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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第三章 旧校舎ときつねの物語
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地球掃除機

 僕は西宮をふらふらした。親父はえびす様の神殿に引きこもっていた。

 小刻みに震えている。あの堂々とした親父が。何があったんだ。


「よお、皓人。俺は元気じゃないぜ。あはは。旅から旅へ、足も臭いぞ。近寄るな」


「笑えないんだよ。どうした、親父。何があった」


「気を抜くと暴走しそうだ。ああもう。油断ならねえぜ。一つ所にとどまれないってのによ。どうすっかな。次はヒルメ様のところに泊めてもらうかな」


「親父。海美は」


「皓人。狐を知っているか?」


「知っている。金毛の狐を見た」


「情報の糸か。なるほどね。お前の得意技だな」


「それしかできないよ」


「それだけ出来たら十分だよ」


 親父はうなずく。


「俺としちゃあ、海美ちゃんはあれを上手に制御できると思っていたんだが、うまくいかなかったんだ。どうしてかねえ。俺は紳一郎のように見透かす系じゃないからどうにもわかんねえぜ。おい、皓人。どうしてここでそんなことをしゃべったかというと、この地球上の狐同士の会話はあの狐にも全部、聞かれるってことさ。意図してリンクネットワークでつなぐと、狐同士はすぐ繋がれる。稲荷神社を知っているか」


「もちろん知っているけど」


「あれは俺たち狐を神に祭り上げ、仲良くしようぜ、兄弟という、このイカルガの神たちの作戦だ。神に従属させられていい気持ちになっている狐。それがあいつらさ。あいつらのネットワークを使えばこの星のすべての事情を知ることはたやすい。宇宙から降り立った狐は人語を理解し、イカルガを知った。そして人の感情を学ぼうとしている。そう紳一郎は言う。嫌な奴だねえ、まったくよ」


「何が言いたい。親父」


「俺はここじゃないと、このえびすの神域じゃないとお前に大事なことを伝えられなかった。なっさけねえよな。笑えよ」


「笑えるかよ。親父。全然笑えない」


「それじゃあ結論からいう。海美ちゃんは助からん。あれは完全に狐と一体化している。どうにもならん」


「そんな!」


 海美に限ってそんなはずはない。


「ところがだ、そんなことになっちまったんだよ。まともに綱引きすれば白雪姫の血統だ。負けるはずがない。ところが、何かが起きた」


「何が起きた?」


「わかんねえ。でも紳一郎の話によると、海美ちゃんは振り向いちまったんだそうだ。狐の言うことに」


「騙されているのか?」


 それで乗っ取られた?


「よくわからんが紳一郎が言うんだから間違いないんだろうな。あいつの洞察力には俺も一目置いているんだ。好きにはなれないがよ」


「親父の見解は?」


「あれがいけなかったかな?」


「なんだ?」


「恋の話をしたんだよ。心残りがあっちゃいけねえと思ったから」


「海美は受験シーズンに返ってくるって約束したのに、どうなっているんだ?」


 親父は口ごもった。


「あの子はもう帰れなかったんだ。一生、狐を封じる役目を引き受けたんだからな」


 頭の中が真っ白になる。


「一生? 誰からそんな。そんな馬鹿な。どうしてそんな仕事を引き受けたんだ。何のために! 何の許可があって!」


「何のためでもないだろう。狐から何もかもを守るためだろうがよ」


「狐から」


「狐にもいろんな狐がいる。今回の狐は虚無の狐だ。地球掃除機なんだからな」


「地球掃除機」


「イカルガ掃除機ともいう」


「イカルガなんて吸い取ってどうするつもり……」


「わからん。それがわかればすべて解決だろうな」


「会ってみるしかないのか」


「会うしかねえだろうな」


「旅費が……」


「案ずるな。ここに紳一郎の準備したチケットがある。その数、二枚だ。信頼できる奴を連れていけ」


「信頼できる奴……」


「強い奴だよ」


 そんなの一人だけしかいない。


「お前はさ、戦うんだろうな。俺はさすらうだけだったが、期待しているぜ、俺のフンドシを超えていけ」


「そのフンドシは長いか?」


「長いフンドシには懲りたんじゃないか? 皓人」


「長いフンドシは良い男が付けるもんだ、親父」


「黙れ、トランクス」


「トランクスの模様が長いんだよ。長いフンドシ柄なんだよ」


「皓人、どっから見つけて来るんだ、そんなもん」


「僕がネット通販で選んでいる!」


「なんて通販だ!?」


「全国長いながいもの物産展だ!」


「そんな世界があったのか!」


 親父はうずくまった。


「行って来い。家族を守る戦いだ」


「ありがとう。行ってくる」


 僕は歩み出した。綱子ちゃんに会いに行く。

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