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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第四章 空美と赤雪姫
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家長として

『言われなくても出てあげる。あなたの性格の悪さは相変わらずね。代替わりして酷くなったんじゃないかしら。こじれたのね』


「そうだね。そうかも知れないね。今は御禁制の品で遊ぶのが楽しいよ。輸入品を自由に操るのは楽しい」


 そう言って限界は笑った。空洞の笑いだった。


『せいぜい首にならないように気を付けることね』


「御忠告ありがとうさん。君のところの神様にもよろしく。君のところの神様のそのドジには気をつけろと言っておいてくれ」


『ヒルメ様は絶対です。お前が何か考えているつもりなら縛りますよ。今ここであなたを倒してもいいの。わたくしその覚悟がありますわ』


「おや、おや、水神様と戦うのにここで力を浪費していいのかい」


『どういう意味ですの?』


「神殺しをするんだろう。そこの彼女、空美くんと一緒に」


 私は振るえた。神殺し。


『いいえ。わたくし神など殺しませんわ。神は絶対の存在ですもの』


「それを聞いて安心した。君のスタンスを知ったよ。神は殺さない。よく覚えておくよ」


『ご自由に。ひょっとして言質を取ったつもりですか?』


「まさか。赤雪姫相手にそこまでできないよ。ただ、空美さんの言葉は貰ったよ」


『何を奪ったというの?』


「神は殺さないんだろう、空美さんは。そう言う約束だよ。僕というリフレイン。平賀限界の特殊能力だよ」


 赤雪姫は顔をゆがめた。


『あなた』


「僕はね、面白ければいいんだよ。他に何にもいらないよ。面白ければ三度のご飯だって食べられるよ」


 赤雪姫は笑った。


『わたくしと一戦交えますか? 平賀限界』


 限界は答えた。


「もうタイムリミットは過ぎた。水神は動きだすころだろう。君たちの戦いが待っている。行かなくていいのかい? 君たちの戦いへ!」


 私は赤雪姫と代わった。


「行くよ。あなたの思惑に絶対乗ったりしないよ」


 限界は舌なめずりした。


「いいね、その言葉が聞きたかったんだ。抗って見せてよ」


 私は立ち上がった。


「水神に勝って、あなたを倒すよ」


「いいよ。待っている。僕が本当に倒せるかな。赤ずきんが僕を探し回っている。僕は姿を消すよ。もう会うこともないだろう」


「赤ずきんは……満月狼を追っているはずだよ!」


「赤ずきんは佐伯君のお母さんだよ。佐伯君はエリートの生まれなのに、彼には何もいない。彼はなんなんだろうね。何者なんだろう」


「皓人は……」


「君の心が読めなくなった。赤雪姫の暗示のせいかな。だとしたら、僕には分が悪い。本気でぶつかられたら負けはしないけど、厄介だからね。さようなら」


「また会うかもしれない」


「もう会わないよ。会えないよ。じゃあね」


 平賀限界は去っていく。

 私は動けずじっと固まっていた。どうして動けないんだろう。どうして。


「当然だよ。君の心がブレーキをかけたんだ。僕は神を食った男だからね」


「神を食った?」


「名もない神だけどね、それ相応に強力だよ。僕とやる?」


 私は動けなかった。動けなかった、とても。


「それでいい。君が馬鹿じゃなくてよかったよ。ばはははははは」


 平賀限界は去っていく。私はやはり動けなかった。


「神を食った男」


『だから関わるなと言ったのよ。空美、私、感心しないわ』


 感心できなくても、それでも私は抗うように立ち続けた。

 いつの間にか雨が降り始めて暗闇が近づいていた。ふと我に返る。

 あの男の蛇のように優しい目が、私をなめとる前に帰らねばと思った。


     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 生田に帰った私は一番に皓人に会いに行った。


「どうしたんだ、空美」


 皓人はいつものように迎えてくれた。


 私は幸せだった。


 こんな幸福はない。


「っスはやめる。私は私の生きたいように生きるんだ。神を殺して私の居場所を守るよ」


「どうしたんだ、空美。いつものお前らしくない」


「らしくなくってもいいよ。大切なものを見つけたから、わたしもういいよ。友達のために何かしたい。助けたい。だって私、幸福を教えてもらったんだ。神は殺さない。私なりの方法で痛めつけて、カナデちゃんの妹を助ける!」


「空美、落ち着け」


「落ち着いているよ。私は」


「どうした、何かあったのか」


 優しい目で私を見る皓人。その時、気がついてしまった。

 皓人と限界さんはどこかが似ている?


「どうした」


「皓人、皓人は人を欺いて笑うような人じゃないっスよね」


「当然だけど」


「私はあの男が怖い。あの男に操られる!」


「しっかりしろ。空美!」


「しっかりできないよ」


「話せ。空美」


「嫌だ。巻き込みたくない」


「巻き込め!」


「いや。いや。嫌だよ。あなたは私の目の届く場所にいて一番笑ってくれなきゃ嫌なんだもん。私はあなたを巻き込みたくないんだよ」


「空美。それじゃあ何もわからないよ」


「わからなくっていいから。大丈夫って言って。何もかも大丈夫だって言って。お願い」


「お前、何かあったのか? 誰かに会ったのか?」


「平賀限界」


 皓人は深呼吸した。


「そいつのこと、とっちめてやるよ」


「やめて。あの人と皓人は会っちゃだめだよ。会ったら、きっと変わっちゃうよ……」


 変わってほしくないよ。今のままでいてほしいよ。


「そんなに危ない奴と会ってきたのか?」


「うん。でももう会わないよ。会わない方がいい」


「そうか」


 何か言いたそうな皓人はそのまま口をつぐんだ。


「お前、今までさ。無理してきたんじゃないか?」


「無理?」


 私は内心驚いた。


「無理なんか」


「その年で家長だなんて気を張りすぎたんじゃないか。お母さんは入院中で頼る人が他にいないんじゃないか」


「赤雪姫がいるよ」


「あいつは信用するな。再来は目的のためならなんでもするって聞いたぞ」


「誰に?」


「それは、真里菜ちゃんにだけど。真里菜ちゃんの赤い靴はいつでもそんな性格でいつも困っているそうなんだ」


「赤雪姫は良い人だよ。結果的には」


「空美。赤雪姫はいつでもお前と代わりたいんだ。油断するな」


「赤雪姫もそれを聞いているよ」


「聞いているから言っているんだよ」


 そう言った皓人は心底、私を心配していてくれていた。


 助けてくれる人がいる。私の友達はこの人しかいない。この人しか頼れない。この人が好き。そんな人を今回の戦いに参加させるわけにはいかない。


 失えばもう戻らない。私はそんなことに堪えられない。なくしたくない。あなたの隣で笑っていたい。私は自分を誤魔化したくない。誤魔化さない。友達も守るし、あなたも守る。


 私は私に嘘をつかない。笑っていられるように戦う。だから何も言わない。あなたに何も言わない。言わずに行くから。


「お土産は何が良いっスか?」


「今度はどこに行くんだよ」


「行かなきゃいけない場所っス」


 皓人は私の肩を掴んで、強く抱きしめた。


「ここにいろよ」


「そうは行かないっス。私は家長として」


 皓人は私の髪に顔を埋めた。


「行くなよ」


「変態いいいぃぃぃぃい」


 私はその手を振り払って駆け出した。

 駆け出した先に何が待っているとも知らずに。

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