転がるように綱子ちゃんが飛び込む。


黒鋼くろはがねええええぇぇぇぇぇ」


 三人の力はぶつかって中央で粉々に壊れた。


「まあ、ざっとこのような感じです」


 綱子ちゃんは胸を張った。


「水臭いですよ、先輩っ。一人で何とかしようだなんて」


 真里菜ちゃんは僕の耳を引っ張る。


「痛い」


 海美は狐のお面を取り出した。顔につける。


「私様に声をかけないとは不届きだな」


「声をかけたくてもかけられなかったんだよ」


「なぜ?」


 海美が取り出した刀が僕に迫る。殺生刀。

 僕はそれを持っていた黒鋼で弾いた。息を止めている間だけ僕は黒鋼が使える。それは満月狼の力によるものだ。


 刀と刀は拮抗する。


 そこに赤い靴が滑り込む。


「先輩。本気で行きますよ」


 赤い靴が十メートル跳ねる。

 横になぐような回し蹴り、僕は赤い靴の攻撃をなんとか防ぎ切った。


 そこに綱子ちゃんの黒鋼が飛び込んでくる。霊的な物しか切れない刀。僕は切れないが避けるだけでも練習になる。


「どうですか。皓人。強くなりましたか?」


「そんなすぐにはわからないよ。っと!」


 僕も黒鋼を構えた。綱子ちゃんの黒鋼とぶつかって剣と剣が火花を撒き散らす。

 真里菜ちゃんはその場所に割ってはいる。


「先輩は赤い靴の伝承を知っていますか」


「詳しくは知らないよ。ただ、魔女の斧で赤い靴は倒されたらしいね」


「はい。もし魔女と戦うことになったら骨が折れますっ。どうしますか?」


「魔女か。僕は戦ったことがないが」


「魔女は卵から生まれるそうです」


「卵から」


 僕は唸った。生態系が違うのか。


「先輩は調べたことがありませんか。強い魔女は、神と戦えるくらいの力を持ちます。先輩には魔女と戦える力を身に着けていただきますっ」


「ちょっと待て、いつ戦うことになるんだ。奴が仕掛けてくる間の物とは魔女なのか?」


「可能性の問題です。嫌な敵をぶつけてくるにちがいありませんから」


「勉強はどうなるんだ?」


「生き残れたら、受験が出来ますっ」


 そんな。


「僕は狼の力を使ったら強いんだぞ」


 海美は腕を組んだ。


「それでは意味がない。お前自身が強くならないといけないんだ。解るだろう?」


「僕自身が」


「限界は糸を使う。お前と同じ糸だ。意味が解るな。お前がワンダーランドの力を高めないと勝ち目がないんだ」


 ワンダーランド。僕の領域。僕の愛すべき図書館。


「だけど海美」

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