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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第四章 空美と赤雪姫
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願いの叶う湖

 オッス。私、空美ちゃんだよ。


 私は皓人のことが好きっス。気の合う友達として大好きっス。

 昔はいいなずけと呼ばれたこともあったけど、今はそれも解消されて、気楽な仲っス。


 友達は彼だけで相談できるのも彼だけっス。

 だから友達が欲しいっス。


 私は今、尼崎中学に潜入しているっス。

 メイクも、変装も完璧。


 えへへ。


「空ちゃん、空ちゃん」


 仲間の一人、カナデちゃんは私の三つ編みを掴んだ。

 びいいん。


「何をするッスか」


「何って、長い髪を掴んで引き寄せるているだけだもん」


「物理的に非道っス」


「スはやめて。あなたに似合わないよ」


「そうかなあ?」


「そうよ。似合わないもん」


 カナデちゃんが言うならそうなのかもしれないっス。


 カナデちゃんには不思議な力があるっス。


「空ちゃん。私、感知しちゃったもん」


「何を?」


「オカルトを」


「オカルト」


 私は息をのんだ。英雄の血筋は人類の血筋。


 強まれば英雄が生まれ、薄まれば、何も生まれない。生まれないけれど、力が残ることはある。カナデちゃんは私たちと同じ遠い血筋なのかもしれないっス。


「間に受けなくっていいよ。空ちゃん」


 隣にいた広瀬君はそう答えた。


「あいつ、いつも見た、見たって言ってうるさいんだから」


「本当に見たんだからねぇ」


 広瀬君とカナデちゃんはいつも幸せそうだ。


 良いカップルに見えるけど。


「そんなんじゃないよ」


 広瀬君はクールで人をあまり寄せ付けるタイプじゃなくって、カナデちゃんは電波系っス。弾ける二人が出会うべきして出会った感じっス。二人は幼馴染でとても仲良しで、うらやましい。広瀬君の弟もこの尼崎中学で三人は子犬のように育ったそうっス。


「子犬じゃない。猛獣のようにだ」


「猛獣じゃないわよ。子猫のようによね」


「二人はいいなずけとかっスか?」


「いいなずけ?」


「そんなことする人たちがまだ居るの?」


 首をかしげるカナデちゃん。


「おやおや。うちの家は特殊ですかい」


 私はえへへと笑った。


 今まで人間に関わってこなかった。間の者にしか関わってこなかった。

 私は人よりも間の者に近いのかもしれない。


 そう思ったことは、何度もある。そのことを皓人には相談してきた。

 皓人は、前向きにお前は大丈夫だと言ってくれた。


 お前はお前でしかないのだと。


 それがうれしかった。幸せだった。


 海美のことを思う。家の用事から遠ざけて海美は私が守るっス。

 それだけが私の希望っス。


 その気持ちだけでここまでやってきたっス。


 何でもできることは私がしていく。こんな冷たい世界には近寄らせない。寄せ付けたりしない。絶対守るんだから。


 胸の中で赤雪姫がささやく。


『わたくしと代わればいいのに。楽にしてあげるわよ』


「いいっス。そんなことをしても、楽になれるとは思えないっス」


『楽になれるのに。空美』


 赤雪姫は嘲笑した。


 この人はいつもこうっス。かみ合わない歯車。もう一人の私なのに。


 いいえ。この人は英雄。何万年も生きてきた魂。戦いの中の世界しか知らない。神に仕えてきたものたち。総じて群である。個はない。個性は互いの区別をつけるためのアクセサリーに過ぎない。


『あら、あなたがわたくしの定義をするの? そんな馬鹿な真似していないでわたくしと代わればいいのよ』


「そうは行かないっス。あなたを母から受け継いだ日から私はずっと頑張ってきたっス」


『才能なら海美ちゃんの方があった。あなたはそれを努力で埋めた。努力でうずめた。この差は大きいわよ。カモシカと冷凍サンマくらい差があるんじゃないの?』


「私の事を馬鹿にしないでほしいっス」


『あら、褒めているのよ。勘違いなさって貰っては困るわ』


「この前、あなたは海美を殺そうとしたっス」


『まだ怒っていたの? あの子の才能はすごいわ。命の危機が迫ればきっと輝くわ』


「そんな問題じゃないっス」


 酷いことをした。私の可愛い妹に。なんて人だ。しごくと言って殺そうとしたのだ。


『お前が不器用なんだから仕方ないじゃない。あんな鍛え方では意味がないわ』


「そうは言っても!」


 私を揺さぶる両手がある。誰?


「何言っているの。私だよ。カナデだもん。どうしたの? 空ちゃん。急に黙ってぶつぶつと」


「ごめん。ちょっと内在葛藤してた」


「内在葛藤って何? 教えてほしいもん!」


「気にしないでほしいっス」


「まあいいもん」


 カナデちゃんは広瀬君と手を組んだ。


「だから行こう。三人で。湖を見に行こう。もうすぐ埋め立てられる泉だもん」


「なんでそんなところに?」


「願いがかなう伝説があったんだもん。なんとかって神様に願いを込めて指輪を投げ入れれば願いが叶うんだって」


「なんで埋め立てられることになったんスか?」


「さあ」


 広瀬君が意味ありげにメガネを押し上げた。


「徹も連れて行っていいかな」


「弟君?」


 私は笑った。


「いいよ。みんなでピクニックっス!」


 私たちは受験生だった。願いが叶えと思ったってちっとも不思議はなかった。


 ただ、そのタイミングと場所が少し悪かっただけっス。

 まさかあんなことになるなんて誰も思わなかったっス。平賀限界ひらがげんかいただ一人をのぞいて。

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