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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第三章 旧校舎ときつねの物語
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痩せた親父

 僕は佐伯皓人だ。


 その知らせが入ったのは真冬の事だった。

 僕は教室で勅使河原君と楽しく談笑していた。


「佐伯。お前、パスタはダメなのか? 長いぞ」


「パスタを好きな女の子はエロいらしい。だから駄目だ」


「エロい女の子いいじゃないか!」


「駄目だ。エロい女の子はモテる!!」


「それで」


「僕は、そんな女の子をどうやって満足させていいかわからない」


「満足させられるだろう? 佐伯なら」


「僕はエロいのか!」


「エロエロだろう!」


「いけそうな気がする!」


「そうだ頑張れ。エロエロエロだ」


そこに綱子ちゃんが走ってきた。


「皓人。私はパスタが好きです!」


「エロいのか!」


「もうエロエロです」


「うどんはどうしたんだ」


「うどんが好きです!!」


「パスタは!」


「うどんが好きです!!」


「パスタはどうした」


「うどんには勝てません」


 勅使河原君が呆れている。


梔子くちなし、もういい加減、うちの学校の生徒になっちまえよ」


「キャラがぶれます。ハーレム物は転校に次ぐ転校が目玉です。しかし。それによって制服の魅力が失せてしまうのです! 個性として私は制服を存続させます!」


「君はいつでも着物にマフラーだよ……」


「そしてニーソックスです。ここは外しません! 皓人の好みです。これが私の制服です」


「そうだったのか!」


「ここを外さないことにより、私のキャラは引き立つのです」


「最初から立ちまくりだったよ」


「そしてここでパスタ好きを名乗ることで、エロさにも挑戦してみようかなと」


「誰に対抗している」


「海美です。海美はピンクの唇をしています。あれだけで数千倍エロい」


「そうだろうか。一緒にいて楽しいが女として魅力をまるで感じない」


「何を言っているんですか。あれは女です。魔性の女です。きっとエロさを隠しています」


「なんと。本当か!」


「きっと、お酒を飲めばエロエロです」


「なんと」


 勅使河原君がそわそわしている。


「そうか、エロエロか」


 僕は静かに妄想した。


「『私様はエロいぞ、皓人。舌で、サクランボの茎を結べるんだからな』ぐらいのエロさか」


「いいえ。『舌でドレミファソラシドを奏でて見せるわ』ぐらいのエロさです」


「それはエロいのか」


「喘ぎ声がドレミファソラシドです」


「それは本当にエロいのか」


「エロいのでしょうか」


「君の意見が無茶苦茶だよ。綱子ちゃん」


「でもあの子。我慢しているようなところがあったからきっと、あなたのことは好きですよ」


「そうだろうか」


「エロいでしょうね。胸が小さい女の子ですもの。きっとテクニックがあるはずです」


「どんなテクニックだ」


「釘でバナナが打てます」


「それは新技術だ。大発見じゃないか?」


 勅使河原君が僕を呼ぶ。


「佐伯、佐伯。ところで、あのおじさんに見覚えはないか?」


「あのおじさん?」


 僕は窓の外を見た。


 三年生は校舎の一階だ。校庭を見るとぼさぼさのおっさんがこっちに向かって手を振っていた。

 あれは、あのぼさぼさ加減は!


「親父!」


「よお」


 何かを握っている。それにやつれてもいる。


「これを渡しに来た。空美の日記だ。受け取れ」


「何があった?」


「何も。なにもねえよ。お前は学業を全うしな。やばい事にはなってねえからよ」


「そうか、ならよかった」


「それじゃまた会おうぜ。母ちゃんにヨロシクな。母ちゃんはいい女だぜ」


 綱子ちゃんが僕の隣に立つ。


「皓人、あれが西洲斎写楽ですか?」


「そうだけど」


「ぼさぼさです。痩せていませんでしたか」


「親父は太る方ではないけれど、そうだね。痩せていた」


「何もなかったと思いますか?」


「思いたいけどね」


「私は何かあったのではないかと案じます」


「親父は僕に隠し事をしないんだ。きっと妹たちにも会って行くつもりだろう」


「ならいいのですが。皓人。海美は弱いのではありませんか?」


「何が?」


「心がです。柔らかいのではないかと」


「あいつが。まさか」


 柔らかかったのは昔の話で今はしっかりしたもんだ。


「そうでしょうか。アクトレスは仮面をかぶるものです。仮面の下を見たことはありますか?」


「仮面の下? あいつに裏表があるとでも?」


「わかりません。ですが、皓人はあの子の事をちゃんと見てあげていますか?」


「えっと。前向きに嫌な質問だな」


「強くてかっこいいところしか見ていないのならば、あの子が可哀想です」


「そうは言っても、俺たちは一方向からしか真実を見られないぞ」


「皓人、私が言いたいのは、牛の頬肉を選べる女の子ははたしてエロいのかということです。どうなのでしょう?」


「エロいといいな!」


 僕らはそんな馬鹿な会話をした。何も知らずに。

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