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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第三章 旧校舎ときつねの物語
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大切な人

 今日は海美を甲斐に送り出すために送別パーティを行うことになった。

 今日のメニューはバーベキュー。


 海美は相変わらず凝り性で、バーベキューにする牛肉を市場に見に行った。


「牛の頬肉がいい」


「お前って奴は。僕らが送ってやると言っているのに」


「送られる時くらいいい物を食べたいではないか!」


「僕がいい物を提供しないと言いたいのか」


「バーベキューに牛のテール肉を選んでくるあたり間違っているんだよ。皓人は」


「だって長くて美しい肉じゃないか。長い肉は美しい」


「馬鹿者。あれはシチューに入れるものだ」


「前向きにそうだったのか」


「少なくとも我が家ではそうだ。しれ者め」


「しれ者か。なんだか素敵な響きだな」


「変態」


「僕は変態じゃない」


 思わず笑みがこぼれる。


 海美がこんなにはしゃいでいるのは久しぶりじゃないだろうか。


「いいことでもあったのか?」


「いいことでもあったんだよ」


 ぶっきらぼうな海美。何があったんだろう。


「あの後、緒方さんと会った。良い人だった」


「それはよかった」


「校舎が全焼したこともよかった」


「あれが良かったのか? 海美」


「うん。良かった」


 どきりとする。


「海美、僕は先生から逃げてばかりいたんだけど。前向きに怖くて」


 炎上させちゃったんだよな。


「あの件なら形がついた」


「横志摩家の財力か?」


「校長は最終的にあの校舎を燃やしてほしかったらしい」


「なんでそんな」


「間の者がいた物件は壊すとき、そこに張られた領域の所為でお祓いをしないと歪みや事故を生む場合があるそうだ。それを防ぐために壊してほしかったそうだ。そしてお金をかけたくなかったそうだ、皓人」


「こっちはその命令のせいで赤雪姫に消されるところだったんぞ。前向きに」


 校長め。


「まあとにかく安心したよ。海美、赤雪姫とは」


「うまくやっているよ。うまくやるしかないだろう。あの人は相変わらず感覚がおかしいけどな。英雄の感覚など私様にはわからぬものだ」


「英雄の感覚か」


 僕は静かに思いにふけった。


「目的の為に手段を択ばないか、海美」


「だからあなたとぶつかるんだ、皓人」


「僕は前向きに切り捨てられない。【捨てないで トカゲのしっぽ 主を思う】」


「赤雪姫はすべてを守るためなら何でもする人格だ。気を付けろ皓人。綱子は」


「ああ、僕が守る」


 遠くから僕の双子の妹たちと綱子ちゃんが走ってくる。


「にいに、綱子ちゃんと着たよ」


「お兄ちゃん、綱子ちゃんが意地悪するよ」


「していません」


「君は僕の妹たちに何をした」


「剣のけいこを少々。棒を真っ直ぐに振るえ! 振るうまで肉はお前たちの口に入らない!」


「子供をつかまえて何やっているんだよ」


「何って、寺子屋と一緒です。紳一郎はこうして私を鍛えました」


「僕の妹たちは平和に暮らすから鍛えなくっていいよ」


「ですが、あの西洲斎写楽のお子さんたちでしょう。将来はきっと間封じに」


「綱子ちゃんは親父に事を知っているのか?」


「業界では有名人ですよ。くわえた筆で岩を割ったという伝説が!」


「うちの親父は何の役にも立たないよ!」


 そう普通のおっさんだ。


「他にもくわえたクッキーで四十八人の奥様をメロメロに」


「どうやったらそんな伝説が生まれるんだ」


 妹たちが手を挙げた。


「くわえた筆で絵具のコップを倒して割ったって言ってた」


「くわえたクッキーで三人の奥さんを泣かしたって言ってた。怖かったらしいよ。夜中にクッキーを食らうパパが」


「事実かよ」


 思わず頭を抱える。


「親父の間封じってそんなにすごいのか?」


「とってもすごいです。しかし、殺生刀には敵わないでしょう」


「殺生刀。宇宙から来た間の者か?」


 綱子ちゃんがうなずく。


「先日、南斗星君が生田に来た際にくっついてきたそうなの」


「なんだって」


「恐らくムジナの魂に呼応したのよ。ここに落ちたものの狐は私たち刀の一族の退治を恐れて刀の形に変化した。正直、何をするつもりわかりません」


「前向きにろくなことではないよな」


 どうしたものか。


「昔、狐が現れた際、天下人に取り入って、戦国乱世をかき回したと言います」


「しかし、英雄の中には安倍あべの晴明きよあきもいたそうだね」


「狐とのハーフの英雄ですよね、皓人」


「武者小路さんの資料によると母親が狐だったらしい。どこをどう間違ったのか知らないけど、英雄になったんだよな。晴明も」


「英雄ですか」


「英雄だよ」


 僕は綱子ちゃんを見つめた。


「やめてください、そんなに見られたら、私、私、鼻に穴が開きます」


「誰もだよ!」


 どうしたものか。


「僕の父親はどんな人だったんだろう」


「それはどういった?」


「僕は父親の顔を知らない」


「それは悲しいですね」


「体が弱かったらしいから、会ってみたかったな」


「病気ですか。浮気する種類の病気ですか」


「君は手厳しいな」


「浮気はいけません。浮気と書いて本気と読みます」


「それは恐ろしいな」


「ええ。正妻は大事にしなければなりません」


「それはそうだろうな」


「見せしめを加えなくてはなりません」


「誰に」


「皓人、あなたにです。私というものがありながら」


「君が僕の正妻か!」


 なんだろう、胸がドキドキする。


「大声でそんなこと言わないでください。恥ずかしいじゃありませんか」


「君が言っていることも相当恥ずかしい」


 綱子ちゃんは僕を締め上げた。


「大声で言ってはいけません」


「しかし、小声では聞こえない」


「聞こえなくてもいいの。私の耳が腫れるまで囁いて」


「時間がかかるよ」


 僕らは息を吐いた。


「とにかく海美の送別会だ」


「盛り上がります」


 向こうから真里菜ちゃんがやってきた。


「皆さんお肉とトウモロコシが焼けましたよ~」


「今行く」


「真里菜、バーベキューとは何?」


「串にさして焼いた野菜と肉だ」


 野菜は遅れているが。勅使河原君たちの買い出しだ。


「や、焼き鳥」


「牛肉が多い」


「ぎゅ、牛肉!!」


 綱子ちゃんが走って行く。


 それを見計らって海美は僕の手を握った。


「皓人。皓人! 空美の事をどう思う」


「どうした、急に。海美」


「あなたは姉さんの事をどう思う?」


「大事な人だ」


 いまでも。会いたいくらい。いつでも会いたいくらい。


「大事な人だったのか」


「ああ」

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