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変態オオカミと忘れた君 ラストワンダーランド  作者: 新藤 愛巳
第三章 旧校舎ときつねの物語
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少女と絵筆と妖怪と

 時の糸を読む作業はひどく疲れる。結局、僕は旧校舎の記憶を読むことにした。


 僕の能力はサイコメトリーの亜種だ。物質に眠っている過去の情報を探り出し読みとって本にするだけの能力だ。そしてそれを改定するのが僕の狼の力である。


 僕は依然、海美を助けようとしてすっころんで満月狼にかまれたことがある。満月狼は狂暴で破壊的で、横志摩の一族を滅茶苦茶にした。その時、僕は立ち向かい、結局、勝利を収めることはできなかった。


 逃がしたのだ。海美は呟く。


「真っ暗狼を倒すことが出来たのは相手がムジナだったからだ。化けるしか能のないムジナが牙を持ったところでその使い道がわからなかったんだろう」


「僕は充分恐怖を感じたぞ。強かったよ。死ぬほど」


 攻撃も激しかった。死ぬかと思ったのも一度や二度ではない。


「だから私様がいれば簡単だったのだ。二三発防いで一気に止めを」


「いなかったくせに」


 海美は頬を掻いた。


「私様はいつも忙しい。ヒルメのお膝元を守っているんだからな。それにな」


「それに」


「皓人。お前は経験を積まなければならない」


「経験って」


「でなければ赤雪姫から空美を取りかえせない。お前の望む形で」


「海美」


「私たちは運命共同体だ。それを忘れるな。私たちの最終目標だってお前は言ったよな」


「ああ」


 海美の目が一瞬、優しくなった。


「私はあなたを信じている」


「ああ」


「今回の件も一緒に答えを探そう」


「ああ」


 僕は海美の肩を掴んだ。


「海美。今度こそ僕が守るから」


「うん。期待しないでいてやるよ。皓人」


 海美は僕のワンダーランドに突っ伏して寝始めた。


 その背中には大けがの跡がある。一つ目は満月狼だ。海美は本物の満月狼の攻撃を防ぎきれなかったのだ。そして二つ目が、赤雪姫。赤雪姫は空美を取り戻そうとする僕らを許さなかった。僕は馬鹿の一つ覚えのように挑み、海美はそれをかばった。


 僕は後悔している。女の子の柔肌を傷つけてしまうなんて。


 一生責任を持たなければと思ったこともあったが、海美はそんな気持ちでいられると困ると言った。

 何度も話し合ったが答えは見えなかった。


 僕は手に入れた生田中学の資料を並べた。


 過去のアルバム。現在のアルバム。過去の住所録、現在の住所録。旧校舎の資料。山之上由里さんの資料。全てを並べて僕は糸を呼びだす。


 この時代の卒業文集は川柳だったのか。よき時代だ。


【会えずとも 今は心に 君がいる】【一人でも 強く心に 生きていく】


 美しい。やはり川柳は美しい。いろんな情報を調べていく。


 由里さんが遭難したのは誕生日の前日だ。


 僕は長く糸をさかのぼる。


 そして、たどり着く。黄色い糸に。黄色は妄執だ。その瞬間、糸が弾けた。僕はのけぞる。

なんだったんだ、これはなんなんだ。こんなの初めてだ。意志のない物を読んでいたはずなのに。その中に意志が混じっていた。


 人の意志のようなものが混じっていた。これが間の物か?

 それとも幽霊。


 妖怪を見た子は王子様タイプの子ばかりだ。余命がなかったって。

 一人目は遭難。二人目は交通事故。三人目は病死。四人目は転落。五人目は神隠し。


 その違いはなんだ。


「一体どうなっているんだ」


 由里さんの家に行ってみなければ。


 海美は片目を上げた。


「情報収集に行くぞ、皓人。何か読めたか?」


「妖怪と、少女と、絵筆」


「それがなにになるんだ」


「まだわからないが、一緒に行こう。海美。この事件、お前にかかっている」


「どうかかっているんだ」


 僕は深呼吸した。


「川柳部の先生に電話をかける」


「あの先生は何も知らないよ、皓人。私様にはわかる」


「この手順は必要なことなんだよ。僕を信頼しろ」


 僕らは資料の山を段ボール箱に戻した。後で勅使河原君たちにも手伝ってもらおう。

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