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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第三章 旧校舎ときつねの物語
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会えない人

 水曜日の事だった。


 勅使河原くんと、海美と一緒に由里さんの家に出かけた。

 由里さんの家には年老いた母親がいた。


「娘はね、遭難したんですよ。雪山でした。今頃の季節でした。あの子の姉はずっと帰ってくると言い張ってね」


 当時を思い出したのか涙ぐむ。


「お姉さんはどこに」


「サヌキの方に。絵をかくのが好きな子でいつも狐の絵ばかり。由里がね。好きだったんですよ」


 勅使河原君が手を挙げた。


「質問があります。狐を見たという話は」


「ああ、狐。由里は遭難する一週間前に狐のお化けを見たって騒いでいました。馬鹿なことを言っているって私たしなめたんです。こんなことになるのなら、認めてあげればよかった」


「娘さんはその狐の事を何と?」


「怖い狐で、みんなをあの世に連れて行こうとしていると言っていました。私が守らなければならないと息巻いていました」


「それで、その狐は」


「どうなったのかわかりません」


 勅使河原君はメモをめくった。


「海美さん。何かわかったか?」


「何とも言えないな」


 どうしたものか。


「狐の幽霊か……そんなものがいるのかな。勅使河原君」


「いないのか? 僕は幽霊を信じるぞ。みんなを呪い殺そうとしていたんだ。彼女は雪山でそいつと戦って果てたんだ。佐伯はどうだ」


「僕は信じないけどね」


 海美は勅使河原君に賛同した。


「私様は勅使河原に賛同する。幽霊を信じてもいいかもしれない」


「だろ、だろ。横志摩。気が合うな」


「気が合う」


 勅使河原君と海美は意気投合している。


 海美は勅使河原君たちと仲が良くなった。昨日は琴ちゃんの家に遊びに行った。


 そこで柳瀬君と今回の事件の話をしたらしい。相当盛り上がったらしい。


 海美、人に影響を受け過ぎだ。


「僕だけ取り残されている気がする」


「取り残されていない。私様は私様なりに調べているだけだ。妹の気持ちならわかるのだ。現在、遭難した妹の気持ちになってみている。完璧だ。完璧なトレースだ」


「黙れ、演劇部」


 妹の気持ちね。


「それでなにかわかったか、海美」


「あの校舎には幽霊がいる!」


「そんな馬鹿な! それは勅使河原君の希望だ」


「勅使河原君の希望を叶えたい」


「どうしてだ」


「王子様扱いしない!」


「王子様扱いしたっていいじゃないか」


「あなただってお姫様扱いされたいか!」


 僕は自分を棚に上げるぞ、前向きに。


「海美、人にされて嫌なことはするな」


「お前こそ、皓人」


「海美」


「皓人~!」


 僕らはいつものように抱き合った後、沈黙した。そうは言っても。


「幽霊なんていないって紳一郎さんが言うんだ。出会ったこともない」


「紳一郎は時々、嘘をつく」


 当然のように叫ぶ海美。


「空美は、姉をもうあきらめろと、もう帰ってこないとあの男は言う。空美が帰ってくることを望んでいないと。あの男は嘘つきだ!」


 拳を固めて叫ぶ海美。

 かなり勅使河原君たちに影響されている。


「空美が帰ってこないのは赤雪姫に乗っ取られたからだ。もう帰らない」


 勅使河原君は何の話をしているかよくわからない顔をしていた。にこにこ笑っている。


「僕は今までたくさんの幽霊を見てきたよ。横志摩はそれに賛同してくれるんだ」


 それはきっと間の者だなんて言えないし、否定する材料もない。勅使河原君は幽霊を見たことがあるのかもしれない、本当に。


「死人が化けて出るなんて非現実的だ、勅使河原君」


「どうしてそう思う」


「人は消えたらそこで終わりだ」


「佐伯はロマンがないな。僕は幽霊に会いまくりだぞ」


 僕は下を向いた。幽霊か、いたら会いたいものだ。


「空美の幽霊に会いたい」


 海美が顔色を変えた。


「空美は死んでない!!」


「だけど」


 だけど似たようなものだ。もう永遠に会えないのだから。


「馬鹿なことを言うな」


「空美は赤雪姫に乗っ取られているだけだ……」


 僕は指を握りしめる。


「そう。死んでいないんだ。でも会えないよ。もう」


 海美は泣きそうな顔をした。


「皓人。お姉ちゃんはきっと帰ってくる。帰ってくるよ、皓人。だから、約束をあきらめないで。私様とお前で何とかしようよ」


 僕らは手を握り合った。


 空美。


 いつか帰ってくる。帰ってこい。そう呟いて僕は目を閉じた。

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