大好きだった
私様は横志摩海美である。
ハムスターはなぜ可愛いのか。
当然だ。
あれは子供の頃のクリスマスだった。
私様は間の物を傷つけるということが嫌だった。
「どうしよう。どうしよう。間の物を殺しちゃったよお……」
当時の私様は人や物を傷つけたくなくて、いつも怯えていた。
初仕事だった。
横志摩家に訪れた間の物を倒す。それが最初の仕事だった。
リスの姿をした間の者はいろんなものに襲いかかり、辺りを粉々にした。
クリスマス会場をぶっ壊し、辺りを破壊しつくし、世界を闇に変えた。
明かりは消え、クリスマスケーキは飛び散り、蝋燭が飛ぶ。
「やめてぇぇぇぇぇえ」
先祖伝来の千牙刀を初めて使い、間の物を倒した。
辺りを破壊尽くした間の者を止めるため、私様は全力を出した。
リスの間の者に追い掛け回され、迷い込んできたハムスターを腕に乗せる。
守るために殺した。私様は大声で泣いた。
そんな時、皓人は私様の手を握ってくれた。
「守ったんだぞ」
「でも……」
「守ったんだぞ。お前は守ったんだぞ!」
「でも」
「守ったんだ。お前はそいつを守った。大事なことだ。お前が助けたんだよ」
「私様が」
「そうだ」
「私様が守ったハムスター」
「そうだ。お前はこいつのヒーローだな。いつもこいつにカッコいいところを見せろよ。そうして胸を張れよ。絶対、負けるな。お前は守るしか能のない奴だ。それが守って間の物を倒したんだ。いいじゃんかよ」
皓人はそう言って私様に笑ってくれた。
「そいつを守るお前でいろ。強い背中を忘れるな。誰かに誇れる人になれ。こいつはその象徴だ」
「私様はこの子が可愛いから守る!」
「好きにしろ」
あの言葉は宝物だった。だから私様は生きていける。
だから私様はここで死んでいける。
赤雪姫は私様の前に立つ。
「一族の為です。あなたには一生ここで狐を封じていただきますわ」
「私様の姉はどうしている」
「壊れてバラバラよ」
「お前が姉を追い詰めた」
「そうね、否定しないわ。否定できない。だって私が活躍するためには空美は邪魔だったんだもの。仕方ないわよね。うふふふ」
「赤雪姫!」
「あの子は、精神が崩壊してしまったわ」
「赤雪姫」
「お前も佐伯と同じね。だけど本当に私が悪いのかしら。空美だって悪かったんじゃないかしら。あんなに簡単に心を壊してしまうなんて」
「姉は簡単に動揺するような子ではなかった。何か原因があったはずなんだ」
「お前たちは空美の光しか知らない。私は影も知っている」
目の前には殺生刀が刺さっている。
「お前はこれを封じてくれさえすればいいのよ。それでいいの」
「そんなこと私様には簡単だが」
「あなたの守りの力は役に立ちます」
「役に立つところまではわかった。どうやって封じる」
「あなたにはこの刀を抱いていただくわ」
「全てを吸い取る殺生刀を?」
「狐は宇宙から降ってきたばかり。今なら力もありません。私の作戦を佐伯は怒るかしら?」
「怒るだろう。しかし」
「この星の力を吸い取ってもらっては困るの。神が存在できなくなります。私たちは神を守る英雄。後はどうでもいい。人が死のうが、地球がどうなろうがどうでもいいの」
それは言外にあなただってどうでもいいわと言われたようなものだった。
「赤雪姫」
「なあに?」
「それでこの世界を守れるか?」
皓人は親戚以外好きじゃないと言った。私様は皓人よりその傾向が強い。
凝り固まっている。姉を無くしてからその傾向が強い。
私様の心は凝り固まった黒い石のようなものだ。
「守れるんじゃないかしら。全てはあなた次第よ」
「そんないい加減な返事では困る」
「ならこれならどう? 稚日女尊の名に懸けて」
「あなたの名は信用に足らないのか、赤雪姫」
「わたくし、信用されていないんじゃないかしら?」
「そんなことは……」
「あるでしょう。あなたはそうでなくても、あの人はそうでしょう。佐伯は」
ええ。
「そうかもしれないね」
「そうなのよ。わたくしの何が気に入らないのかしら。本当に困った人」
「それは他人を犠牲にしても勝利を得ようとする心だろう」
「そんなもの当然でしょう。大事の前の小事。道端のお花だって、道路をつくる邪魔になれば踏みつぶされるのよ。そんなこともわからないほど子供だなんて呆れてしまうわ」
「呆れればいい。皓人は優しいだけだ」
「みんなで一緒に滅びようだなんてわたくしは嫌よ」
「皓人が走るのは仲間のためだ」
「仲間なんて切り捨てるためにあるわ。役に立たない仲間は、弱い仲間はいりません」
「あんたは切り捨てられたことがないからそんな風に言えるんだ……そう皓人は言うと思う」
「あなたは強い者の気持ちがわかっていません。これ以上話すことはありません。刀を抱いて眠りなさい」
「しかし」
「聞かなかったのですか? 私の言葉は神の言葉。ひいてはヒルメ様の言葉です」
「だけど」
「疑問を持ってはいけません。刀を抱いてお眠りなさい」
疑問はないわけじゃない。
だけど、それ以上に有無を言わせない何かがあった。
なんだろう、考えが鈍る。赤雪姫といるといつもだ。
私様の考えは鈍り、いつも目が回る。
気がつくと赤雪姫はいなかった。
「そうだ。殺生刀と眠るんだった」
私様は富士の氷室で目を閉じる。
ここは樹海の果て、何もなにさみしい場所、私様はこの場所で眠り続ける。
「お姉ちゃん」
甘い夢を見よう。幸せな頃の夢。
「お姉ちゃん」
私様はお姉ちゃんが大好きだった。それと同時に皓人も大好きだった。
姉と皓人がいちゃいちゃするのが好きだった。胸が痛いけど好きだった。
「どうしてこんなことに」
両眼から涙を流す。
「姉は優し過ぎた。優しい人だった。私様は姉も大好きだった。皓人は姉と一緒になるものだと思っていた。でも姉はもういない。いない。いない。いない!」
そこに風来坊風の男が現れた。