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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第三章 旧校舎ときつねの物語
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一緒に

 生田にあるヒルメちゃんの神殿で僕は息を吐く。

 紳一郎さんは胸をなでおろす。


「うまくいってよかったんダナ」


「ヒロやんに危ない橋を渡らせおって、紳一郎のアホアホ」


 怒る稚日女尊ワカヒルメノミコト、ヒルメちゃん。


「まあ、そう言わずに」


 ヒルメちゃんは笑った。


「ヒロやん、無事でよかった。愛しておる」


「ありがとうヒルメちゃん。海美に殴られたよ」


「それは自業自得じゃのう」


 渋い顔をするヒルメちゃん。


「ヒロやんにはかしこくなってもらわんとな」


「そうは言っても、和算の何が将来に役に立つんだろう。足し算引き算でよくないか?」


「いろんな職業に就けるぞ。ヒロやん」


 拳を握りしめるヒルメちゃん。


「ありがとう。これから勉強する」


「それで狐はどうなったんじゃ」


「それが……」


 僕と紳一郎さんは顔を見合わせた。


 海美がやってくる。


「狐は私様の中で眠ってしまったのだ」


「眠ってしまったのか? それでそちはそれをどうするつもりじゃ」


「今更、私様が一人ぐらい増えても困らない。脳内会議ぐらい受け止めて、眠らせていく。殺生刀は私様が封じる。ヒルメ様。任せてほしい」


「それならよいが無理はするなよ。海美。よく頑張ったな」


「ヒルメ様」


「そうそう。コノハナサクヤヒメからお礼状が届いておったわ。贈り物をもらったぞ。ヒロやん、富士の名物を持って帰れ。ロックグラスと樹海バームクーヘンじゃ」


「ありがとう、ヒルメちゃん。しかしサクヤヒメ、なぜ、この組み合わせ。長いバームクーヘンが欲しかったのに! この平たさはなんだ!」


「そこはそれ。美人のヒメは感謝しておったぞ」


「それはよかった」


「ところで綱子にも礼を言わねばならんのかのう。えびすの使いめ」


「そう言わずに。大活躍だったんだから」


「ヒロやんがそこまで言うなら仕方ないのう」


 ヒルメちゃんはぶーっと膨れた。


「皆の者ありがとう。そろそろ寝る」


 ヒルメちゃんは手を振った。


「ヒルメちゃん、親父は!!」


「一昨日ここに泊まったが、元気そうじゃったぞ。『よろしく伝えてくれよ』じゃそうじゃ。妹たちも元通りじゃ。長いスカートを買ってきてはかせてやればよかったのに。惜しいのう。ヒロやん」


「あー!!」


 思わず倒れる僕。


「まあ、なんにせよ、みんな無事で良かった」


 僕らはヒルメちゃんに送り出され、一斉に元の場所へ帰る。


「そうだ。赤雪姫の事、聞けなかったな」


 僕はため息を吐く。


「聞かなくていいのダナ。彼女はヒルメ様によく尽くしている」


「それはそうなんだろうけど。元はと言えばそれで大変だったんだし」


 昔、海美と一緒に赤雪姫と対決した後、脳で何かが弾けたような気がした。あれはなんだったのかヒルメちゃんに聞こうと思ったのだが紳一郎さんは首を振った。


「聞かぬが花かもしれない」


 海美もうなずく。


 そうは言っても。


 空から赤い雪が降る。僕らを監視するように?


 それとも僕らを守るように?


 僕はどうでもいい気持ちになって空を見上げた。


「海美、一緒に大人になろう。何年も時を刻もう。これから受験勉強という戦いが待っている。共に戦おう。約束だ」


 海美はピンクの唇でにやっと笑った。


「いいぞ」


 僕らは走りだした。素晴らしいことが始まる予感がした。

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