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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第四章 空美と赤雪姫
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平賀限界

 出島の一角。そこは暗い占いの館のような場所だった。暗いテント。平賀限界さんは眼鏡をかけていた。


 紳一郎さんのようなおしゃれメガネではなくって牛乳瓶底メガネ。温和で柔和な感じが、たまらなく何かを連想させた。蛇のようなねっとりとした優しさ。


「いらっしゃい。そろそろ来るころだと思っていたよ。空美さん」


 限界さんはよく笑う男の人だった。


「こんにちは」


「一睡もせずここまで来てくれたなんて、さすがとしか言いようがないね。空美さん。そんなにカナデが心配だった?」


 そこまで分かってしまうのだろうか。


「カナデちゃんは感知系です。何か感知するかもしれません。水神様に関して」


「そうだね、それはあるかもね。名もない神はその行いで名を剥奪はくだつされる場合と、人々に忘れ去られ、名をはく奪される場合がある。あの池の水神はその両方だ。気に入った子供を柱にし、人々に捨てられて腐っている。腐り神だ」


 腐り神。それは怨念を抱いた神。神の役割をなさない神。腐って悪意をまき散らすだけの壊れた神。


「気に入った子供……ですか」


「僕の姪っ子だよ。なかなかすぐれた子でね、君に似ていた。僕はこんなだからね、リフレインだけど、好き勝手やらせてもらっているからあまり一族の役には立たない」


「でもあなたはカナデちゃんに」


「下の妹を、姪っ子を取り戻す方法は教えたよ。水を汚し、池を小さくし、取りかえせとね。僕が教えたのさ」


「神と人は戦えません」


 なんて人なんだ、この人は。みんなが柱になるのを知っていて。


「そのための再来だろう? 君は幸いあの子によく似ている。こんな適任者いないよ。くくく。僕の武器は情報の糸だよ。君の友達にもいるよね。そんな子。あはははは。僕はね、情報を読むんだよ」


「限界さん」


「なんだい?」


「姪っ子を巻き込むつもりですか?」


「そうだね。巻き込んでもどうにもならないよ。事態は特に変わらない。でもさ。いろいろと面白いじゃない」


「それは……一個人としての感想ですか?」


 なんて人なんだ。カナデちゃんたちは真剣なのに。


「怒っているのかい? 怒ってもしょうがないよ。だってさ。あの子たちには何の力もないんだよ。僕は取りかえすために助言をしてやっただけじゃないか。可能性の一つを示してやっただけじゃないか。確かに僕は楽しんだけど、だけどそれが何? 何か悪いの?」


 限界さんの目は空洞の目。


「悪いに決まっている。あなたはカナデちゃんの気持ちを踏みにじったんだ!」


 私は胸が悲しくなった。あんなに必死にみんなカナデちゃんの妹を取り戻そうとしているのに。この人は。


「あなたは最低だ! あなたはみんなを利用したんだ! カナデちゃんを踏みにじったんだ!」


「そうだよ。すごく面白かった。こんなに愉快なことはない。見物だったよ。あはは」


「あ、あなたは」


 あなたはなんなのだ。


「文句はそれだけ? 人を怒ったことがないんじゃないの? 馬鹿だなあ。そんな言葉じゃ僕は調子に乗っちゃうよ。楽しいよ。人を怒らせるなんて。空美さん。君を怒らせるなんて簡単なんだよ」


「あなたはなんて人ですか!」


「やだなあ。もっと本気で怒ってよ。怒ってくれなきゃ意味なんてないよ。僕は君を怒らせるためにいろいろと準備したんだから。あはは」


「私を怒らせるために、姪っ子を巻き込んだんですか?」


「そうだよ。いけない? 僕、何かまずいことを言った? だってその方が面白いじゃない」


「再来は神様を守るものです!」


「誰がそんなこと決めたの? 僕はそんなものには従わないよ。僕は僕の面白おかしいことに全力を注ぐんだから、僕は君に何言われたって痛くもかゆくもないんだよ」


「限界!!」


 私はあらん限りの力で限界を殴った。限界は吹っ飛んで床をごろごろと転がる。


「僕を殴るの? そんなことするの? 助けてあげないよ。空美さん」


「助けてもらわなくて結構だよ」


「いいの? 神様は強いよ。だけど、僕の情報の糸があれば簡単だよ。何もかもわかるよ。君がどんな顔で負けるのかだってわかるよ。苦しんで、苦しんで、その上、勝てないんだ。くくく。ばははははははは」


「それならまるで外道じゃないか!」


 私は先祖伝来の刀を抜いた。


「おや。僕とここで戦うの? そんな愚かなことないよ。僕は君の味方なのに。面白がっているだけで。君が神に勝つ方が面白いじゃない。とっても面白いじゃない。最高のショウだよ! ばははははははは」


「あなたは……」


「上品な君は僕を罵倒ばとうできないはずだよ。人を罵倒したことがないんだもの。それってさ、何にも言えないってことだよね。愚かだよね。人に文句を言えない人生ってなんだろうね。文句は言わなくっちゃ。ため込んでちゃだめだよ。妹さんを守って君は辛かったんじゃないか? 君は妹を守るために家に縛られてがんじがらめだ。それを後悔してないって言える?」


 そんなこと。


「……言えるよ! そんなこと!」


「君は今回、友達と一緒に遊んで楽しかったんじゃない? そんな幸せもいままでお前にはなかったんじゃない? 何の我慢大会だよ。ばはははは」


「海美と一緒で楽しかったんだ! 嬉しかったんだ。少しは普通の生活にも憧れたけど、あなたには私の気持ちがわからないよ。表面だけ読んでも、本質を読めてないんだ!」


「ばはははは。残念だ。僕は君に面白味を感じなかった。そうだね。僕にとって君が困る方が面白そうだ。その方が楽しそうだ。なら高みの見物と行かせてもらうよ。くくく。頑張ってね。赤雪姫」


『代わりなさい。空美。この男の相手は私がした方がよさそうだわ』


「赤雪姫」


「おや。君が出てくるのかい?」

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