神の供物
「お姉ちゃん」
家に帰るとクールで可愛い海美が待ってくれていたっス。
「どうしたの? 海美」
「お姉ちゃん。その……今回の捜査はうまくいっているのか? 人柱の事件」
「いつも通りっスよ。違うことと言えば今回は少しターゲットと仲良くしているっス」
フレンドリーな感じっス。
「そっか。友達は作らないといけないな。お姉ちゃんは我慢のしすぎだよ。家長だと言っても一個人だ」
「うんうん。そうっス。友達は作るなって家訓に今まで従ってきたけど、その考えはもう古いっス。時代に沿わないっス」
「私様もそう思うよ」
「えへへ」
私は嬉しくなった。同じ気持であることが嬉しいな。弾んだ気持ちで前を向く。
海美は顔を少ししかめて言った。
「ところで赤雪姫は?」
「それが今回は大人しいっていうか、あまり話しかけてこないっていうか」
「それは考え物だね」
「何か企んでないといいんスけどね」
「前にもなんかあったの?」
海美は少し青い顔でそう尋ねた。心配性だなあ。もう。そんなところがとてもかわいいっス。えっへ。
「何も。ただ、何回か引きずられそうにはなったっス」
「お姉ちゃん。お母さんは大人になってから赤雪姫を受け継いだって言っていた。まだ早かったんじゃあ。大丈夫か。私様は心配だ!!」
あはは。そんなに心配してくれるなら、このままでもいいかなんて。
母はまだ病院で寝ている。満月狼はそれほどまでに強かった。あの銃マスターでさえ苦戦した。
「そうっスね。でも、私は何とかやっていくつもりだから。えっへ」
「お姉ちゃん」
「海美には協力してほしいっス!!」
「もちろんだよ」
私たちは握手した。海美と仲良く出来ることが私の幸せだから。こうしていろんなことを話せるのが私の幸せだから。
カナデちゃんのところはどうなんだろう。妹さんの話は聞かない。仲がよさそうな口ぶりだったのに。
どうしてカナデちゃんは妹さんの話をしないんだろう。そのことが酷く気になった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
皓人は私の話をうんうんと聞いた。
「そいつは嫉妬かな」
「嫉妬。なんで?」
「なんでって、妹がうらやましいんじゃないか? よくわからないけど」
「羨ましいか……。私にはわかんない感覚だなあ」
「まあそれだけお前は恵まれているよ。良い妹じゃないか、海美は」
「いい妹過ぎてお姉ちゃんは心配になるよ。ちゃんと、思いを吐き出せているのかどうかとか。前はもっとおどおどした性格だったもん」
「そうだな。人は変わるよ。壁にぶち当たっていいように変わっていく。人生三度は大きなピンチが来るらしいじゃないか」
「そっか。海美は強くなったんだね。満月狼のおかげで。皓人も強くなったの?」
「俺はわからないな。肉体的には強くなったけど、精神的には成長できていない気もするし、これからかな」
「成長株っス」
「違いない。ところで空美、っスはやめたのか? 最近あんまり言わないな」
「友達がね、やめた方がいいって」
「お前らしさだろう。付けておけよ」
「うん。でも、なんかね。なんだか、みんな……」
「みんな?」
「何かを悲しがっているみたいなんっスよ」
「悲しがっている?」
「弔い合戦みたいな雰囲気がするんス」
「弔い合戦。誰の?」
「まだよくわからないっスけどね、何かあったんじゃないかって」
「その幼馴染仲良しグループにか?」
「う~ん。出島と関係があるんスかね」
「出島と関係あったら大事だろう。そうでなくても、御禁制の品が出回って世間は荒れているというのに。そのおじさんつかまえろ!」
「そうっスよね。平賀限界さん曲者っすね」
「曲者なのは、真里菜ちゃんと似たような力を持ったカナデちゃんじゃないか?」
「カナデちゃんは良い子っすよ」
「いい子過ぎるだろう。その年で」
「そうっすかね。海美もいい子っスよ」
「そうだよな……」
皓人はにこにこ笑った。
「ともかくお前に友達が出来てうれしいよ。くれぐれも巻き込まれんなよ」
「うん」
「ところで、人が柱になる事件だが」
「まだ見ていないんっス」
「見ない方がいいに決まっている。人柱は古代から神の供物だ」
「神の供物……」
なんだろう。よくない予感がする。